アメリカDEA、大麻の再スケジュール化審議が最終段階へ - スケジュールIIIへの移行で何が変わる?

アメリカの麻薬取締局(DEA)による大麻の再スケジュール化審議が、2025年1月に予定されていた公聴会の延期以降、停滞状態にあります。大麻を現在の「スケジュールI」から「スケジュールIII」に変更する動きは、実現すればアメリカの大麻政策における50年ぶりの歴史的転換点となる可能性があります。本記事では、再スケジュール化の背景、現在の状況、そして今後の展望を詳しく解説します。
概要:5つの重要ポイント
✓ DEAが大麻をスケジュールIからスケジュールIIIに変更する提案を発表も、審議は停滞中
✓ 2024年5月にバイデン政権が正式に提案したが、2025年1月の公聴会は延期され、その後進展なし
✓ 実現すれば医療大麻研究が大幅に促進される見込み
✓ 大麻関連企業は大幅な税制優遇を受けられる可能性
✓ 嗜好用大麻が連邦レベルで合法化されるわけではない
スケジュール制度とは?大麻の現在の分類
DEAのスケジュール分類
アメリカでは、DEA(麻薬取締局)が薬物を5段階に分類するスケジュール制度を採用しています。
| スケジュール | 定義 | 主な薬物 |
|---|---|---|
| I | 医療用途なし、乱用の危険性が高い | 大麻(現在)、ヘロイン、LSD、エクスタシー |
| II | 医療用途あり、乱用の危険性が高い | コカイン、メタンフェタミン、オキシコドン |
| III | 医療用途あり、乱用の危険性は中程度 | 大麻(提案後)、ケタミン、アナボリックステロイド |
| IV | 医療用途あり、乱用の危険性は低い | ベンゾジアゼピン、トラマドール |
| V | 医療用途あり、乱用の危険性が最も低い | 低用量コデイン含有薬 |

現在の問題点:スケジュールIの矛盾
大麻は1970年以来、スケジュールI(医療用途なし)に分類されています。しかし、この分類には以下のような矛盾があります:
✗ 現在、38州とワシントンD.C.で医療大麻が合法化されている
✗ FDA(食品医薬品局)承認のCBD医薬品「エピディオレックス」が存在
✗ 研究により医療効果が次々と実証されている
✗ 依存性はアルコールやタバコよりも低いという研究結果
再スケジュール化の経緯:バイデン政権の歴史的決断
タイムライン
バイデン大統領が大麻所持での連邦有罪判決を恩赦
保健福祉省(HHS)とDEAに大麻の分類見直しを指示
HHSがDEAに対し、大麻をスケジュールIIIに変更するよう勧告
DEAが正式に再スケジュール化の提案を発表
公聴会の開催を決定
予定されていた公聴会が延期される
手続き上の異議申し立てにより審議が一時停止
公聴会延期から180日以上が経過するも、DEAは「進展なし」と回答
再開時期や決定時期は不透明な状況が続く
バイデン政権の意図
バイデン大統領はこの決定について、以下のように述べています:
「大麻所持で投獄されている人があまりにも多い。これは医療的価値のある物質であり、スケジュールIに分類し続けることは合理的ではない」
— ジョー・バイデン大統領再スケジュール化で何が変わる?5つの主な影響
| 影響分野 | 現状(スケジュールI) | 再スケジュール化後(スケジュールIII) |
|---|---|---|
| 1. 医療大麻研究 | 研究許可取得が非常に困難 研究用大麻の入手が限定的 臨床試験の実施に多大な規制 | 研究機関が大麻研究を行いやすくなる 臨床試験の実施が容易に 医療効果の科学的検証が加速 |
| 2. 大麻企業の税負担 | 280E条項によりビジネス経費控除不可 実効税率が70-80%に達することも | 280E条項が適用されなくなる 通常のビジネス経費控除が可能に 実効税率が21-30%程度に低下 |
| 3. 医療大麻アクセス | 医師が処方を躊躇 医療保険の適用が限定的 | 医師が医療大麻を処方しやすくなる 医療保険の適用範囲が拡大する可能性 より多くの患者が治療選択肢として利用可能に |
| 4. 銀行サービス | 銀行口座開設が困難 クレジットカード利用が困難 現金取引中心で透明性が低い | 銀行が大麻企業と取引しやすくなる キャッシュレス決済の普及 産業の透明性向上 |
| 5. 国際的な影響 | — | カナダ、ヨーロッパ諸国との連携強化 国際的な医療大麻研究の促進 日本を含むアジア諸国への間接的影響 |
5. 国際的な影響
