CBD製品のTHC残留基準を徹底解説 - 2024年12月施行の新規制と製品区分別の基準値

この記事のポイント
✓ 2024年12月12日施行の改正法により、CBD製品のTHC残留限度値が製品区分別に明確化された
✓ 油脂・粉末は10ppm、水溶液は0.1ppm、その他は1ppmという厳格な基準が設定された
✓ 基準を超える製品は「麻薬」として規制され、事業者は成分分析書の提出が必須となった
2024年12月12日、日本のCBD市場に大きな転換点が訪れました。「大麻取締法及び麻薬及び向精神薬取締法の一部を改正する法律」の施行により、CBD製品に含まれるTHCの残留限度値が初めて具体的な数値で定められました。この規制は、従来の「部位規制」から「成分規制」への移行を意味し、CBD事業者と消費者の双方に大きな影響を与えています。本記事では、製品区分別の基準値から成分分析の要件まで、新規制の全容を徹底解説します。
目次
THC残留限度値とは
THC残留限度値とは、CBD製品に含まれることが許容されるΔ9-THC(テトラヒドロカンナビノール)の最大濃度を指します。従来の大麻取締法では、大麻草の「部位」によって合法・違法を区別していました。花穂や葉は違法、茎や種子は合法という規制方式でした。
しかし、この部位規制には科学的根拠が薄いという問題がありました。THCは主に花穂に多く含まれますが、茎や種子にも微量に含まれる可能性があります。そのため、2024年12月の法改正により、THCという「成分」そのものを規制対象とする方式に移行しました。
厚生労働省によると、この改正は「保健衛生上の危害発生防止のため、大麻草由来製品に微量に残留するTHCの残留限度値を設けることとした」と説明されています。基準を超えるTHCを含む製品は、麻薬及び向精神薬取締法において「麻薬」として分類されます。
「大麻取締法及び麻薬及び向精神薬取締法の一部を改正する法律」が国会で成立
約75年ぶりの大幅改正
厚生労働省がCBD事業者向けに通知を発出
THC残留限度値の「考え方」を提示
改正法の第一段階が施行
THC残留限度値が正式に適用開始
成分分析書の提出義務化
改正法の第二段階が施行
大麻草の栽培に関する規制が施行
この法改正により、大麻草のどの部位を原料として用いても、THCの残留濃度が基準値を超えなければ、日本国内での販売や利用が可能になりました。これは科学的根拠に基づいた合理的な規制方式への移行を意味しています。
製品区分別の基準値
厚生労働省が定めたTHC残留限度値は、製品の形状によって3つの区分に分けられています。それぞれの基準値は以下の通りです。
| 製品区分 | 残留限度値 | 想定される製品例 |
|---|---|---|
| 油脂(常温で液体)及び粉末 | 10ppm(10mg/kg、0.001%) | CBDオイル、ヘンプシードオイル、化粧オイル、CBDパウダー、プロテイン |
| 水溶液 | 0.1ppm(0.1mg/kg、0.00001%) | 清涼飲料水、アルコール飲料、化粧水、牛乳、植物性飲料 |
| その他 | 1ppm(1mg/kg、0.0001%) | CBDグミ、ベイプ用リキッド、バーム、クリーム |
この区分において、最も注目すべきは水溶液の基準値が0.1ppmと極めて厳しい点です。飲料の数値が最も低い理由は、他の飲食料品と比べて摂取量が大きくなる場合が想定されるためです。清涼飲料水やアルコール飲料は一度に数百ミリリットル以上を摂取することがあり、その分THCの総摂取量も増加する可能性があります。
製品区分の判断基準
製品の区分は、常温(15〜25℃)における状態で判断されます。例えば、シャーベットのように凍結された状態で販売されていても、常温で液体となるものは「水溶液」として扱われます。また、化粧水は水溶液、化粧オイルは油脂、バームやクリームは「その他」に分類されます。
CBDアイソレート原料については、粉末に該当するため10ppmの基準が適用されます。これは原料を輸入・製造する事業者にとって重要な情報です。
📊 基準値の単位について
ppm(parts per million): 100万分の1を表す単位。10ppm = 0.001%
mg/kg: 1kgあたりのミリグラム数。10mg/kg = 10ppm
参考: 従来の輸入基準は200ppm以下でTHC不検出だった
これらの基準値は、THCの作用が発現される量よりも一層の安全性を見込んで設定されています。欧州食品安全委員会(EFSA)の規定なども参考にされており、国際的な安全基準に基づいた科学的な設定となっています。
Total Δ9-THCの計算方法
THC残留限度値を判断する際には、単純なΔ9-THC量だけでなく、Total Δ9-THCという概念が用いられます。これは、熱を加えるとΔ9-THCに変化する前駆体である**Δ9-THCA(テトラヒドロカンナビノール酸)**を含めた総量です。
計算式
厚生労働省が定めた計算式は以下の通りです。
Δ9-THC総量 (mg/kg, ppm) = Δ9-THC量 (mg/kg, ppm) + 0.877 × Δ9-THCA量 (mg/kg, ppm)
