テキサス州が医療大麻プログラムを大幅拡大|慢性疼痛・クローン病が適応に【2025年HB 46】

この記事のポイント
2025年6月21日、テキサス州のアボット知事がHB 46に署名し、医療大麻プログラム(Compassionate Use Program)を大幅に拡大
慢性疼痛(90日以上継続)、クローン病、外傷性脳損傷、末期疾患が新たに適応症状として追加
ディスペンサリーが従来の3店舗から最大15店舗へ増加し、登録患者数は11.6万人を突破
2025年6月21日、テキサス州のグレッグ・アボット知事(共和党)が下院法案46号(HB 46)に署名し、同州の医療大麻プログラム「Compassionate Use Program(CUP)」の大幅な拡大が正式に決定しました。この法律は2025年9月1日から施行され、テキサス州は全米で40番目の包括的な医療大麻プログラムを持つ州となります。保守的な政治風土で知られるテキサス州におけるこの動きは、米国全体の医療大麻政策に影響を与える可能性があり、日本を含む世界各国の政策立案者にとっても注目すべき事例となっています。
HB 46の概要と背景
テキサス州のCompassionate Use Programは2015年に創設されましたが、当初は極めて限定的なプログラムでした。対象は難治性てんかん患者のみで、THC含有量も0.5%という厳しい制限が設けられていました。その後、2019年と2021年の法改正により適応症状が徐々に拡大され、THC上限も1%に引き上げられましたが、それでも全米で最も制限の厳しい医療大麻プログラムの一つとして知られていました。
HB 46はこの状況を大きく変える法律です。同法案はテキサス州下院で賛成121対反対23、上院では賛成29対反対2という圧倒的な超党派の支持を得て可決されました。共和党が圧倒的多数を占める保守的な州議会において、これほど幅広い支持を集めたことは、医療大麻に対する認識が党派を超えて変化していることを示しています。
Compassionate Use Program創設
難治性てんかんのみが対象、THC上限0.5%
HB 3703により適応症状を拡大
多発性硬化症、パーキンソン病、ALS、末期がんを追加
HB 1535によりさらに拡大
PTSD、がん全般を追加、THC上限を1%に引き上げ
HB 46署名、大幅な拡大を実現
慢性疼痛・クローン病を追加、THC規制を用量ベースに変更
新たに追加された適応症状
HB 46の最も重要な変更点の一つは、適応症状の大幅な拡大です。従来のプログラムでは、難治性てんかん、多発性硬化症、パーキンソン病、ALS、がん、PTSDなど、比較的限定された疾患のみが対象でしたが、新法により以下の症状が追加されました。
慢性疼痛は今回の拡大で最も影響の大きい追加項目です。90日以上継続する疼痛を抱える患者が対象となり、これによりプログラムの潜在的な対象者が大幅に増加すると予想されています。慢性疼痛はオピオイド危機との関連でも注目されており、医療大麻がオピオイド依存の代替治療として機能する可能性が研究されています。
クローン病および炎症性腸疾患(IBD)も新たに適応となりました。これらの疾患は消化管に慢性的な炎症を引き起こし、患者の生活の質を著しく低下させます。カンナビノイドには抗炎症作用があることが研究で示されており、症状の緩和に寄与する可能性があります。
外傷性脳損傷(TBI)の追加は、特に退役軍人コミュニティにとって重要な意味を持ちます。テキサス州には多くの軍事基地があり、戦闘や訓練で脳損傷を負った退役軍人が多数居住しています。TBI患者は慢性的な頭痛、認知障害、情緒不安定などの症状に苦しむことが多く、医療大麻へのアクセスは新たな治療選択肢となります。
