CBN(カンナビノール)の科学的エビデンス総まとめ|睡眠・神経保護・抗菌作用の最新研究

この記事のポイント
✓ CBNの睡眠効果を示す臨床試験データが2025〜2026年に複数発表されている
✓ 神経保護・抗菌・抗炎症など、睡眠以外の薬理作用も前臨床研究で確認されている
✓ 日本では2026年2月中旬に指定薬物化の省令公布が予定されている
CBN(カンナビノール)は、「睡眠カンナビノイド」として注目を集めてきたレアカンナビノイドです。大麻草に含まれるTHC(テトラヒドロカンナビノール)が酸化・分解されることで生成されるこの成分は、穏やかな鎮静作用を持つとされ、世界中で研究が進んでいます。
一方、日本では厚生労働省がCBNの指定薬物化を決定し、2026年2月中旬の省令公布が予定されています。規制の動きが加速するなかで、CBNに関する科学的エビデンスはどこまで蓄積されているのでしょうか。本記事では、2024年から2026年にかけて発表された最新の査読済み論文を中心に、CBNの薬理作用と臨床的エビデンスを体系的にまとめます。
目次
CBNとは?THCから生まれるレアカンナビノイド
CBN(カンナビノール、Cannabinol)は、大麻草に含まれる100種類以上のカンナビノイドのひとつです。興味深いことに、CBNは大麻草が直接生合成する成分ではありません。THCが光や熱、酸素にさらされることで酸化・分解された結果として生成される「分解産物」です。そのため、古くなった大麻や長期間保管された大麻にはCBNが多く含まれる傾向があります。
CBNの化学構造はTHCと類似していますが、精神活性作用は大幅に弱いとされています。THCの約10分の1程度の精神活性しか持たないとする研究報告が多く、エンドカンナビノイドシステム(ECS)におけるCB1受容体への結合親和性もTHCと比べて低いことが知られています。一方で、CB2受容体に対してはTHCと同等の親和性を示すとされ、免疫調節や抗炎症作用への関与が示唆されています。
CBNは歴史的にも重要なカンナビノイドです。1896年にWood らによって大麻から初めて単離された成分であり、カンナビノイド研究の出発点ともいえる存在です。しかし、長年にわたって「不活性な分解産物」とみなされ、本格的な研究が進んだのはここ数年のことです。
CBNの睡眠効果|臨床試験が示すエビデンス
CBNが「睡眠カンナビノイド」と呼ばれるようになった背景には、古くからの経験的知見があります。熟成した大麻を使用すると眠気を感じやすいという報告は以前からありましたが、それがCBNによるものなのかは長らく不明でした。近年、この問いに答えるための臨床試験がようやく進み始めています。
2026年:Suraevらの不眠症RCT
2026年にJournal of Sleep Researchに発表されたSuraevらの研究は、不眠症患者を対象とした画期的なランダム化比較試験(RCT)です。この試験では、薬局グレードのカンナビノイド製品を使用し、カンナビスをほとんど使用しない不眠症患者を対象に、高密度脳波計(HD-EEG)を用いて睡眠構造への急性効果を測定しました。その結果、CBNを含む製品の投与後にREM睡眠の減少が確認され、カンナビノイドが睡眠構造に直接影響を与えることが客観的に示されました。
2025年:Hausenblasらのサブスレッショルド不眠症試験
2025年にHealth Science Reportsに掲載されたHausenblasらの研究は、閾値下の不眠症状(診断基準を完全には満たさないが睡眠に問題を抱える状態)を持つ成人を対象としたランダム化二重盲検プラセボ対照クロスオーバー試験です。CBDとCBNを組み合わせたサプリメントの効果が検証され、睡眠の質と気分の両方に対する改善効果が報告されています。
2023〜2024年:基盤となる研究成果
これらの最新RCTの基盤となったのが、2023年に発表された複数の研究です。Journal of Cannabis Researchに掲載された二重盲検RCTでは、1,000人以上の被験者を対象にCBN 50mgの効果が検証されました。結果として、CBN 50mg群はプラセボ群と比較して有意な睡眠改善を示し、メラトニン4mgと同等またはそれ以上の効果が確認されました。
また、シドニー大学のランバート・イニシアチブが主導するCUPID試験(CBN 30mgおよび300mg投与の二重盲検プラセボ対照クロスオーバー試験)のプロトコルがBMJ Openに発表され、本格的な用量反応関係の解明が進められています。
ラットを用いた睡眠構造の解明
2024年にNeuropsychopharmacology(Nature系列)に発表された前臨床研究では、ポリソムノグラフィー(脳波・筋電図・眼球運動を同時に記録する手法)を用いてCBNがラットの睡眠構造に与える影響が詳細に分析されました。注目すべきは、CBNが二相性の効果を示したことです。投与直後には一時的な睡眠抑制が観察されましたが、その後に総睡眠時間の顕著な増加が確認されました。さらに、CBNの活性代謝物も睡眠促進に寄与していることが明らかになり、CBNの睡眠効果のメカニズム理解が大きく前進しました。
