CBDは認知症に効果がある?最新研究と予防の可能性を徹底解説

この記事のポイント
✓ 加齢によるエンドカンナビノイドシステムの機能低下が認知症リスクに関連する可能性
✓ 2025年の臨床試験でCBDが血管性認知症の症状を改善したと報告
✓ アルツハイマー病だけでなく、複数の認知症タイプで研究が進行中
✓ 現時点では予防・治療効果は研究段階であり、さらなる臨床試験が必要
認知症は世界中で約5,500万人が罹患しており、高齢化が進む日本でも深刻な社会問題となっています。現在承認されている治療薬は症状の進行を遅らせる効果に限られ、根本的な治療法は確立されていません。そうした中、CBDやその他のカンナビノイドが認知症の予防や症状緩和に効果を持つ可能性について、世界中で研究が進められています。
本記事では、認知症とエンドカンナビノイドシステムの関係から、アルツハイマー病・血管性認知症・レビー小体型認知症それぞれに対する最新研究、そして2025年に発表された臨床試験結果まで、科学的根拠に基づいて解説します。
認知症とエンドカンナビノイドシステムの関係
エンドカンナビノイドシステム(ECS)とは
私たちの体内には、エンドカンナビノイドシステム(ECS)と呼ばれる生理機能調節システムが存在します。ECSは食欲、睡眠、痛み、免疫機能、そして記憶や学習といった認知機能の調節に深く関わっています。このシステムは、体内で自然に産生される内因性カンナビノイド(アナンダミドや2-AGなど)と、それらが結合するカンナビノイド受容体(CB1受容体、CB2受容体)から構成されています。
CB1受容体は主に脳や中枢神経系に多く存在し、神経伝達の調節に関与しています。一方、CB2受容体は主に免疫系の細胞に発現しますが、脳内のミクログリア(脳の免疫細胞)にも存在し、神経炎症の制御に重要な役割を果たしています。
老化に伴うECS機能の低下
複数の研究により、加齢に伴ってECSの機能が低下することが明らかになっています。2012年のBilkei-Gorzoらの研究では、「加齢に伴いカンナビノイド系の活性が低下する」ことが報告され、これが認知機能の低下や神経変性疾患のリスク増加に関連している可能性が示唆されました。
具体的には、加齢によって内因性カンナビノイドの産生能力が低下し、「エンドカンナビノイド欠乏」と呼ばれる状態が生じます。また、脳内のCB1受容体の密度が減少し、シグナル伝達効率が低下することも報告されています。この状態は、認知症だけでなく、慢性疼痛、睡眠障害、不安症など、さまざまな健康問題と関連している可能性があります。
エンドカンナビノイド欠乏と関連が示唆される症状
認知機能低下・記憶障害
慢性疼痛・線維筋痛症
睡眠障害・不眠症
片頭痛
過敏性腸症候群
こうした背景から、外部からカンナビノイドを補うことでECSの機能を補完し、認知機能の維持や認知症の予防に役立つ可能性が研究されています。
CBDと認知症に関する最新研究
基礎研究で示された神経保護効果
CBDは、THCとは異なり精神活性作用を持たないカンナビノイドです。世界保健機関(WHO)は、CBDには乱用や依存の可能性を示唆する効果がないと報告しており、比較的安全性の高い成分として注目されています。
基礎研究レベルでは、CBDがいくつかの神経保護メカニズムを持つことが示されています。2017年の研究では、CBDが酸化ストレスと神経炎症を抑制することで、アルツハイマー型認知症の治療に役立つ可能性があると報告されました。また、CBDはアミロイドβ(認知症の原因物質の一つ)の蓄積を減少させ、タウタンパク質の過剰リン酸化を抑制する効果も示されています。
2024年名古屋大学の画期的発見
2024年、名古屋大学の研究チームは、CB2受容体を刺激することでアルツハイマー病の病理を抑制できることを発見し、『Cell Death & Disease』誌に発表しました。この研究では、CB2受容体の活性化がミクログリアの炎症反応を抑制し、アストロサイト(神経細胞を支える細胞)の病的な活性化を防ぐメカニズムが解明されました。
研究チームは、補体C1qの分泌抑制がこの効果に関与していることを特定し、CB2受容体がアルツハイマー病の新たな治療標的となる可能性を示しました。この発見は、CBDや他のカンナビノイドがCB2受容体を介して認知症の進行を抑制する可能性を示唆しています。
臨床試験の現状
しかしながら、コクランレビュー(医学研究のシステマティックレビュー)によると、認知症治療におけるカンナビノイドの有効性を評価した質の高い無作為化対照試験はまだ限られています。既存の研究の多くは動物実験や小規模な臨床試験であり、カンナビノイドが認知症治療に臨床的に有効かどうかを結論づけるには、さらなる大規模な二重盲検プラセボ対照試験が必要とされています。
