ワシントンD.C.、大麻販売解禁の可能性|トランプのリスケジュール命令で何が変わる?

この記事のポイント
✓ トランプ大統領の大統領令により、大麻がスケジュールIIIへ移行する見込み
✓ D.C.の販売禁止を定めた「ハリスライダー」がスケジュールI物質のみを対象としているため、抜け穴が生まれる可能性
✓ ただし「テトラヒドロカンナビノール誘導体」の曖昧な定義が残された課題
アメリカの首都ワシントンD.C.で、10年以上にわたり禁止されてきた嗜好用大麻の販売が解禁される可能性が浮上しています。きっかけは、トランプ大統領が2024年12月に署名した大麻のリスケジュール(分類変更)を指示する大統領令です。この命令が実行されれば、連邦議会がD.C.に課してきた販売禁止規定に「抜け穴」が生まれ、首都で初めて合法的な大麻小売市場が誕生する道が開かれます。
背景:D.C.の大麻合法化と「ハリスライダー」
ワシントンD.C.の大麻をめぐる状況は、アメリカの他の合法化州とは大きく異なります。2014年11月、D.C.の有権者は住民投票「Initiative 71」で、21歳以上の成人による少量の大麻所持と自宅栽培を合法化することを64.87%の賛成で承認しました。しかし、この投票結果が施行されるや否や、連邦議会が介入し、販売の合法化を阻止したのです。
Initiative 71が住民投票で可決(賛成64.87%)
21歳以上の大麻所持・自宅栽培が合法化
連邦議会がハリスライダーを予算案に挿入
D.C.の大麻販売・課税の合法化を禁止
Initiative 71が施行開始
所持は合法だが販売は違法という「グレーゾーン」が誕生
「ギフティング」ビジネスが急増
推定1,000以上の非正規店舗が営業
トランプ大統領がリスケジュール命令に署名
D.C.販売解禁の可能性が浮上
この介入の中心人物が、メリーランド州選出のアンディ・ハリス下院議員(共和党)でした。彼が導入した予算条項は「ハリスライダー」と呼ばれ、D.C.が地方資金を使って「スケジュールI物質の所持、使用、流通に関する罰則を合法化または軽減する」ことを禁止しています。D.C.は州ではなく連邦直轄地であるため、議会がこのような制限を課す権限を持っているのです。
その結果、D.C.では奇妙な「グレーマーケット」が形成されました。大麻の所持は合法でも購入は違法という状況の中、事業者たちはTシャツやステッカーなどを販売し、その「おまけ」として大麻を「ギフト(贈り物)」するというビジネスモデルを編み出しました。推定で1,000以上のこうした非正規店舗がD.C.市内で営業していたとされています。
トランプのリスケジュール命令の詳細
2024年12月18日、トランプ大統領は大麻をスケジュールI(医療用途がなく、乱用の危険性が高いとされる分類)からスケジュールIII(医療用途が認められ、乱用の危険性が中程度とされる分類)へ移行させることを指示する大統領令に署名しました。
📋 大統領令の主な内容
指示内容:司法長官パム・ボンディに対し、連邦法に従って「最も迅速な方法で」大麻をリスケジュールするよう命令
根拠:「大麻は慎重に投与された場合、医療的応用において正当性を持つことを事実が示している」とトランプ大統領が言及
影響:連邦レベルでの完全合法化ではないが、規制の緩和と大麻産業への税負担軽減が期待される
注目すべきは、2026年1月5日に発表された連邦議会の予算案から、リスケジュールを阻止しようとする条項が削除されたことです。これは議会がリスケジュールの流れを黙認する姿勢に転じたことを示唆しています。
ただし、リスケジュールの完了時期は依然として不透明です。反大麻団体「Smart Approaches to Marijuana(SAM)」は、元司法長官ビル・バー氏を代理人として訴訟を準備していると表明しており、法的挑戦が長引けば実現まで2〜3年かかる可能性もあります。
なぜD.C.の販売が解禁される可能性があるのか
ハリスライダーの条文を詳しく見ると、なぜリスケジュールがD.C.にとって重要なのかが分かります。この条項は、D.C.が資金を使って「スケジュールI物質の所持、使用、流通に関する罰則を合法化または軽減する」ことを禁止しています。
| 項目 | 現状(スケジュールI) | リスケジュール後(スケジュールIII) |
|---|---|---|
| ハリスライダーの適用 | 適用される | 適用されない可能性 |
| D.C.の販売規制権限 | 禁止されている | 許可される可能性 |
| 課税権限 | 禁止されている | 許可される可能性 |
