日本の大麻規制2025年版 - 2024年法改正の全体像と今後の展望

この記事のポイント
✓ 2024年12月12日施行の大麻取締法改正により、使用罪が新設され最大7年の懲役刑が科されるようになった
✓ 医療大麻が条件付きで解禁され、厚生労働大臣の承認のもと医師が処方できるようになった
✓ 部位規制から成分規制へ移行し、THCを含まないCBD製品は引き続き合法であることが明確化された
2024年12月12日、日本の大麻政策に歴史的な転換が訪れました。約75年ぶりの大幅改正となった大麻取締法により、使用行為そのものを罰する「使用罪」が新設されました。一方で、厳格な条件のもと医療目的での大麻使用が初めて認められるという、相反する2つの大きな変化が同時に実現しました。本記事では、改正法の詳細、CBD製品への影響、そして今後の展望まで、日本の大麻規制の最新状況を徹底解説します。
2024年改正法の5つの重要ポイント
今回の大麻取締法改正は、日本の薬物政策において極めて重要な転換点となりました。改正のポイントは大きく5つに分けられます。
第一に、大麻使用罪の新設です。従来は所持のみが違法とされていましたが、使用行為そのものが犯罪となり、最大7年の懲役刑が科されるようになりました。これは覚醒剤取締法と同様の厳格な規制です。
第二に、医療大麻の条件付き使用解禁が実現しました。厚生労働大臣の承認を得た場合に限り、医師が医療目的で大麻由来医薬品を処方できるようになりました。これは日本の大麻政策において画期的な一歩です。
第三に、部位規制から成分規制への移行が行われました。従来は花穂・葉が違法、茎・種子が合法という植物の部位で規制していましたが、改正後はTHCそのものを規制対象とする科学的根拠に基づいた規制方式に変更されました。
第四に、CBD製品の合法性が明確化されました。THCを含まないCBD製品は引き続き合法であることが明示され、消費者と事業者双方にとって法的な不確実性が軽減されました。
第五に、罰則が全体的に強化されました。特に営利目的の栽培・譲渡については、懲役10年以下という重い刑罰が設定されています。

日本の大麻規制の歴史
日本における大麻規制の歴史を理解することは、今回の改正の意義を把握する上で不可欠です。
GHQの占領政策下で大麻取締法が制定
栽培・所持・譲渡を禁止、ただし使用罪はなし
アメリカの反大麻政策の影響を強く受けた形で導入
最初の大きな改正が行われ、罰則を強化
密輸・密売への対応として厳罰化
75年ぶりの大幅改正が実施
使用罪の新設と医療大麻の条件付き解禁
部位規制から成分規制への転換
新法の運用が本格化
医療大麻の承認プロセスが進行中
戦前の日本では、大麻は「麻(あさ)」として広く栽培されており、特に規制はありませんでした。繊維、種子、医薬品として日常生活の様々な場面で利用されていました。しかし、戦後のGHQ占領下で、アメリカの薬物政策の影響を受けて大麻取締法が制定されました。この時点では「使用罪」は設けられず、所持のみが違法とされていたのが特徴です。
政府広報オンラインによると、「大麻の所持・譲渡、使用、栽培は禁止です。大麻取締法が改正され、令和6年12月12日から、大麻の使用が新たに禁止されました。また、条件付きで大麻由来医薬品の使用が可能になりました」と明記されています。
使用罪の新設
なぜ使用罪が新設されたのか
従来の大麻取締法には「使用罪」がなく、所持のみが違法とされていました。そのため、使用行為自体には罰則がなく、尿検査で陽性でも所持が証明できなければ処罰できないという法の抜け穴がありました。覚醒剤取締法には使用罪があるにもかかわらず、大麻だけ使用罪がない状況は以前から批判されていました。
今回の使用罪新設の背景には、複数の要因があります。第一に、若年層の大麻検挙者が急増していることです。10代・20代の検挙者数が増加傾向にあり、「所持してなければ大丈夫」という誤った認識が若者の間で広まっていました。第二に、尿検査で使用が明らかでも、所持の証拠がなければ立件できないという法執行上の問題がありました。第三に、国際的な薬物規制との整合性を図る必要性が高まっていました。
使用罪の詳細と罰則
使用罪の罰則は7年以下の懲役と定められています。対象は大麻を使用した者すべてで、立証方法としては尿検査、毛髪検査、血液検査などが用いられます。初犯の場合は執行猶予が付される可能性がありますが、営利目的ではない単純使用であっても、最大7年という重い刑罰が科される点に注意が必要です。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 罰則 | 7年以下の懲役 |
| 対象 | 大麻を使用した者 |
| 立証方法 | 尿検査、毛髪検査、血液検査など |
| 初犯の扱い | 執行猶予の可能性あり |
| 営利目的 | 加重なし(単純使用のみ) |