末期疾患およびホスピス・緩和ケアを受けている患者も対象に加わりました。終末期の患者にとって、痛みの管理と生活の質の維持は最も重要な課題です。医療大麻は鎮痛効果だけでなく、食欲増進や吐き気の軽減にも効果があるとされ、緩和ケアにおける選択肢として注目されています。
HB 46で追加された主な適応症状
慢性疼痛: 90日以上継続する疼痛を抱える患者が対象
クローン病・IBD: 炎症性腸疾患による消化器症状の緩和
外傷性脳損傷(TBI): 退役軍人を含む脳損傷患者への新たな選択肢
末期疾患: ホスピスケア・緩和ケアを受けている患者
製品形態とTHC制限の変更
HB 46のもう一つの重要な変更点は、製品形態の多様化とTHC制限の見直しです。従来のプログラムでは、オイルやカプセルなど限られた形態の製品しか認められていませんでしたが、新法により選択肢が大幅に広がりました。
新たに認められた製品形態には、パッチ(経皮吸収型製剤)、ローション・クリーム(局所塗布型製剤)、座薬、吸入器(気化式のみ)が含まれます。特に注目すべきは吸入製品の解禁で、ベイプやネブライザーを通じた気化吸入が可能になりました。ただし、喫煙による摂取は依然として禁止されており、これは肺への健康リスクを考慮した規制といえます。
THC制限については、従来の「含有量1%以下」という濃度ベースの規制から、「1回の用量あたり10mg以下、1パッケージあたり最大1g」という用量ベースの規制に変更されました。この変更により、より効果的な濃度の製品が製造可能になる一方で、過剰摂取のリスクを管理する仕組みが維持されています。
| 項目 | 従来の規制 | HB 46施行後 |
|---|---|---|
| THC制限 | 含有量1%以下 | 10mg/回量、最大1g/パッケージ |
| 製品形態 | オイル、カプセル等 | パッチ、ローション、座薬、吸入器追加 |
| 吸入製品 | 禁止 | 気化のみ許可(喫煙は禁止) |
| 処方期間 | 90日間 | 1年間(90日分×4回のリフィル) |
ディスペンサリーの拡大
テキサス州の医療大麻プログラムにおける最大の課題の一つは、ディスペンサリー(調剤薬局)の数が極めて少なかったことです。従来は州全体でわずか3社のみがライセンスを保有しており、広大なテキサス州において患者が製品を入手することは容易ではありませんでした。
HB 46により、ライセンス数は最大15社まで拡大されることになりました。2025年12月までに9社、2026年4月までに追加で3社の新規ライセンスが発行される予定です。既存のライセンス保有者も含めると、合計15の事業者が州内で医療大麻を提供できるようになります。
2025年12月1日には、テキサス州公安局(DPS)が第一弾として9社の条件付きライセンス取得候補を発表しました。地域別に見ると、北テキサス(ダラス・フォートワース圏)に3社、南東テキサス(ヒューストン圏)に2社、中南部テキサス(サンアントニオ圏)に1社、西テキサス(エルパソ)に1社、南テキサス(リオグランデバレー)に1社、パンハンドル地域に1社が選定されています。
また、ライセンス保有者はDPSの承認を得た上でサテライト店舗を開設することが可能となり、実際の販売拠点は15を大きく上回る可能性があります。現時点で既に17カ所以上のピックアップ拠点が州内に存在し、ピックアップ拠点がない地域では宅配サービスも提供されています。
新規ライセンス取得候補企業(2025年12月発表)
北テキサス: Texas Patient Access LLC、Lonestar Compassionate Care Group LLC、Dilatso LLC
ヒューストン圏: PharmaCann、Story of Texas LLC
サンアントニオ圏: Lone Star Bioscience Inc.
エルパソ: Verano Texas LLC
リオグランデバレー: TexaRx
パンハンドル: Trulieve TX Inc.
