メインコンテンツへスキップ

大麻エキスVER-01の慢性腰痛試験|820人でオピオイドを上回る54%の疼痛改善

ASA Media編集部
12分
大麻エキスVER-01の慢性腰痛試験|820人でオピオイドを上回る54%の疼痛改善

この記事のポイント

  • ドイツVertanical社のフルスペクトラム大麻エキス「VER-01」が、820人を対象としたPhase 3 RCTで慢性腰痛の有意な改善を示した(2025年9月、Nature Medicine掲載)
  • プライマリエンドポイントを達成:54.1%が30%以上の疼痛改善(プラセボ39.5%)、依存性・禁断症状はゼロ
  • 12ヶ月の比較試験ではオピオイドを上回る鎮痛効果と消化器系忍容性を確認、睡眠・身体機能も改善
  • 欧州で承認申請中(2026年承認目標)、米国Phase 3は2026年初頭開始予定——大麻由来医薬品の歴史を塗り替える可能性がある

慢性腰痛は世界で最も多くの障害を引き起こす疾患のひとつです。日本でも腰痛を抱える人は2,800万人以上と推計され、鎮痛薬への依存や副作用に悩む患者が後を絶ちません。そのような中、2025年9月にドイツの研究チームが医学誌 Nature Medicine に発表した一本の論文が、疼痛医療の世界に波紋を投じています。

フルスペクトラム大麻エキス「VER-01」を用いた820人規模のPhase 3無作為化比較試験(RCT)において、慢性腰痛への顕著な鎮痛効果が確認されました。依存性や禁断症状が認められず、長期的にはオピオイドを上回る鎮痛効果と忍容性を示したこの試験は、大麻由来医薬品の歴史における「ゲームチェンジャー」と評価されています。

慢性腰痛とオピオイド依存——新しい選択肢が求められる背景

慢性低背部痛(Chronic Low Back Pain, CLBP)は、腰部から臀部にかけての3ヶ月以上続く疼痛として定義されます。世界保健機関(WHO)の推計では、全世界で5億7,000万人以上が罹患しており、障害の原因として世界第1位に挙げられています。

現在の標準治療は、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)、オピオイド系鎮痛薬、抗うつ薬、理学療法などの組み合わせです。しかし、オピオイドは長期使用による依存形成・過量摂取死亡リスクが深刻であり、特に北米では社会問題化しています。NSAIDsも消化管・心血管系への副作用が問題となっており、有効かつ安全な長期鎮痛薬のニーズは世界的に高まっています。

カンナビノイドはこうした背景から注目されてきましたが、これまでの試験の多くは小規模・短期間であり、医薬品として承認されるに足る高品質なエビデンスが不足していました。VER-01試験はこの課題に正面から向き合った、初めての大規模Phase 3 RCTです。

VER-01とは——100種類以上の成分を含むフルスペクトラムエキス

VER-01はドイツのVertanical GmbHが開発した大麻エキスで、独自に特許取得した Cannabis sativa L. 品種「DKJ127」を原料としています。各服用単位(119µl)には以下の主要カンナビノイドが含まれています。

成分含有量
THC(テトラヒドロカンナビノール)2.5 mg
CBG(カンナビゲロール)0.1 mg
CBD(カンナビジオール)0.02 mg

単なるCBDCBGの単一成分製剤とは異なり、VER-01にはテルペン・フラボノイド・カロテン・植物ステロールなど100種類以上の化合物が含まれます。これが既存の大麻医薬品(Epidiolex、Sativex等)との最大の差別点です。

研究者らはこの多成分構成がアントラージュ効果(相乗効果)を生む可能性を示唆しています。フルスペクトラム製品が単一成分より優れた効果を発揮するという仮説に、初めて大規模臨床エビデンスが加わった形です。

【VER-01の作用メカニズム仮説】

THCがCB1・CB2受容体に作用して直接的な鎮痛効果をもたらす一方、テルペンやフラボノイドがエンドカンナビノイドシステム(ECS)の調節を助け、相乗的な効果をもたらすと考えられています。ただし、この多成分相乗仮説を直接検証する研究は今後の課題です。

Phase 3試験のデザイン——66施設・820人・最長24ヶ月

この試験(ClinicalTrials.gov: NCT04940741)はドイツとオーストリアの66施設で、2021年7月から2023年6月にかけて実施されました。4つのフェーズからなる複合デザインが採用されています。

Phase A(12週)

二重盲検プラセボ対照期

VER-01群394人・プラセボ群426人の無作為化比較。主要評価項目:疼痛数値評価尺度(NRS)の変化量

Phase B(6ヶ月)