この計算式において、0.877という係数は、THCAがTHCに変換される際の分子量の差を反映しています。THCAは加熱や時間の経過により脱炭酸反応を起こし、THCに変化します。そのため、製品中のTHCAも「みなし麻薬」として規制対象に含まれます。
計算例
例えば、あるCBDオイルの分析結果が以下だった場合を考えてみましょう。
- Δ9-THC: 5ppm
- Δ9-THCA: 3ppm
Total Δ9-THC = 5 + (0.877 × 3) = 5 + 2.631 = 7.631ppm
この場合、油脂の基準値10ppmを下回るため、合法となります。しかし、THCAの量が多い製品では、単純なTHC値だけでは判断できないため注意が必要です。
成分分析書の要件
2024年12月12日以降、CBD製品を輸入する事業者には成分分析書の提出が義務付けられました。この分析書は、製品が麻薬に該当しないことを証明するために必要な書類です。
必須記載項目
成分分析書には以下の項目が記載されている必要があります。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 製品の形状分類 | 油脂、粉末、水溶液、その他のいずれか |
| 分析日 | 検査が実施された日付 |
| ロット番号 | 製品の製造ロットを特定する番号 |
| 分析施設責任者の署名 | 検査機関の責任者による署名 |
| 分析方法 | LC-MS/MS、LC-QTOF-MS等の記載 |
| 定量限界値(LOQ) | 定量可能な最小濃度 |
| 検出限界値(LOD) | 検出可能な最小濃度 |
検査機関の要件
THCを10ppmの超微量で検出するためには、従来のHPLC検査機器では不十分です。LC-MS/MS(液体クロマトグラフィー質量分析法)という高精度な検査機器の使用が求められます。この機器は非常に高額であり、導入できる検査機関は限られています。
製品中のΔ9-THC含有量の検査が可能な機関は、厚生労働省のウェブサイトで公開されています。検査を希望する事業者は、申告済みの検査機関に直接問い合わせる必要があります。
違反した場合の罰則
THC残留限度値を超えるCBD製品は、麻薬及び向精神薬取締法において**「麻薬」**として規制されます。これは単なる行政指導ではなく、刑事罰の対象となる重大な違反です。
罰則の内容
THCが麻薬と位置づけられることになったため、基準を超える製品の所持や販売は以下の罰則の対象となります。
| 行為 | 罰則 |
|---|---|
| 単純所持 | 7年以下の懲役(改正前は5年以下) |
| 譲渡・譲受 | 7年以下の懲役 |
| 営利目的の所持・譲渡 | 10年以下の懲役 |
| 輸入・輸出 | 10年以下の懲役 |
事業者にとっては、知らずに基準を超える製品を販売した場合でも、厳しい刑事罰の対象となる可能性があります。そのため、製品ごとの成分分析は必須であり、定期的な検査による品質管理が求められます。
市場への影響
この規制により、日本のCBD市場には大きな影響が生じています。
市場規模と成長予測
ユーロモニターの予測によると、2024年の日本の合法CBD市場は前年比16.2%増の244億円に達すると見込まれています。利用者数は約53万人と推定されています。しかし、厳格なTHC残留基準により、市場の成長に影響が出る可能性も指摘されています。
事業者への影響
多くの業界関係者は、今回の基準が国際基準と比較してかなり厳格であることに懸念を示しています。主な課題として以下が挙げられています。
第一に、カンナビノイドの劣化や化学反応、検査結果間のばらつきを踏まえると、製品化に際して懸念が残るとの指摘があります。第二に、高精度な検査機器(LC-MS/MS)の導入コストが高く、中小事業者には負担が大きいという問題があります。第三に、既存製品の多くが新基準をクリアできない可能性があり、販売中止となるケースも出始めています。
ポジティブな側面
一方で、この規制には以下のようなポジティブな側面もあります。
厳格な基準により、悪質な業者が排除され、市場の健全化が進むと期待されています。消費者は安心して製品を選べるようになり、信頼性と安全性が高いブランドが市場をリードしていくでしょう。2025年以降はTHC残留限度値や流通・販売ガイドラインが明確になることで、市場の再成長が期待されています。
国際基準との比較
日本のTHC残留基準は、国際的に見てどのような位置づけにあるのでしょうか。
各国・地域の基準
| 国・地域 | THC基準 | 備考 |
|---|---|---|
| 日本(2024年12月〜) | 0.1〜10ppm(製品区分別) | 世界でも最も厳格な部類 |
| WHO勧告(2018年) | 0.2%以下(2,000ppm) | 「国際的に規制の必要なし」と判断 |
| 米国(連邦) | 0.3%以下(3,000ppm) | ヘンプの定義基準 |
| EU | 0.2〜0.3%(国により異なる) | EFSAの勧告に基づく |
| 日本(従来) | 200ppm以下で不検出 | 税関通過の実務基準 |
この比較から明らかなように、日本の新基準はWHOの勧告値の1/200〜1/20,000という極めて厳格な水準です。従来の日本の輸入基準(200ppm以下で不検出)と比較しても、20〜2,000倍厳しい基準となっています。