ただし、医師の処方による医療目的の使用は、この使用罪の対象外となります。厚生労働大臣の承認を得て、医師から正規に処方された大麻由来医薬品を使用する場合は違法ではありません。
2024年12月12日以降、大麻の使用は最大7年の懲役に処される犯罪です。「所持していなければ大丈夫」という認識は完全に誤りです。尿検査や毛髪検査で使用が証明されれば、所持の証拠がなくても処罰の対象となります。この点は十分に理解しておく必要があります。
使用罪に対する賛否両論
使用罪の新設については、社会的に賛否両論があります。反対意見としては、「刑罰ではなく治療・教育が必要」「刑務所の過密化を招く」「若者の人生を破壊する」といった声が上がっています。一方、賛成意見としては、「使用の抑止力になる」「法の抜け穴を塞ぐ」「覚醒剤と同様に規制すべき」という主張があります。
医療大麻の条件付き解禁
歴史的な一歩
2024年改正法の最大の変更点は、医療大麻の使用が条件付きで認められたことです。これは日本の大麻政策において歴史的な転換点と言えます。
医療大麻の使用が認められるには、厳格な要件を満たす必要があります。まず、厚生労働大臣の承認が必須です。個別の患者ごとに承認が必要であり、厳格な審査プロセスを経なければなりません。次に、医師の処方が必要です。専門医による診断が求められ、他の治療法が効果不十分であることを証明する必要があります。
対象疾患も限定されています。現時点では、てんかん(ドラベ症候群、レノックス・ガストー症候群など)、慢性疼痛、がん患者の症状緩和、多発性硬化症、その他厚労省が認める疾患に限られています。また、使用できる製剤も承認された医薬品のみで、現時点ではエピディオレックス(CBD製剤)が主な候補となっています。
承認プロセス
医療大麻の処方を受けるまでのプロセスは、以下のステップで構成されています。まず、患者が医師に相談します。次に、医師が医療大麻の必要性を判断し、従来の治療が効果不十分であることを確認します。その後、医師が厚生労働省に申請を行い、厚労省の専門家会議で審査されます。承認された場合に限り、処方が可能になります。
2025年10月時点では、承認例はまだ限定的です。主にてんかん患者への処方が中心となっており、今後の拡大が期待されています。
承認が期待される医薬品
海外で既に承認されている大麻由来医薬品としては、**エピディオレックス(Epidiolex)**が代表的です。これはCBD製剤で、難治性てんかん治療薬としてFDA(米国食品医薬品局)とEMA(欧州医薬品庁)で承認されています。2024年4月には日本で希少疾病用医薬品に指定され、現在治験が進行中です。
もう一つの注目される医薬品が**サティベックス(Sativex)**です。これはCBDとTHCを含む混合製剤で、多発性硬化症の筋痙縮治療薬としてヨーロッパで承認されています。ただし、THCを含むため、日本での承認可能性は不明です。
医療大麻製剤には大きく分けてCBD単独製剤とCBD+THC混合製剤があります。日本では現時点でCBD単独製剤の承認が優先されており、THCを含む製剤の承認には時間がかかる見込みです。これは、THCの精神活性作用に対する慎重な姿勢を反映しています。
医療大麻解禁の意義
医療大麻の解禁は、患者に大きな希望をもたらしています。従来の治療が効かない患者に新たな選択肢が与えられ、特に小児てんかん患者にとっては画期的な進展です。これにより、患者のQOL(生活の質)の向上が期待されています。
社会的な意義としては、日本の大麻政策の歴史的転換であり、科学的エビデンスに基づく政策決定への移行を示しています。また、国際的な潮流との整合性が図られたことも重要なポイントです。

部位規制から成分規制への移行
従来の部位規制の問題点
従来の大麻取締法は、植物の部位によって合法・違法を区別する「部位規制」を採用していました。具体的には、花穂・葉は違法、茎・種子は合法という区分けです。しかし、この方式には科学的根拠が薄いという問題がありました。THCは主に花穂に多く含まれますが、茎や種子にも微量に含まれる可能性があります。また、茎由来と偽って違法製品を販売するケースも発生していました。さらに、国際的に見ても部位で規制する方式は特異であり、多くの国では成分ベースの規制を採用していました。
新法の成分ベース規制
改正後は、THCそのものを規制対象とする成分ベースの規制に移行しました。部位に関わらず、THCを含んでいれば違法となり、CBDなど非精神活性成分は合法とされます。
この変更には大きなメリットがあります。第一に、科学的根拠に基づく規制となったことです。精神活性作用をもたらすTHCを直接規制することで、より合理的な法体系になりました。第二に、法の抜け穴が排除されたことです。部位を偽装して違法製品を販売する手法が通用しなくなりました。第三に、国際標準との整合性が高まったことです。多くの国が採用する成分規制方式に日本も合わせることで、国際的な協調が容易になりました。