| 市場規制の策定 | 禁止されている | 許可される可能性 |
議会調査局(CRS)の2024年レポートは、この点について重要な法的解釈を示しています。レポートによれば、ハリスライダーの制限は「すべてのスケジュールI規制物質」に限定されており、大麻に特定されていないため、大麻がスケジュールIIIに移行すれば、「D.C.は嗜好目的での大麻所持または使用に関する地方の禁止を撤廃することが許可される」としています。
さらにCRSレポートは、リスケジュールによりD.C.が「嗜好用大麻の商業販売を認可し、市場規制を確立し、大麻税を課す」ことが可能になると分析しています。これは、D.C.にとって10年以上待ち望んでいた「抜け穴」となる可能性があるのです。
残された課題と懸念点
しかし、すべてが順調に進むわけではありません。ハリスライダーには別の条項があり、D.C.が「テトラヒドロカンナビノール誘導体」の嗜好目的での使用に関する罰則を軽減することも禁止しています。問題は、この「テトラヒドロカンナビノール誘導体」という用語が、連邦法やD.C.法のどこにも明確に定義されていないことです。
⚠️ 法的な曖昧さがもたらすリスク
定義の不在:「テトラヒドロカンナビノール誘導体」は規制物質法にもD.C.法にも定義がない
解釈の余地:大麻全体を含むのか、特定の合成カンナビノイドのみを指すのか不明確
訴訟リスク:D.C.のヘンプ企業がすでにこの条項の「違憲的な曖昧さ」を理由に訴訟を提起
NORMLの分析によれば、「テトラヒドロカンナビノール誘導体」が「大麻全般を含むと裁判所が解釈する可能性は低い」としていますが、この問題が法廷で争われる可能性は十分にあります。CRSレポートも、「特定の物質が法的に大麻なのか、ヘンプなのか、テトラヒドロカンナビノール誘導体なのか、あるいはその他のものなのかについて、解釈上の疑問が生じる可能性がある」と指摘しています。
今後の展望
D.C.の大麻市場は、すでに大きな転換期を迎えています。2025年3月31日を期限として、従来の「ギフティング」店舗は正規の医療大麻ディスペンサリーへの移行を求められており、移行しない店舗は閉鎖されます。現在、D.C.には30,000人以上の登録医療大麻患者がおり、医療市場は着実に拡大しています。
一方で、D.C.の合法市場は隣接するメリーランド州との競争にも直面しています。メリーランド州では2023年から嗜好用大麻の販売が完全に合法化されており、D.C.住民が州境を越えて購入するケースも増えています。D.C.が嗜好用販売を解禁できれば、推定で数億ドル規模の税収が見込まれるとの試算もあります。
トランプ政権のリスケジュール命令が計画通りに進むかどうかは、今後の法的挑戦や議会の動向次第です。しかし、10年以上にわたり「グレーゾーン」に置かれてきたD.C.の大麻市場にとって、正式な合法化への道筋がようやく見え始めたことは間違いありません。
FAQ
いいえ、すぐには購入できません。リスケジュールが完了しても、D.C.議会が販売を許可する法律を制定し、規制の枠組みを整備する必要があります。また、ハリスライダーの「テトラヒドロカンナビノール誘導体」に関する条項の解釈が法廷で争われる可能性もあり、実際に販売が開始されるまでには時間がかかる見込みです。
現行法では、D.C.で21歳以上の成人が少量の大麻を所持・使用することは合法です。ただし、日本の大麻取締法は海外での使用にも適用される可能性があり、帰国後に問題となるリスクがあります。また、大麻の影響下での運転は違法であり、公共の場での使用も制限されています。
いいえ、リスケジュールは連邦レベルでの完全合法化を意味しません。スケジュールIIIへの移行は、大麻が「医療用途が認められ、乱用の危険性が中程度」とされる物質に再分類されることを意味しますが、各州の法律は引き続き適用されます。ただし、大麻産業への税制優遇や研究の促進など、さまざまな面で規制が緩和されることが期待されています。
まとめ
📝 この記事のまとめ
トランプ大統領のリスケジュール命令により、大麻がスケジュールIからスケジュールIIIへ移行する見込み
ハリスライダーが「スケジュールI物質」のみを対象としているため、D.C.で嗜好用大麻販売が解禁される可能性が浮上
ただし「テトラヒドロカンナビノール誘導体」の曖昧な定義や訴訟リスクなど、課題も残されている
実現すれば、D.C.は10年以上のグレーマーケットから正式な合法市場へ移行できる
参考文献
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