認知症タイプ別のカンナビノイド効果
認知症には複数のタイプがあり、それぞれ異なるメカニズムで発症・進行します。カンナビノイドの効果も認知症のタイプによって異なる可能性があります。
| 認知症タイプ | 主な原因 | カンナビノイド研究の状況 |
|---|---|---|
| アルツハイマー型 | アミロイドβ・タウタンパク質の蓄積 | 最も研究が進んでいる |
| 血管性認知症 | 脳血管障害による脳損傷 | 2025年に初の臨床試験結果発表 |
| レビー小体型 | α-シヌクレインの蓄積 | パーキンソン病研究から推測 |
| 前頭側頭型 | 前頭葉・側頭葉の萎縮 | 研究は限定的 |
アルツハイマー型認知症
アルツハイマー型認知症は認知症全体の約60〜70%を占める最も一般的なタイプです。脳内にアミロイドβプラークとタウタンパク質の神経原線維変化が蓄積することで、神経細胞が破壊されて発症します。
ソーク研究所の研究では、THCを含むカンナビノイドがアミロイドβの細胞除去を促進する可能性があることが示されました。また、2024年に発表されたブラジルの臨床試験では、THC-CBD低用量(THC 0.350mg、CBD 0.245mg)を26週間投与した結果、認知機能テスト(MMSE)のスコアがプラセボ群と比較して有意に高く維持されたと報告されています。
血管性認知症
血管性認知症は、脳卒中や慢性的な脳血流低下によって脳が損傷することで発症します。認知症全体の約15〜20%を占め、高血圧や糖尿病などの生活習慣病がリスク要因となります。
2025年12月、ブラジルの研究チームが血管性認知症に対するCBDの効果を調べた初の臨床試験結果を発表しました。この研究では、30名の高齢患者に300mgのCBDまたはプラセボを4週間投与した結果、CBD群で行動・精神症状が有意に改善しました。また、CBDは認知機能に悪影響を与えず、重大な副作用も報告されませんでした。
CBDには血管拡張作用があり、血圧を下げる効果も報告されています。このため、脳への血流を改善することで血管性認知症の予防や進行抑制に寄与する可能性が示唆されています。
レビー小体型認知症
レビー小体型認知症は、脳内にα-シヌクレインというタンパク質が異常に蓄積することで発症します。パーキンソン病と共通の病理を持ち、認知機能障害に加えて幻視、パーキンソン症状、睡眠障害などの特徴的な症状を示します。
レビー小体型認知症に特化した臨床試験はまだ実施されていませんが、CBDがパーキンソン病の症状緩和に効果を示した研究から、レビー小体型認知症にも同様の効果が期待できる可能性があります。特に、CBDの神経保護作用や抗炎症作用は、α-シヌクレインによる神経細胞の損傷を軽減する可能性があると考えられています。
認知症予防とカンナビノイドの可能性
THCの低用量投与と認知機能
興味深いことに、認知機能に悪影響を与えると一般的に考えられているTHCも、極めて低用量での長期投与は老化した脳に対してむしろ保護的に働く可能性が示されています。
Nature Medicine誌に掲載された研究では、THCの低用量長期投与が老齢マウスの学習・記憶障害を改善させることが報告されました。若いマウスでは逆に認知機能が低下したのに対し、老齢マウスではまるで若返ったかのような認知機能の向上が観察されました。
この逆転現象は、老化によってエンドカンナビノイドシステムの活性が低下している脳に対して、外部からのカンナビノイド補充が恒常性を回復させる可能性を示唆しています。ただし、この研究はマウスを対象としたものであり、人間でも同様の効果が得られるかどうかはまだ明らかではありません。
予防的アプローチの可能性
認知症は発症してからでは治療が困難であり、予防が極めて重要とされています。カンナビノイドによる予防的アプローチについては、以下のようなメカニズムが期待されています。
カンナビノイドによる予防メカニズム(仮説)
抗炎症作用: 慢性的な神経炎症を抑制
抗酸化作用: 酸化ストレスから神経細胞を保護
血流改善: 脳への血流を促進
神経新生促進: 新しい神経細胞の生成をサポート
ECS機能の補完: 加齢で低下したECS活性を補う
しかし、これらのメカニズムが人間の認知症予防に実際に有効かどうかは、長期的な臨床試験によって検証される必要があります。現時点では、CBDやその他のカンナビノイドを認知症予防目的で使用することを推奨するエビデンスは十分ではありません。
現在進行中の臨床試験
2025年現在、認知症に対するカンナビノイドの効果を調べる複数の臨床試験が世界中で進行しています。
LiBBY研究(米国)
メリーランド大学医学部を中心とした全米13施設で実施されている「LiBBY研究」は、終末期認知症患者の興奮症状に対するTHC-CBD療法の効果を調べる画期的な臨床試験です。米国国立老化研究所(NIA)の資金提供を受けており、連邦政府が資金提供する初のカンナビノイド認知症研究として注目されています。
