トランプ大統領が大麻スケジュールIII再分類の大統領令に署名―メディケアCBDパイロットプログラムも発表

この記事のポイント
✓ トランプ大統領が12月18日、大麻スケジュールIII再分類の大統領令に署名
✓ メディケア加入者向けCBDパイロットプログラムを発表(年間500ドル、2026年4月開始)
✓ 50年以上ぶりの連邦大麻政策の大転換だが、嗜好用の合法化ではない

2025年12月18日、トランプ大統領は大麻の連邦規制を大幅に緩和する大統領令に署名しました。この「医療用マリファナおよびカンナビジオール研究の促進」と題された大統領令は、大麻をスケジュールI(ヘロインと同分類)からスケジュールIII(ケタミンやコデイン配合鎮痛剤と同分類)へ再分類するプロセスを加速させるものです。同時に、メディケア加入の高齢者向けにCBD製品の費用を年間最大500ドル補助するパイロットプログラムも発表されました。これは1970年の規制物質法制定以来、50年以上ぶりの連邦大麻政策における最も重要な転換点となります。
目次
大統領令の全体像
トランプ大統領は署名式において「この命令はいかなる形でも大麻を合法化するものではなく、嗜好用薬物としての使用を認めるものでもない」と明言しました。しかし、この大統領令は医療研究の促進と患者アクセスの改善に向けた重要な一歩となります。
大統領令には主に3つの柱があります。第一に、司法長官に対し、大麻のスケジュールIII再分類に関する規則制定プロセスを「連邦法に従い、最も迅速な方法で」完了させるよう指示しています。第二に、ホワイトハウスのスタッフに対し、ヘンプ由来CBD製品の規制フレームワークを整備するため、議会と協力するよう求めています。第三に、保健福祉省(HHS)に対し、リアルワールドエビデンスを活用した研究手法を開発し、CBD製品へのアクセス改善と臨床基準の確立を進めるよう指示しています。
大統領令の3つの柱
1. スケジュール再分類: 司法長官にスケジュールI→IIIへの移行を迅速化するよう指示
2. CBD規制整備: ホワイトハウスと議会がヘンプ由来CBD製品の規制フレームワークを策定
3. 研究促進: HHS、FDA、NIHが連携してCBD研究と臨床基準を整備
スケジュールIII再分類の詳細
大統領令は、パム・ボンディ司法長官に対し、1年以上続いてきた正式な再分類プロセスを完了させ、大麻をスケジュールIIIに移行させる最終規則を公布するよう指示しています。
スケジュールIII薬物とは、「治療において現在認められた医療用途があり」、スケジュールI物質よりも乱用の可能性が低いものと定義されています。大統領令は、保健福祉省が既に、43の法域で30,000人以上の認可された医療従事者が600万人以上の登録患者に対し、少なくとも15の症状に対して医療大麻を推奨している事実を確認していると指摘しています。
| 項目 | スケジュールI(現状) | スケジュールIII(移行後) |
|---|---|---|
| 医療用途 | 認められていない | 認められている |
| 乱用の危険性 | 最も高い | 中程度 |
| 同分類の薬物例 | ヘロイン、LSD | ケタミン、コデイン配合薬 |
| 税控除(IRC 280E) | 事業経費控除不可 | 通常通り控除可能 |
| 研究規制 | 非常に厳格 | 緩和される |
スケジュールIIIへの移行が実現すれば、大麻事業者にとって最大の恩恵は内国歳入法第280E条の適用除外です。現行法では、スケジュールI・II薬物を扱う事業者は売上原価以外の事業経費を控除できず、実効税率が70%を超えるケースもあります。再分類により、他の事業と同様の税控除が認められることになります。
メディケアCBDパイロットプログラム
今回の大統領令で最も注目すべき新施策が、メディケア加入者向けのCBDパイロットプログラムです。メディケア・メディケイドサービスセンター(CMS)長官のメフメット・オズ(ドクター・オズ)は署名式で、「医師が推奨するCBD製品を、早ければ来年4月から無料で受け取れるようになる」と発表しました。
トランプ大統領が大統領令に署名
メディケアCBDパイロットプログラムを発表
パイロットプログラム開始予定
対象者への補助金支給開始
効果検証後、対象条件・対象者の拡大を検討
メディケイド加入者への拡大も視野
プログラムの対象となるのは、メディケアおよびメディケア・アドバンテージ(民間保険会社運営)の加入者です。対象者は、一定の安全性・品質基準を満たすヘンプ由来CBD製品に対し、年間最大500ドルの補助を受けることができます。対象製品は、すべての地方・州法に準拠し、合法的な供給源から調達され、CBD含有量と汚染物質について第三者機関の検査を受けている必要があります。
オズ長官によると、メディケア・アドバンテージを提供する民間保険会社も「3,400万人の加入者に対してCBDを検討することに同意している」とのことです。また、「効果が実証されれば、より多くの症状への適用拡大や、メディケイド受給者への拡大も検討する」と述べています。
メディケアCBDパイロットプログラムの概要
対象者: メディケアおよびメディケア・アドバンテージ加入者
補助額: 年間最大500ドル
開始時期: 2026年4月1日予定
対象製品: 第三者検査済みのヘンプ由来CBD製品
条件: 医師の推奨が必要
ヘンプ・CBD製品の規制フレームワーク
