線維筋痛症(Fibromyalgia)とは?原因・症状・治療法とカンナビノイド研究の最新動向

線維筋痛症とは
線維筋痛症(Fibromyalgia:FM) は、明確な炎症や組織損傷がないにもかかわらず、全身に持続的な痛みが生じる慢性疼痛疾患です。アメリカリウマチ学会(ACR)の2010年診断基準では、「広範囲の慢性疼痛を主症状とし、疲労・睡眠障害・認知機能低下などを伴う疾患」と定義されています。
日本での有病率は成人の約1.7〜2.1%とされ、推定200万人以上の患者がいると考えられています。男女比では女性が約8割を占め、発症年齢は30〜60歳代に多くみられます。痛みは3ヶ月以上持続し、日常生活に大きな支障をきたすことが特徴です。
主な症状
線維筋痛症の症状は多彩であり、痛み以外にも様々な随伴症状を伴います。
疼痛の特徴
線維筋痛症の中核症状は、身体のあちこちに広がる慢性的な痛みです。痛みの性質は鈍い痛み、焼けるような痛み、刺すような痛みなど多様であり、痛みの部位と程度は日によって変化します。また、日内変動も認められ、朝方に症状が悪化することが多いとされています。
痛みは以下のような要因で悪化することがあります。気候の変動(台風や低気圧の接近、気温変化)などの外的環境要因、感冒などの感染症への罹患、激しい運動、睡眠不足、精神的ストレスなどが代表的な悪化因子です。
随伴症状
痛み以外に、以下のような症状を伴うことが特徴的です。
疲労感・倦怠感 は、休息しても回復しない強い疲労感として現れます。朝起きても疲れが取れない「非回復性睡眠」が典型的です。
睡眠障害 として、入眠困難、中途覚醒、早朝覚醒などがみられます。深い睡眠が得られないため、日中の疲労感や集中力低下につながります。
認知機能障害 は、「フィブロフォグ(線維筋痛症による霧がかかったような状態)」と呼ばれ、集中力低下、物忘れ、思考のまとまりにくさとして現れます。
その他、頭痛、過敏性腸症候群、頻尿、しびれ感、うつ・不安症状なども高頻度で合併します。
原因とメカニズム
中枢性感作
線維筋痛症の主要なメカニズムとして、中枢性感作(Central Sensitization) が考えられています。これは、末梢での痛み刺激が繰り返されるうちに中枢神経系の感受性が亢進し、通常では痛みを感じない刺激でも痛みとして知覚されてしまう状態です。
脳や脊髄における痛みの処理システムが過敏になることで、軽い触覚刺激でも痛みとして感じる「アロディニア」や、痛み刺激をより強く感じる「痛覚過敏」が生じます。
発症要因
線維筋痛症の発症には、複数の要因が関与していると考えられています。
心理的ストレス・トラウマ は、重要な発症契機となります。事故、手術、虐待経験、親しい人の死など、大きなストレスイベントの後に発症するケースが少なくありません。
自律神経の異常 として、交感神経の過剰緊張や副交感神経の抑制が報告されています。これにより、心拍変動の低下や起立性低血圧などの自律神経症状を伴うことがあります。
神経伝達物質の変化 も重要な因子です。セロトニン、ノルアドレナリン、ドーパミンなどの神経伝達物質の減少や、痛みを増幅するサブスタンスPの増加が報告されています。
遺伝的素因 については、一部の患者では家族内発症が認められ、感受性に関わる遺伝子多型が示唆されています。
診断
診断基準
線維筋痛症の診断は、主に症状に基づいて行われます。血液検査や画像検査で特異的な異常所見は認められないため、これらの検査は他の疾患との鑑別のために行われます。
1990年のACR診断基準では、以下の条件が用いられていました。広範囲にわたる疼痛(体の左右両側、上半身と下半身、体軸部)があること、触診で18カ所の圧痛点のうち11カ所以上に圧痛が認められること、3ヶ月以上継続する慢性疼痛であることが基準とされていました。
2010年の改訂基準では、圧痛点検査に代わり、広範囲疼痛指数(WPI)と症状重症度スケール(SS)を用いた評価が導入されています。
鑑別診断
線維筋痛症と類似した症状を呈する疾患との鑑別が重要です。関節リウマチ、全身性エリテマトーデス、シェーグレン症候群などの膠原病、甲状腺機能低下症、ビタミンD欠乏症、睡眠時無呼吸症候群などが鑑別対象となります。
従来の治療法
薬物療法
線維筋痛症に対しては、通常の鎮痛薬(NSAIDs)やステロイドは原則として効果が乏しく、慢性的な使用は推奨されません。中枢神経系に作用する薬剤が治療の中心となります。
日本では、2012年6月にプレガバリン(リリカ)、2015年5月にデュロキセチン塩酸塩(サインバルタ)が線維筋痛症に対して保険適用となりました。
プレガバリン は、カルシウムチャネルα2δサブユニットに結合し、興奮性神経伝達物質の放出を抑制することで鎮痛効果を発揮します。副作用として眠気、めまい、体重増加などがあります。
デュロキセチン は、セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(SNRI)であり、下行性疼痛抑制系を増強することで鎮痛効果を発揮します。うつ症状の改善にも有効です。