オープンラベル延長期

全参加者にVER-01を投与。長期的な効果・安全性を継続評価

Phase C(6ヶ月)

継続投与期

VER-01継続群の長期効果を評価

Phase D(6ヶ月)

無作為中断試験

VER-01→プラセボ切り替えにより、薬剤効果と依存性の有無を検証

参加者の平均年齢は52歳、女性が56.6%、平均BMIは29 kg/m²でした。ベースラインの疼痛強度はNRSで6.0〜6.1(10点満点)と中等度〜重度。99%が以前に鎮痛薬を使用しており、95%が理学療法など標準的治療を受けた後も改善が不十分だったという、治療抵抗性の高い集団です。

主要結果——54.1%の疼痛改善とオピオイド比較データ

Phase Aの主要エンドポイント

Phase A(12週間)終了時点でVER-01群の疼痛NRSは平均**−1.9ポイント**改善し、プラセボ群の−1.4ポイントを有意に上回りました(差 −0.6、95%CI −0.9〜−0.3、P<0.001)。

評価項目VER-01群プラセボ群P値
疼痛NRS変化量(Phase A)−1.9点−1.4点P<0.001
30%以上の疼痛改善(達成率)54.1%39.5%P<0.001
50%以上の疼痛改善(達成率)32.2%22.8%P<0.01
神経障害性疼痛スコア(NPSI)変化量−14.4点−7.1点P=0.017
睡眠質NRS変化量−2.2点−1.5点P<0.05
SF-36身体コンポーネント+5.9点+3.7点P<0.05
全般改善印象(患者評価)45.1%23.4%P<0.001

30%以上の疼痛改善を達成するための治療必要数(NNT)は6.8でした。これは既存のオピオイド系薬の慢性腰痛に対するNNT(通常9〜14程度)と比較して良好な値です。

長期成績——Phase Bでさらに改善

Phase B(6ヶ月オープンラベル延長)終了時点では、VER-01群の疼痛改善は**−2.9 NRSポイント**まで拡大しました。長期投与によって効果が漸増するパターンは、慢性疼痛治療において非常に望ましい特性です。

オピオイドとの直接比較

Phase B以降の比較データでは、VER-01はオピオイド(主にオキシコドン・モルヒネ等)と比較して以下の優位性が確認されています。

  • 鎮痛効果:VER-01がオピオイドを上回る
  • 消化器系忍容性:オピオイドで頻発する便秘がVER-01では認められない
  • 依存リスク:VER-01では依存形成の指標がゼロ

大麻合法化でオピオイド処方が減少する傾向は以前から指摘されていましたが、Phase 3データによる直接比較でオピオイドを上回る成績が示されたのは今回が初めてです。

安全性プロファイル——副作用は軽度が大半、依存性なし

有害事象の全体像

Phase Aで有害事象が報告された割合はVER-01群83.3%、プラセボ群67.3%と差がありましたが(P<0.001)、94%が軽度〜中等度でした。主な有害事象は以下の通りです。

  • 眩暈:42.8%(最多)
  • 悪心:16.4%
  • 頭痛:15.9%
  • 疲労感:15.1%
  • 口渇:13.1%
  • 眠気:11.8%

副作用による試験中断率はVER-01群17.3%に対しプラセボ群3.5%と差がありました。多くは試験開始後数週間以内に発生・消失する一過性のものでした。

依存性・禁断症状:ゼロ

最も注目すべき安全性データは依存性の欠如です。Cannabis Withdrawal Scale(大麻離脱症状評価ツール)を用いた評価、尿中薬物スクリーニング、DSM-5の物質使用障害基準いずれにおいても、VER-01による依存形成や禁断症状は認められませんでした。

THCを含む製品でありながら依存性がゼロというデータは、本試験の最も画期的な発見のひとつです。研究者らは、VER-01のTHC含有量(1服用当たり2.5mg)が娯楽目的の大麻使用量に比べて極めて少ないこと、および多成分の相互作用がTHCの精神作用を緩和している可能性を要因として挙げています。

専門家の評価——「高エビデンスの優れた試験」

英国エクセター大学のJan Vollert博士はScience Media Centreのコメントで「エビデンスの質が高く優れた試験(excellent study with high level of evidence)」と評価し、「慢性痛を抱える多くの人にとって臨床的に意義のある疼痛緩和効果」と述べました。

インペリアル・カレッジ・ロンドンのDavid Nutt教授(神経精神薬理学)は「エレガントな研究」と称え、「大麻由来製品が慢性疼痛に役割を持つことを確認した。NHSでのより合理的な医療大麻処方を求める」とコメントしています。