睡眠以外のCBNの薬理作用
CBNの研究は睡眠分野に集中しがちですが、前臨床研究ではそれ以外にも多彩な薬理作用が報告されています。2024年にIndustrial Crops and Products誌に掲載された包括的レビューは、CBNの多面的な薬理プロファイルを体系的にまとめた重要な文献です。
神経保護作用
ソーク研究所(Salk Institute)の研究チームは、CBNがミトコンドリア機能を保護することで神経細胞の死を防ぐ可能性があることを2024年に報告しました。具体的には、CBNの化学構造に基づいて設計された4種類のアナログ化合物が、アルツハイマー病やパーキンソン病、外傷性脳損傷(TBI)の前臨床モデルにおいて神経保護効果を示しました。
さらに、InMed Pharmaceuticals社が実施した緑内障プログラムの前臨床研究では、CBNがCBDやTHCを含む複数のカンナビノイドの中で最も優れた神経保護効果を発揮したことが報告されています。緑内障における眼圧低下作用とあわせて、眼科領域での応用可能性が注目されています。
抗菌作用
2008年に発表された研究では、CBNを含む複数のカンナビノイドがメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)に対して「強力な活性」を示すことが確認されました。抗生物質耐性菌への新たなアプローチとして、カンナビノイドの抗菌活性は現在も研究が続いています。CBNは特にグラム陽性菌に対して効果的である可能性が指摘されていますが、ヒトでの有効性を示す臨床試験はまだ行われていません。
抗炎症作用と食欲増進
前臨床モデルにおいて、CBNは炎症の原因となる物質(炎症性メディエーター)の産生を抑制し、活性酸素種(ROS)を除去することで酸化ストレスを軽減する効果が報告されています。また、ラットを対象とした研究では食欲増進効果も確認されており、食欲不振を伴う疾患への応用が期待されています。
🔬 CBNの前臨床研究で確認されている主な薬理作用
神経保護: ミトコンドリア機能の保護、アルツハイマー・TBI前臨床モデルで効果確認
抗菌: MRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)に対する活性
眼圧低下: 緑内障の動物モデルで眼圧降下作用を確認
抗炎症: 炎症性メディエーターの産生抑制、活性酸素の除去
食欲増進: ラットモデルで食欲刺激効果を確認
抗痙攣: 痙攣の頻度と強度を抑制する効果が報告
これらの作用はいずれも前臨床研究(細胞実験・動物実験)の段階であり、ヒトを対象とした大規模臨床試験による検証はこれからの課題です。とはいえ、CBNが単なる「睡眠サプリメントの原料」にとどまらない、多面的な治療ポテンシャルを持つカンナビノイドであることは、蓄積された研究データが示しています。
CBNとCBD・THCの比較
CBNの特性を理解するためには、より広く知られているCBDやTHCとの違いを把握することが重要です。以下の比較表は、3つのカンナビノイドの主要な特性をまとめたものです。
| 項目 | CBN | CBD | THC |
|---|---|---|---|
| 生成経路 | THCの酸化分解物 | 大麻草が直接生合成 | 大麻草が直接生合成 |
| 精神活性 | 非常に弱い(THCの約1/10) | なし | 強い |
| CB1受容体親和性 | 低い(部分アゴニスト) | 極めて低い | 高い(部分アゴニスト) |
| CB2受容体親和性 | 中程度 | 低い | 中程度 |
| 主な研究領域 | 睡眠、神経保護、抗菌 | てんかん、不安、炎症 | 疼痛、食欲増進、悪心 |
| 臨床試験の段階 | 初期段階(パイロットRCT) | 進行中(FDA承認薬あり) | 進行中(承認薬あり) |
| 日本での法的地位(2026年2月時点) | 指定薬物化予定 | 合法(THC残留限度値以内) | 違法 |
CBDはエピディオレックス(Epidiolex)としてFDA承認を受けた実績があり、臨床エビデンスの蓄積では大きく先行しています。一方、CBNは臨床試験が始まったばかりの段階にありますが、睡眠分野においてはCBDよりも有望な結果を示す研究報告もあります。実際、2025年にNORMLが報告したメタ分析では、THCおよびCBNを含む製剤のみがプラセボと比較して主観的睡眠評価の有意な改善を示し、CBD単独ではその効果が見られなかったとされています。
日本における規制の最新動向