その他、三環系抗うつ薬(アミトリプチリンなど)、トラマドール、ミルナシプランなども使用されることがあります。
非薬物療法
近年では、薬物療法と非薬物療法を組み合わせた多面的アプローチが推奨されています。
運動療法 として、有酸素運動やストレッチを軽度から漸増的に行うことが推奨されています。ウォーキング、水中運動、ヨガ、太極拳などが有効とされています。
認知行動療法(CBT) は、痛みに対する認識や行動パターンを修正することで、痛みへの対処能力を高めます。
患者教育 も重要であり、患者とその家族が線維筋痛症に関する正確な知識を得ることが治療の基盤となります。
カンナビノイドによる治療研究
研究の現状
線維筋痛症に対するCBD(カンナビジオール)やカンナビノイドの効果については、近年多くの研究が行われています。2024年に発表されたシステマティックレビューでは、カンナビノイド製剤が痛み、睡眠、生活の質の改善に寄与する可能性が示唆されています。
CANNFIB試験(2024年)の結果
デンマークで実施されたCANNFIB試験は、線維筋痛症に対するCBD単剤の効果を検証した二重盲検ランダム化比較試験です。患者にCBD 50mg/日またはプラセボを24週間投与し、疼痛強度の変化を評価しました。
結果として、CBD 50mg/日の投与はプラセボと比較して疼痛強度の有意な改善を示しませんでした。この結果は、CBD単剤では線維筋痛症の疼痛管理に十分な効果が得られない可能性を示唆しています。
THC/CBD併用製剤の研究
一方、THCとCBDを含む大麻由来製剤(Cannabis-Based Medicinal Products:CBMPs)については、より肯定的な結果が報告されています。
2024年に発表された英国のコホート研究では、線維筋痛症患者にCBMPs(オイルおよびドライフラワー製剤)を投与し、1、3、6、12ヶ月後の転帰を評価しました。その結果、44%の患者で線維筋痛症影響質問票(FIQR)スコアの改善、33%の患者で睡眠の質(PSQI)の改善が認められました。また、約半数の患者で不安・うつ症状の改善がみられ、約半数の患者で併用鎮痛薬の減量または中止が可能となりました。
課題と限界
現時点での課題として、以下の点が挙げられています。
まず、質の高いエビデンスが限られていることです。既存の研究の多くはサンプルサイズが小さく、研究デザインにも限界があります。
次に、最適な投与量や製剤が確立されていないことです。THCとCBDの比率、投与経路(経口、吸入、局所など)によって効果が異なる可能性があります。
また、長期的な安全性データが不足していることも課題です。線維筋痛症は慢性疾患であるため、長期使用における安全性の確認が重要です。
米国FDA(食品医薬品局)は現時点でCBDを線維筋痛症の治療薬として承認していません。今後、大規模で質の高い臨床試験の実施が求められています。
日本での状況
日本では、線維筋痛症に対するカンナビノイド製剤は承認されていません。2024年12月の改正大麻取締法により大麻由来医薬品の使用が法的に可能となりましたが、線維筋痛症への適応を持つ製剤の承認時期は未定です。
現時点では、プレガバリンやデュロキセチンを中心とした薬物療法と、運動療法・認知行動療法などの非薬物療法を組み合わせた治療が標準的なアプローチとなっています。
線維筋痛症の診療は、リウマチ科、ペインクリニック、心療内科、神経内科などで行われています。症状が疑われる場合は、早期に専門医を受診することが重要です。
まとめ
線維筋痛症は、全身に慢性的な痛みが生じる疾患であり、日本では推定200万人以上が罹患しています。中枢性感作がその主要なメカニズムと考えられており、疲労感、睡眠障害、認知機能障害などの随伴症状を伴います。
治療にはプレガバリンやデュロキセチンなどの薬物療法と、運動療法・認知行動療法などの非薬物療法を組み合わせた多面的アプローチが推奨されています。
カンナビノイド製剤については、THC/CBD併用製剤で一定の効果が報告されていますが、CBD単剤の効果は限定的である可能性が示唆されています。今後のさらなる研究が期待されています。
参考文献
- 線維筋痛症 - MSDマニュアル プロフェッショナル版
- 線維筋痛症とは - 済生会
- 線維筋痛症 - 日本リウマチ財団
- Effectiveness and safety of cannabis-based products for fibromyalgia - PMC
- CANNFIB Trial - ClinicalTrials.gov
- 厚生労働省 - 線維筋痛症について
免責事項: この記事は情報提供を目的としており、医学的アドバイスを構成するものではありません。線維筋痛症の治療に関する判断は、必ず専門の医療従事者にご相談ください。カンナビノイド製剤は日本では現在承認されていない治療選択肢を含みます。
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