一方でVollert博士は、無作為中断試験(Phase D)での結果が統計的有意差に届かなかった点を指摘し、「長期的な効果の持続性についてはさらなる研究が必要」とも述べています。研究者らも本試験が主にドイツ・オーストリアの白人集団を対象としており、人種的多様性が限られる点を限界として認めています。

承認見通しと日本への示唆

欧州での規制動向

Vertanical社は2025年10月のPhase 3結果発表と同時に、欧州複数国への医薬品承認申請(Marketing Authorization Application)を提出しています。ドイツでの承認が下りた後は「相互承認手続き(Mutual Recognition Procedure)」によりEU全域への展開が可能になります。承認が実現すれば、VER-01は慢性疼痛を適応症とする初の大麻由来医薬品となります。米国でのPhase 3は2026年初頭に開始予定です。

日本の現状

2024年12月に施行された改正大麻取締法により、日本でも「大麻由来医薬品」の使用が原則として解禁されました。ただし現時点で日本国内での大麻由来医薬品の流通は限定的であり、VER-01のような処方薬が国内で承認されるには欧米での実績蓄積と厚生労働省による審査プロセスが必要です。

CBDの鎮痛効果に関心を持つ日本の研究者・医療者にとって、VER-01のデータは今後の国内大麻医薬品開発の方向性を示す重要な先行事例です。フルスペクトラムの多成分製剤が単成分製剤を上回る可能性を示した本データは、日本の規制当局や製薬企業の議論にも影響を与えるでしょう。

まとめ

VER-01 Phase 3試験は、大麻由来医薬品の臨床開発において歴史的な意義を持ちます。820人を対象とした質の高いRCTで、フルスペクトラム大麻エキスが慢性腰痛に対して有意な鎮痛効果を示し、依存性なしでオピオイドを上回る長期成績を達成したという知見は、今後の疼痛医療の選択肢を根本的に変える可能性を秘めています。

欧州での承認実現、そして米国Phase 3の結果が出るまでには時間を要しますが、この論文が世界の疼痛専門家・規制当局・製薬業界に与えたインパクトは計り知れません。日本においても改正大麻取締法を受けた制度整備が進む中、VER-01の動向は引き続き注視すべきトピックです。

VER-01はドイツVertanical社が特許取得した大麻品種DKJ127から抽出したフルスペクトラムエキスです。1服用単位(119µl)にTHC 2.5mg、CBG 0.1mg、CBD 0.02mgを含むほか、テルペン・フラボノイド・カロテン・植物ステロールなど100種類以上の化合物が含まれます。

平均年齢52歳、女性56.6%の慢性腰痛患者820人が参加しました。99%がすでに鎮痛薬を使用しており、95%が理学療法など標準治療を受けても改善しなかった、治療抵抗性の高い患者集団です。ベースラインの疼痛強度は10点スケールで6.0〜6.1と中等度〜重度でした。

Phase 3試験では依存性・禁断症状は認められませんでした。Cannabis Withdrawal Scale(大麻離脱評価ツール)、尿中薬物スクリーニング、DSM-5の物質使用障害基準すべてで陰性でした。1服用当たりのTHC量(2.5mg)が極めて少ないこと、およびフルスペクトラムの多成分構成がTHCの作用を緩和している可能性が理由として考えられています。

現時点では入手できません。VER-01は欧州および米国で承認申請中の段階であり、日本では未承認です。2024年12月施行の改正大麻取締法により大麻由来医薬品の使用は原則解禁されましたが、VER-01が日本で承認・流通するには厚生労働省による審査プロセスを経る必要があります。

①試験対象が主にドイツ・オーストリアの白人集団であり、人種的多様性が限られる、②無作為中断試験(Phase D)の長期効果持続性データが統計的有意差に届かなかった、③THCを含む医薬品のため処方箋が必要で一般的なCBD製品とは別の規制下に置かれる、などが著者らが認める限界点です。

この記事の関連用語

クリックで用語の詳しい解説を見る

関連シリーズ

  1. 1大麻合法化でオピオイド処方が減少 - JAMA最新研究が示す医療的価値
  2. 2CBDと乳がん - 最新研究で明らかになった抗がん作用と臨床試験の現状
  3. 3CBDがアルコール依存症の渇望を軽減|ICONIC試験で脳の報酬系に作用確認【2024年最新研究】
  4. 4アルツハイマー病に大麻マイクロドーズが有効?ブラジル臨床試験の画期的結果【2024年】
  5. 5CBDは不安障害に効くのか?大規模RCTが示す科学的エビデンス

関連記事

この記事を読んだ人はこちらも読んでいます