CBD製品への影響
CBD製品は引き続き合法
THCを含まないCBD製品は、改正後も引き続き合法です。これは消費者と事業者双方にとって重要なポイントです。ただし、茎・種子由来であることの証明が重要であり、部位規制から成分規制への移行により、実質的には変化がないと言えます。
より厳格な品質管理が求められる
成分規制への移行により、CBD業界にはより厳格な品質管理が求められるようになりました。
第一に、第三者機関による検査が事実上必須化されました。THC 0.00%であることの証明が必要であり、より厳格な検査基準が適用されます。第二に、トレーサビリティの強化が求められています。原料から製品までの追跡可能性を確保し、輸入書類も厳格化されています。第三に、悪質業者の排除が進んでいます。違法成分を含む製品の摘発が強化され、消費者保護が向上しています。
消費者への注意喚起
安全なCBD製品を選ぶためには、いくつかのポイントに注意する必要があります。まず、国内正規代理店から購入することが重要です。次に、第三者機関のCOA(成分分析証明書)を確認しましょう。THCフリー保証のある製品を選び、海外サイトからの個人輸入は避けるべきです。
CBD製品を購入する際は、必ず**COA(Certificate of Analysis)**を確認しましょう。COAにはTHC含有量(0.00%または検出限界以下であることを確認)、CBD含有量(表示通りの濃度が含まれているか)、検査機関(ISO認証を受けた第三者機関による検査か)、検査日(最近の検査結果か、1年以内が望ましい)が記載されています。COAが提供されていない、または曖昧な表記の製品は避けるのが安全です。

罰則の全体像
行為別の罰則一覧
改正大麻取締法における罰則は、以下のように定められています。
| 行為 | 罰則 | 備考 |
|---|---|---|
| 所持 | 7年以下の懲役 | 営利目的:10年以下 |
| 栽培 | 7年以下の懲役 | 営利目的:10年以下 |
| 譲渡・譲受 | 7年以下の懲役 | 営利目的:10年以下 |
| 使用(新設) | 7年以下の懲役 | 初犯は執行猶予の可能性 |
| 輸入・輸出 | 10年以下の懲役 | 営利目的:さらに加重 |
営利目的の場合、罰則は10年以下の懲役に加重されます。執行猶予が付きにくく、初犯でも実刑となる可能性があります。特に未成年への譲渡については、3年以上の有期懲役という重い罰則が設定されており、営利目的の場合は5年以上の有期懲役となります。
国際比較
世界の大麻政策の潮流
世界各国の大麻政策は、大きく4つのカテゴリーに分けられます。
第一に、完全合法化を実現した国々です。カナダ、ウルグアイ、アメリカ(24州)、ドイツ(2024年4月)などが嗜好用大麻も含めて合法化しています。第二に、医療大麻のみ合法としている国々です。38ヶ国以上が医療大麻を認めており、イギリス、オーストラリア、イスラエル、タイなどが含まれます。第三に、非犯罪化を採用している国々です。ポルトガル、オランダ、スペインなどでは、違法ではあるものの刑事罰は科されません。第四に、厳格な規制を維持している国々です。日本、中国、韓国、シンガポールなどがこのカテゴリーに属します。
日本の特殊性
日本の大麻政策は、先進国の中でも特に厳格です。第一の特徴は、使用罪の新設です。先進国では珍しい厳罰化の動きと言えます。第二の特徴は、医療大麻の制限が極めて厳格であることです。条件が厳しく、承認例も限定的です。第三の特徴は、嗜好用大麻の議論すら進まないことです。政治的タブーとされており、公の場での議論が難しい状況にあります。
この背景には、数十年にわたる「ダメ。ゼッタイ。」という薬物政策があります。大麻を麻薬と同一視する認識が根強く、世論も保守的です。
今後の展望
短期的な展望(1-3年)
今後1-3年の間に、日本の大麻政策には以下のような変化が予想されます。
まず、医療大麻の処方例が徐々に増加していくと考えられます。特にてんかん患者を中心に、従来の治療法では効果が不十分だった患者への新たな選択肢として、医療大麻の処方が広がっていく可能性があります。また、エピディオレックスの正式な承認申請が行われる可能性も高く、承認されれば日本初の大麻由来医薬品となります。
次に、使用罪の運用状況の検証が進むでしょう。新設された使用罪により逮捕者数がどのように変化するか、また実際に大麻使用の抑止効果があるのかが、データを通じて評価されることになります。この結果によって、今後の政策方針が調整される可能性もあります。
さらに、CBD市場の健全化が進むと予想されます。成分規制への移行により、THCを含む違法製品を販売する悪質業者が排除され、品質管理が徹底された正規品のみが市場に流通する環境が整っていくでしょう。