大統領令は、ヘンプ由来CBD製品の規制整備についても重要な方針を示しています。現在、ヘンプ由来CBD製品にはFDAの明確な規制経路がなく、消費者保護の観点から課題がありました。
ホワイトハウスのファクトシートによると、「米国成人の5人に1人、高齢者の約15%が過去1年間にCBDを使用した」と報告されています。慢性疼痛を抱える患者の多くがCBD使用による改善を臨床研究で報告していますが、製品の品質や安全性は玉石混交の状態でした。
大統領令は、大統領副首席補佐官に対し、議会と協力して「アメリカ人が適切なフルスペクトラムCBD製品の恩恵を受けられるようにしながら、深刻な健康リスクをもたらす製品の販売を制限するという議会の意図を維持する」ためのヘンプ由来カンナビノイド製品の法的定義の更新を指示しています。また、各機関は「1回あたりのTHC含有量の上限」を設定する規制を策定することが求められています。
市場と業界への影響
大統領令の署名を受け、大麻関連株は急騰しました。この数日間で主要大麻銘柄は大幅に上昇しています。
大麻業界にとって、スケジュールIII再分類の最大のメリットはIRC 280E条からの解放です。これにより、大麻事業者は他の合法事業と同様に事業経費を税控除できるようになり、収益性が大幅に改善される見込みです。また、研究規制の緩和により、大麻由来医薬品の開発が加速することも期待されています。
さらに、メディケアCBDパイロットプログラムの発表は、CBD産業にとって大きな追い風となります。連邦政府が公的医療保険でCBD製品をカバーすることは、CBD製品の正当性を大きく高めることになります。
業界への主なメリット
税負担軽減: IRC 280E条の適用除外で実効税率が大幅に低下
研究促進: スケジュールIII薬物として研究規制が緩和
銀行アクセス: 金融機関との取引が容易に
CBD市場拡大: メディケアカバーにより需要増加
専門家の見解と懸念点
大統領令に対しては、専門家から様々な意見が寄せられています。
カンナビノイド専門家協会のジョーダン・ティシュラー会長は、メディケア提案を「せいぜい大げさなパフォーマンス」と批判しました。ティシュラー氏は「現在の案は、人間のデータがほとんどないカンナビノイドのみをカバーし、数十年にわたる良質な人間研究があるTHCはカバーしない」と指摘しています。
一方で、安全性に関する懸念も提起されています。FDAが資金提供した最近の研究では、長期的なCBD使用が肝毒性を引き起こす可能性があることが示唆されています。また、CBDは他の薬剤と相互作用する可能性があり、男性の生殖機能や妊婦に対するリスクも指摘されています。
大統領令自体は大麻を直接再分類するものではなく、司法省に再分類プロセスを迅速化するよう指示するものです。最終的な再分類には、引き続き規則制定手続きが必要であり、法的な課題が生じる可能性もあります。
日本への影響と示唆
米国の政策変更は日本の法律に直接影響を与えるものではありませんが、いくつかの点で間接的な影響が考えられます。
日本では2024年12月12日に改正大麻取締法が施行され、大麻由来医薬品の使用が可能になる一方、使用罪が新設されました。米国でスケジュールIII再分類が実現し、研究規制が緩和されれば、エピディオレックスのような大麻由来医薬品の開発・承認が加速する可能性があります。その結果、日本での医療大麻の選択肢が広がることも期待されます。
また、メディケアでのCBDカバーという前例は、他国の医療保険制度における議論にも影響を与える可能性があります。ただし、日本においてはTHC残留基準の厳格化など、米国とは異なる規制方針が取られており、直接的な政策の移植は困難です。
FAQ
いいえ、連邦レベルでの嗜好用大麻の合法化ではありません。大統領令はスケジュールIII再分類を迅速化するよう指示するものであり、大麻の製造・販売・所持は引き続き連邦法の規制下に置かれます。各州での合法化状況に変化はなく、州法に従って運営される既存の大麻事業は継続できます。
メディケアおよびメディケア・アドバンテージ(民間保険会社運営)の加入者が対象です。医師の推奨が必要で、対象製品は第三者機関の検査を受けた、安全性・品質基準を満たすヘンプ由来CBD製品に限られます。年間最大500ドルの補助を受けることができ、2026年4月1日開始予定です。
直接的な影響はありませんが、米国での研究促進により大麻由来医薬品の開発が加速すれば、日本での医療用途の選択肢が広がる可能性があります。日本では2024年12月12日に改正大麻取締法が施行されており、大麻由来医薬品の使用は可能になっていますが、嗜好用は引き続き禁止されています。
大統領令は再分類プロセスを「最も迅速な方法で」完了させるよう指示していますが、具体的な時期は明示されていません。DEA(麻薬取締局)による規則制定手続きが必要であり、法的な異議申し立ての可能性もあります。2025年内の最終決定も期待されていますが、確定的ではありません。
まとめ
この記事のまとめ
トランプ大統領は12月18日、大麻のスケジュールIII再分類を加速させる大統領令に署名
メディケア加入者向けCBDパイロットプログラム(年間500ドル補助)が2026年4月開始予定
嗜好用の合法化ではないが、研究促進・税制改善・CBD市場拡大が期待される
日本への直接的影響はないが、大麻由来医薬品の開発加速による間接的影響の可能性あり