患者アクセスの改善
HB 46は患者の利便性向上にも配慮しています。従来、医師による処方の有効期間は90日間でしたが、新法では1年間に延長されました。具体的には、1回の診察で90日分の供給量に相当する処方を受け、最大4回までリフィル(再調剤)が可能となります。これにより、患者は頻繁に医師を受診する必要がなくなり、時間的・経済的負担が軽減されます。
テキサス州公安局のデータによると、2025年9月時点でプログラムの登録患者数は約12.7万人に達しています。年初の10.5万人から着実に増加しており、HB 46の施行により慢性疼痛患者などが新たに対象となることで、今後さらなる増加が見込まれています。
新たなディスペンサリーは学校から1,000フィート(約300メートル)以上離れた場所に設置することが義務付けられており、未成年者への配慮も規定されています。また、テキサス医療委員会が処方状況を監視し、過剰処方を防止する体制も整備されています。
日本への示唆
テキサス州の動きは、保守的な政治環境においても医療大麻政策が段階的に拡大し得ることを示す重要な事例です。テキサス州は共和党が圧倒的に強い「深紅の州」であり、かつては大麻に対して最も厳格な姿勢を取る州の一つでした。そのような環境下で超党派の支持を得て医療大麻プログラムが拡大したことは、科学的根拠に基づく議論と患者のニーズが政治的イデオロギーを超えて合意を形成できることを示しています。
日本においても、2024年12月12日に改正大麻取締法が施行され、大麻由来医薬品の使用が条件付きで認められるようになりました。ただし、現時点で承認されているのはてんかん治療薬「エピディオレックス」のみであり、適応症状も限定的です。テキサス州の事例は、限定的なプログラムから始めて段階的に適応を拡大していく「漸進的アプローチ」のモデルケースとして参考になります。
特に注目すべきは、テキサス州が慢性疼痛を適応に加えた点です。慢性疼痛は世界中で大きな医療課題であり、オピオイド危機の一因ともなっています。医療大麻がオピオイドの代替または補完療法として機能する可能性は、日本においても議論に値するテーマです。
米国全体の合法化状況については、米国の大麻合法化マップ【2025年最新版】で詳しく解説しています。
FAQ
HB 46は2025年9月1日から施行されます。規制に関する詳細なルールは2025年10月1日までに策定される予定です。新規ディスペンサリーについては、2025年12月に9店舗、2026年4月に追加で3店舗がライセンスを取得する見込みです。
90日以上継続する慢性疼痛を抱えていることが条件です。Compassionate Use Registryに登録された医師の診察を受け、医療大麻が適切と判断された場合に処方を受けることができます。処方は1年間有効で、90日分を最大4回まで調剤可能です。
従来の「含有量1%以下」という濃度ベースの規制から、「1回の用量あたり10mg以下、1パッケージあたり最大1g」という用量ベースの規制に変更されました。これにより、より効果的な濃度の製品が製造可能になりましたが、摂取量は適切に管理されます。
いいえ、喫煙による摂取は引き続き禁止されています。新法で認められた吸入製品は、ベイプ(気化器)やネブライザーなど、加熱して気化させる方式のみです。これは肺への健康リスクを考慮した規制です。
現時点では、テキサス州で嗜好用大麻が合法化される見通しは立っていません。州議会は依然として共和党が圧倒的多数を占めており、嗜好用大麻に対しては慎重な姿勢を維持しています。ただし、医療用プログラムの成功と世論の変化により、将来的な議論の可能性は排除されていません。
まとめ
この記事のまとめ
テキサス州のアボット知事がHB 46に署名し、2025年9月1日から医療大麻プログラムが大幅に拡大
慢性疼痛、クローン病、外傷性脳損傷、末期疾患が新たに適応症状として追加され、登録患者数は12.7万人以上
THC制限が用量ベース(10mg/回量)に変更され、パッチ、ローション、気化式吸入器など新たな製品形態が解禁
ディスペンサリーが3店舗から最大15店舗に増加し、患者アクセスが大幅に改善
テキサス州のHB 46は、保守的な政治環境においても医療大麻政策が進展し得ることを示す象徴的な事例です。慢性疼痛という広範な症状の追加により、プログラムの対象者は大幅に拡大し、より多くの患者が合法的に医療大麻にアクセスできるようになります。
テキサス州の経験は、段階的なアプローチによる医療大麻政策の発展モデルとして、他の保守的な州や国々にとって参考になる可能性があります。科学的根拠に基づく議論と患者中心のアプローチが、政治的な立場の違いを超えた合意形成につながることを、この事例は示しています。日本においても、2024年の法改正を契機として、今後どのような形で医療大麻政策が発展していくか、国際的な動向を注視しながら議論を深めていくことが重要です。