アメリカの政策変更は、他国の大麻政策にも影響を与える可能性があります:
- カナダ、ヨーロッパ諸国との連携強化
- 国際的な医療大麻研究の促進
- 日本を含むアジア諸国への間接的影響
再スケジュール化で変わらないこと
嗜好用大麻は連邦レベルで違法のまま
重要な注意点:
- 再スケジュール化は医療大麻の扱いに関する変更
- 嗜好用大麻の連邦法での違法性は変わらない
- 各州の法律(嗜好用合法化)とは別問題
州法との関係
- 各州が独自に嗜好用・医療用大麻を合法化する権限は変わらない
- 連邦法と州法の矛盾は残る
- 完全な合法化には連邦議会による法改正が必要
業界の反応:賛否両論
賛成派の意見
医療大麻支援団体:
「50年間の誤った分類がようやく是正される。これは患者と研究者にとって大きな前進だ」
— 医療大麻支援団体大麻産業団体:
「税制面での改善により、産業の健全な成長が期待できる。雇用創出にもつながる」
— 大麻産業団体慎重派・反対派の意見
一部の保守派議員:
「大麻の危険性は過小評価されている。若者への影響を懸念する」
— 保守派議員医師団体の一部:
「より多くの長期的な研究が必要。拙速な規制緩和は避けるべき」
— 医師団体今後の展望:停滞する審議プロセス
最終決定までのプロセス(停滞中)
本来予定されていたプロセス:
- 公聴会の開催 → 延期されたまま
- パブリックコメントの精査 → 停滞中
- DEA内部での最終審議 → 未着手
- OMB(行政管理予算局)による審査 → 未着手
- 最終規則の公布 → 時期未定
実現の可能性と課題
現状の課題:
- 2025年1月以降、審議が完全に停止
- DEAは180日以上経過しても「進展なし」と回答
- 公聴会の再開時期も未定
実現を後押しする要因:
- 医学的エビデンスの蓄積
- 州レベルでの合法化の拡大
- 世論の変化(アメリカ人の約7割が大麻合法化を支持)
- HHSの科学的勧告
実現を阻む可能性のある要因:
- 政治的反対による審議の遅延
- 2026年以降の政権交代の影響
- 手続き上の異議申し立てへの対応
- 予期せぬ副作用への懸念
日本への影響は?
直接的な影響は限定的
日本は独自の大麻取締法を持っており、アメリカの政策変更が直ちに日本の法律に影響することはありません。
間接的な影響の可能性
期待される変化:
- アメリカでの医療大麻研究の成果が日本にも波及
- 日本の医療大麻議論に影響を与える可能性
- CBD製品の品質向上と価格低下
日本の現状:
- 2024年12月の大麻取締法改正で医療大麻の条件付き使用が可能に
- ただし、実際の処方はまだ限定的
- 今後の研究成果を注視する段階
よくある質問(FAQ)
再スケジュール化で大麻は完全に合法化されますか?
いいえ、完全な合法化ではありません。再スケジュール化は医療用途を認めるもので、嗜好用大麻は連邦レベルで引き続き違法です。
完全な合法化には連邦議会による法改正が必要です。
いつ最終決定されますか?
現在、審議プロセスは停滞しており、決定時期は不透明です。2025年1月に公聴会が延期されて以降、180日以上が経過しても進展がなく、DEAも具体的な再開時期を明示していません。
政治的状況や手続き上の課題により、決定までにはまだ相当な時間を要する可能性があります。
日本の大麻政策に影響はありますか?
直接的な法的影響はありませんが、アメリカでの医療大麻研究の進展により、日本でも医療大麻に関する議論が活発化する可能性があります。
また、CBD製品の品質向上などの間接的な影響が期待されます。
まとめ
アメリカDEAによる大麻の再スケジュール化は、実現すれば50年ぶりの大麻分類の見直しとなる歴史的な転換点です。医療大麻研究が大幅に促進され、大麻産業の健全な成長と患者の治療選択肢拡大が期待されます。
2025年1月の公聴会延期以降、審議は停滞中で決定時期は不透明
実現すれば医療大麻研究が大幅に促進され、患者の治療選択肢が拡大
大麻企業の税負担が大幅軽減され、産業の健全な成長を支援
国際的な大麻政策への影響が期待され、日本にも間接的な影響の可能性
再スケジュール化が実現すれば、アメリカの大麻政策は新たな時代を迎えることになります。しかし、現在の停滞状況を考えると、実現までにはまだ時間と政治的な調整が必要となるでしょう。医療大麻の可能性を科学的に検証し、患者に適切な治療選択肢を提供するための重要な一歩として注目が集まっています。