中期的な展望(5-10年)
5-10年の中期的なスパンでは、より大きな変化が生じる可能性があります。
医療大麻の対象疾患の拡大が期待されます。現在はてんかんが主な対象ですが、慢性疼痛、PTSD、がん患者の症状緩和など、より幅広い疾患への応用が検討されるでしょう。海外での臨床データが蓄積されるにつれて、より多くの大麻由来医薬品が日本でも承認される可能性があります。
また、日本国内での研究が活性化することも予想されます。医療大麻の部分的解禁により、大学や研究機関での大麻に関する臨床研究が開始され、日本独自のエビデンスが構築されていくでしょう。これにより、より日本の実情に合った政策決定が可能になります。
さらに、世論の変化も徐々に進む可能性があります。特に若年層を中心に、大麻に対する認識が寛容化する兆しが見られ、メディアでの議論も活発化していくと考えられます。医療大麻の実例が増えることで、科学的な議論の土台が形成されていくでしょう。
長期的な展望(10年以上)
10年以上の長期的な展望については、不確定要素が多く予測が困難ですが、いくつかの可能性が考えられます。
一つの可能性として、嗜好用大麻の議論が開始されるかもしれません。世界的には嗜好用大麻の合法化が進んでおり、カナダ、ウルグアイ、米国の多くの州、そしてドイツなど主要国で合法化が実現しています。この世界的な潮流が日本にも影響を与え、少なくとも議論のテーブルに乗る可能性はあります。ただし、日本の保守的な世論を考えると、実現のハードルは極めて高いと言わざるを得ません。
また、非犯罪化の検討が進む可能性もあります。ポルトガルをはじめとする欧州諸国では、大麻使用を犯罪としてではなく、治療・教育の対象として扱う「非犯罪化」モデルが成功を収めています。日本でも、刑罰による抑止効果が限定的であることが明らかになれば、欧州モデルを参考にした政策転換が議論されるかもしれません。
さらに、産業用大麻の利用拡大も期待されます。繊維、建材、食品としての大麻の利用は、環境負荷が低く持続可能な産業として注目されています。地域振興や農業政策の一環として、THCを含まない産業用大麻の栽培が拡大していく可能性があります。
実現を阻む要因
しかし、これらの変化を阻む大きなハードルも存在します。日本の保守的な世論は、大麻に対して依然として厳しい姿勢を示しています。数十年にわたる「ダメ。ゼッタイ。」という薬物教育の影響は根強く、大麻を麻薬と同一視する認識が一般的です。また、大麻政策の緩和は政治的なタブーとされており、政治家が積極的に議論することは選挙において不利になると考えられています。
さらに、警察・検察の姿勢も変化を困難にする要因です。取り締まりを強化する方向での法改正は支持されやすい一方で、規制緩和は「犯罪の容認」として受け止められやすいという構造的な問題があります。
FAQ
主に尿検査、毛髪検査、血液検査によって立証されます。尿検査では使用後数日から数週間、毛髪検査では数ヶ月前の使用まで検出可能です。血液検査は使用直後の検出に有効とされています。
法律上は、日本国民が海外で大麻を使用した場合も、日本の法律(使用罪)が適用される可能性があります。ただし、実際の立証は困難なため、帰国時の尿検査で陽性にならない限り、処罰は難しいとされています。それでも、海外での使用も推奨されません。
THCを含まない正規のCBD製品であれば違法ではありません。ただし、国内正規代理店から購入した製品であること、第三者機関の検査証明書(COA)があること、THCが0.00%であることが証明されていることが重要です。警察官に職務質問された場合、これらの証明書を提示できるようにしておくと安心です。
専門医(てんかん専門医、ペインクリニックなど)に相談し、従来の治療が効果不十分であることを証明する必要があります。その後、医師が厚生労働省に申請し、厚労省の承認を得ることで処方が可能になります。現状では承認例が限定的であり、すぐに処方されるわけではありません。
シンガポールや中国など、さらに厳しい国もありますが、日本は先進国の中では最も厳格な部類に入ります。2024年の改正で使用罪が新設されたことは、多くの先進国が規制緩和に向かう中で逆行する動きと言えます。ただし、医療大麻の条件付き解禁は、日本の大麻政策において大きな前進です。
まとめ
📝 この記事のまとめ
2024年12月12日施行の大麻取締法改正により、使用罪が新設され最大7年の懲役刑が科されるようになった
医療大麻が条件付きで解禁され、厚生労働大臣の承認のもと医師が処方できるようになった
部位規制から成分規制へ移行し、THCを含まないCBD製品は引き続き合法であることが明確化された
日本の大麻政策は世界的には依然として厳格だが、医療大麻の解禁により科学的議論の余地が生まれた
今後の医療大麻の処方実績や使用罪の運用状況、世論の変化に注目が集まる