この研究では、120名の参加者をTHC-CBD製剤群とプラセボ群に無作為に割り当て、12週間にわたって投与を行います。現在、認知症末期の興奮症状に対してFDAが承認した薬剤は存在せず、この研究が成功すれば新たな治療選択肢となる可能性があります。
ケンタッキー大学研究(米国)
ケンタッキー大学のサンダース・ブラウン加齢研究センターでは、興奮を伴う進行期認知症患者に対する医療大麻の効果を調べる臨床試験が進行中です。研究開始から6ヶ月時点で、「結果は驚くべきもの」とGregory Jicha教授は報告しており、患者の快適さが向上し、他の有害な副作用を持つ薬剤の使用量が減少したとされています。
アルツハイマー病リスク者を対象とした予防研究
ClinicalTrials.govに登録されている研究(NCT05822362)では、アルツハイマー病発症リスクの高い人々を対象に、CBDの予防的効果を調べる試験が計画されています。この研究は、認知症発症前の段階でカンナビノイドによる介入が有効かどうかを検証する重要な試みです。
名古屋大学がCB2受容体のアルツハイマー病治療標的としての可能性を発表
ブラジルでアルツハイマー病×THC-CBD低用量の26週間臨床試験結果発表
血管性認知症に対するCBD臨床試験結果発表(ブラジル)
LiBBY研究開始(米国・全13施設)
ケンタッキー大学で進行期認知症の臨床試験が有望な結果
LiBBY研究の結果発表予定
大規模な第3相臨床試験への発展が期待される
これらの臨床試験の結果が出そろえば、カンナビノイドの認知症に対する効果についてより確実な結論が得られることが期待されます。
FAQ
現時点では、CBDで認知症を「治す」ことができるというエビデンスはありません。研究では症状の緩和や進行の抑制に効果がある可能性が示唆されていますが、根本的な治療法としては確立されていません。認知症と診断された場合は、必ず医師の指導のもとで治療を受けてください。
CBD自体は一般的に安全性が高いとされていますが、他の薬剤との相互作用がある場合があります。特に高齢者は複数の薬を服用していることが多いため、CBD製品を使用する前に必ず医師や薬剤師に相談してください。また、認知症予防効果については科学的に確立されていないため、予防目的での使用は推奨されていません。
THCについては研究結果が複雑です。高用量のTHCは認知機能に悪影響を与えることが知られていますが、極めて低用量(マイクロドーズ)では老齢の脳に対して保護的に働く可能性が動物実験で示されています。ただし、THCは日本では規制対象であり、使用は法律で禁止されています。
日本ではCBDは食品や雑貨として流通しており、医薬品としては承認されていません。そのため、認知症の「治療」目的で使用することは法的にも医学的にも推奨されません。日本で認知症治療を行う場合は、承認された治療薬と医師の指導に従ってください。
認知症の治療は専門医の指導のもとで行うべきです。CBDを補完的に使用したい場合は、必ず担当医に相談してください。特に他の薬との相互作用や、患者の状態によっては適切でない場合があります。まずは標準的な治療を優先し、CBDはあくまで補助的な選択肢として医師と相談の上で検討してください。
まとめ
この記事のまとめ
エンドカンナビノイドシステムは加齢で機能低下し、これが認知症リスクに関連する可能性がある
CBDは血管性認知症の症状改善に効果を示した臨床試験結果が2025年に発表された
アルツハイマー病に対しては、CB2受容体刺激やTHC-CBD低用量投与の効果が研究されている
現時点では認知症の「予防」や「治療」効果は科学的に確立されておらず、さらなる研究が必要
認知症と診断された場合は標準治療を優先し、CBDの使用は必ず医師に相談すること
カンナビノイドと認知症の研究は急速に進展していますが、現時点では予防や治療の効果が科学的に確立されているとは言えません。2025年に発表された臨床試験結果は有望ですが、サンプルサイズが小さく、長期的な効果についてはさらなる検証が必要です。
一方で、LiBBY研究をはじめとする大規模な臨床試験が現在進行中であり、今後数年で認知症に対するカンナビノイドの効果についてより確実なエビデンスが得られることが期待されます。
認知症は本人だけでなく家族にも大きな負担をもたらす疾患です。新しい治療選択肢への期待は理解できますが、現時点では標準的な医療を優先し、カンナビノイドの使用については必ず専門家に相談することをお勧めします。
参考文献
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