厳格な基準の背景
日本がこれほど厳格な基準を設定した背景には、以下の要因があると考えられます。
第一に、THCの精神活性作用に対する慎重な姿勢があります。日本では大麻に対する社会的な忌避感が強く、微量でもTHCが含まれることへの懸念が大きいです。第二に、「ダメ。ゼッタイ。」という数十年にわたる薬物政策の影響があります。第三に、欧州食品安全委員会(EFSA)の規定を参考にしつつ、さらに安全マージンを取った設定がなされています。
事業者が取るべき対応
CBD事業者は、新規制に対応するために以下の対策を講じる必要があります。
製品の再検査
既存の全製品について、新基準に適合しているかを確認するために再検査を実施する必要があります。特に、従来の検査ではTHC不検出だった製品でも、新基準の10ppmを超える可能性があります。LC-MS/MSを用いた高精度検査を依頼し、Total Δ9-THCを計算して基準値と比較してください。
サプライチェーンの見直し
原料の調達先を見直し、より品質管理が徹底されたサプライヤーとの取引を検討することが重要です。特に海外からの輸入原料については、原産国での検査結果だけでなく、日本の基準に適合することを確認する必要があります。
成分分析書の整備
すべての製品について、必須記載項目を網羅した成分分析書を準備してください。輸入時には税関に提出が求められ、国内販売においても消費者からの問い合わせに対応できるよう保管しておく必要があります。
製品ラインナップの調整
基準を満たせない製品については、販売中止や製法の見直しを検討する必要があります。特に水溶液(飲料)製品は0.1ppmという極めて厳しい基準のため、製品化が難しくなる可能性があります。
消費者が確認すべきポイント
CBD製品を購入する消費者も、新規制を理解し、安全な製品を選ぶために以下のポイントを確認することが重要です。
購入時のチェックリスト
第一に、国内正規代理店から購入することが重要です。海外サイトからの個人輸入は、品質管理が不十分な製品を入手するリスクがあります。
第二に、成分分析書(COA)の確認を行ってください。信頼できる事業者は、第三者機関による検査結果を公開しています。THC含有量が基準値以下であること、検査機関がISO認証を受けていること、検査日が1年以内であることを確認しましょう。
第三に、製品区分と基準値の理解が必要です。購入しようとしている製品がどの区分に該当するかを把握し、その区分の基準値を満たしているかを確認してください。
⚠️ 注意が必要な製品
出所が不明な輸入品や個人輸入品
COAが提供されていない、または曖昧な表記の製品
極端に安価な製品
THC含有量が明記されていない製品
既存製品の取り扱い
2024年12月12日以前に購入した製品については、新基準を満たしていない可能性があります。心配な場合は、販売元に問い合わせて最新の検査結果を確認するか、使用を控えることを検討してください。
FAQ
いいえ、CBD製品自体が違法になるわけではありません。THC残留限度値を満たした製品は引き続き合法です。ただし、基準を超えるTHCを含む製品は「麻薬」として規制されます。信頼できる事業者から購入し、COAを確認することで安全に使用できます。
水溶液(飲料)は、他の製品と比べて一度に大量に摂取される可能性が高いためです。例えば、清涼飲料水は500ml以上を一度に飲むことがありますが、CBDオイルは数滴程度の使用が一般的です。摂取量の違いを考慮し、飲料には最も厳しい0.1ppmという基準が設定されました。
日本の基準を満たさない製品は、たとえ海外で合法であっても日本に持ち込むことはできません。米国やEUの基準(0.2〜0.3%)は日本の基準(10ppm = 0.001%)よりもはるかに緩いため、海外製品の多くは日本の基準を満たさない可能性があります。個人輸入は避け、日本国内で正規に流通している製品を購入することをお勧めします。
THCA(テトラヒドロカンナビノール酸)は、加熱により脱炭酸反応を起こしてTHCに変化します。そのため、製品中のTHCAは「みなし麻薬」として規制対象に含まれます。Total Δ9-THCの計算では、THCA量に0.877を乗じた値がTHC量に加算されます。
LC-MS/MSを用いた高精度検査の費用は、検査機関や検査項目によって異なりますが、一般的に1検体あたり数万円から十数万円程度とされています。事業者にとっては大きなコスト負担となりますが、法令遵守と消費者の安全のために必要な投資です。検査機関のリストは厚生労働省のウェブサイトで確認できます。
まとめ
📝 この記事のまとめ
2024年12月12日施行の改正法により、CBD製品のTHC残留限度値が製品区分別に明確化された
油脂・粉末は10ppm、水溶液は0.1ppm、その他は1ppmという基準が設定され、国際的にも最も厳格な部類となっている
基準を超える製品は「麻薬」として規制され、所持だけでも7年以下の懲役刑の対象となる
事業者は成分分析書の提出が義務化され、LC-MS/MSによる高精度検査が必要となった
消費者は国内正規代理店から購入し、COAを確認することで安全に製品を選べる