日本では2024年12月12日に改正大麻取締法が施行され、従来の「部位規制」から「成分規制」への大きな転換が行われました。THCの残留限度値が設定され、それを超えない大麻由来製品の流通が可能になる一方、CBNについては別の動きが進んでいます。
山梨学院大学レスリング部員がCBN 1000mg含有クッキー摂取後に錯乱、転落事故で重傷
業界団体が共同自主規制宣言を発表、CBN製品の安全確保に向けた取り組みを開始
厚労省の薬事審議会指定薬物部会がCBNの指定薬物化を答申
パブリックコメント募集期間(当初11月27日まで→12月28日まで延長)
省令公布予定。公布後10日で施行され、CBNの製造・輸入・販売・所持・使用が禁止に
指定薬物に指定された場合、CBNを含む製品は薬機法(医薬品医療機器等法)の規制下に置かれます。医療・研究目的以外でのCBNの製造、輸入、販売、授与、所持、使用はすべて禁止され、違反した場合は3年以下の懲役または300万円以下の罰金が科される可能性があります。年間約100億円ともいわれる国内CBN市場に大きな影響が及ぶことは避けられません。
規制と科学的エビデンスの乖離
CBNの指定薬物化をめぐっては、科学的エビデンスと規制判断の間に乖離があるとの指摘が多くあがっています。厚生労働省は薬事審議会において、CBNに「精神毒性を有する蓋然性が高い」と結論づけましたが、その根拠となった科学的データの妥当性については議論が続いています。
まず、規制のきっかけとなった2025年5月の山梨学院大学の事故については、摂取されたCBN量が1,000mgと通常の使用量を大幅に超えていたこと、事故の2日前に飲酒があったとの報道があること、そして厚労省自身が「CBNと健康被害の因果関係の証明は困難」と認めていることに注目する必要があります。
一方、国際的なエビデンスを見ると、CBNの精神活性はTHCの約10分の1と極めて弱く、一般的な使用量(5〜50mg)で問題のある精神作用が生じるという臨床試験データは見当たりません。2024年に発表された515人の日本人CBNユーザーを対象とした調査では、80%以上のユーザーでQOL(生活の質)の改善が報告され、深刻な副作用の報告は限定的でした。
カンナビノイド研究の専門家からは、「科学的根拠に基づいた合理的な規制」を求める声があがっています。特に、他国ではCBNを規制対象としていない国が多いなかで、日本が突出した規制を行うことの妥当性について、国際的な整合性の観点からも疑問が呈されています。
FAQ
2023年から2026年にかけて複数のランダム化比較試験が実施され、CBNの睡眠改善効果を支持するデータが蓄積されています。特にCBN 50mg投与群ではプラセボ群と比較して有意な改善が報告されており、メラトニン4mgと同等以上の効果を示した試験もあります。ただし、大規模なフェーズIII試験はまだ行われておらず、エビデンスレベルとしては初期段階です。
厚生労働省はCBNを指定薬物に追加する省令を2026年2月中旬に公布する予定です。公布後10日で施行され、それ以降はCBNを含む製品の製造・輸入・販売・所持・使用が原則として禁止されます。施行日の正確な日付は省令公布時に確定しますが、2026年2月下旬〜3月上旬に施行される見込みです。
CBNはTHCの酸化分解物で弱い精神活性を持ち、主に睡眠・神経保護の分野で研究されています。CBDは大麻草が直接生合成する非精神活性成分で、てんかんや不安、炎症に対するエビデンスが蓄積されています。CBDにはFDA承認薬(エピディオレックス)がありますが、CBNは臨床試験が始まったばかりの段階です。日本の法的地位も異なり、CBDは合法(THC残留限度値以内)ですが、CBNは指定薬物化が予定されています。
まとめ
📝 この記事のまとめ
CBNの睡眠効果は複数のRCTで支持されつつあるが、大規模臨床試験はこれからの課題
神経保護・抗菌・抗炎症など多彩な薬理作用が前臨床研究で確認されている
日本では2026年2月に指定薬物化の省令公布が予定されており、科学的根拠との乖離が議論されている
CBNの研究は、まさに発展途上にあります。2023年から2026年にかけて臨床試験データが急速に蓄積され、「睡眠カンナビノイド」としての評価は経験的な知見から科学的エビデンスへと移行しつつあります。神経保護や抗菌作用といった睡眠以外の領域でも、前臨床研究が有望な結果を示し続けています。
しかし、CBNの臨床研究はまだ初期段階にあり、安全性プロファイルの確立や用量反応関係の詳細な解明は今後の大きな課題です。日本における指定薬物化の決定は、この研究の発展途上にある段階で行われたものであり、規制と科学のバランスについてはさまざまな見解が存在します。今後の研究の進展と国際的な規制動向に引き続き注目していく必要があるでしょう。
参考文献
この記事の関連用語
クリックで用語の詳しい解説を見る
関連記事
この記事を読んだ人はこちらも読んでいます









