CBDとCBGが脂肪肝(MASLD)を修復する新メカニズムをヘブライ大学が解明

この記事のポイント
✓ CBDとCBGが脂肪肝(MASLD)の肝細胞を修復する2つの新メカニズムを世界初解明
✓ ホスホクレアチン蓄積とリソソーム再活性化という画期的な作用経路を発見
✓ CBGはCBDより体脂肪・コレステロール・インスリン感受性で優れた効果を示した
✓ 世界成人の3人に1人が罹患するMASLDには現在も承認薬が存在しない
世界成人の約3分の1が罹患しながら、承認された治療薬が一つも存在しない——それが代謝機能障害関連脂肪肝疾患(MASLD:Metabolic dysfunction-Associated Steatotic Liver Disease)の現実です。2026年3月、イスラエルのヘブライ大学エルサレム校に拠点を置くヨセフ・タム教授の研究チームが、CBD(カンナビジオール)とCBG(カンナビゲロール)という2つの非精神活性カンナビノイドが脂肪肝を修復する世界初のメカニズムを解明し、英国薬理学会誌「British Journal of Pharmacology」に発表しました。この発見は、長年にわたって行き詰まっていた脂肪肝治療研究に、まったく新しい突破口をもたらす可能性を秘めています。
目次
MASLDとは―世界成人の3人に1人が罹患する「沈黙の疾患」
MASLDとは、アルコールをほとんど飲まないにもかかわらず、肝臓に過剰な脂肪が蓄積する代謝性疾患です。以前は「非アルコール性脂肪肝疾患(NAFLD)」と呼ばれていましたが、2023年の国際的なコンセンサスにより、代謝機能障害との関連を明確にした「MASLD」へと名称が刷新されました。日本消化器病学会も2024年8月にこの新名称を正式に採用しています。
この疾患が「沈黙の疾患」と呼ばれる理由は、初期段階ではほとんど自覚症状がないためです。肥満、高血圧、インスリン抵抗性、高コレステロール血症といったメタボリックシンドロームの構成要素と密接に関連しており、放置すれば肝硬変や肝臓がんへ進行するリスクがあります。世界保健機関(WHO)の推計によると、世界では成人の約3分の1にあたる約20億人がMASLDに罹患しているとされており、現代医学が直面する最大規模の慢性疾患のひとつです。
にもかかわらず、2026年現在においても、MASLDに対してFDA(米国食品医薬品局)や各国の規制当局が承認した薬剤は事実上存在しないに等しい状況が続いています。そのため、食事療法や運動療法による生活習慣の改善が唯一の主流的な介入手段となっており、新たな治療薬の開発は世界中の研究者が急ぐ最重要課題のひとつとなっていました。
イスラエル発―ヘブライ大学の研究チームと研究の背景
今回の研究を主導したのは、ヘブライ大学エルサレム校薬学部のヨセフ(ヨッシ)・タム教授です。タム教授はエンドカンナビノイドシステム(ECS)と代謝疾患の関係を長年にわたって研究してきた第一人者であり、カンナビノイドが代謝に及ぼす影響分野における世界屈指の権威として知られています。今回の研究はリアド・ヒンデン博士と博士課程学生のラドカ・コチバロバが中心となって実施しました。
研究チームは、高脂肪食によって誘発したMASLDマウスモデルにCBDとCBGを投与し、肝臓内での生化学的変化を詳細に解析しました。CBDとCBGはいずれも大麻草に含まれる非精神活性成分であり、THC(テトラヒドロカンナビノール)のような「ハイ」になる作用を持ちません。特にCBGは「カンナビノイドの母体」とも呼ばれ、他のカンナビノイドの前駆体として機能する化合物です。これまでも抗炎症作用や神経保護作用が注目されてきましたが、脂肪肝に対する具体的なメカニズムが科学的に解明されたのは今回が初めてのことです。
世界初解明:2つの新メカニズム
研究チームが特定した作用経路は、従来の脂肪肝研究では想定されていなかった全く新しいものでした。CBDとCBGはそれぞれ独自のルートで肝細胞の機能を回復させることが明らかになりましたが、共通して関与する2つのメカニズムが解明されました。
ホスホクレアチン蓄積―肝細胞の「非常用電源」を充電する
第一のメカニズムは、ホスホクレアチン(phosphocreatine)の蓄積です。ホスホクレアチンとは、細胞が急激なエネルギー需要に対応するために蓄えておく「非常用電源」のような分子です。筋肉細胞では広く知られていますが、これまで肝細胞はホスホクレアチンシステムにほとんど依存しないと考えられてきました。
今回の研究では、高脂肪食によって代謝ストレスがかかった肝細胞において、CBDとCBGがホスホクレアチンレベルを有意に増加させることが示されました。これにより、脂肪の蓄積によってエネルギー産生効率が低下した肝細胞が、代謝ストレスに対して大きな耐性を持つようになります。タム教授は「肝臓がホスホクレアチンシステムを活用するという発見そのものが革新的であり、CBD・CBGがその充電機能を強化することも全く新しい知見だ」と述べています。
リソソームの再起動―細胞内ゴミ処理システムの復活
第二のメカニズムは、リソソーム機能の回復です。リソソーム(lysosome)は細胞内の「ゴミ処理センター」として機能する小器官であり、不要なタンパク質や脂質を分解・排出する役割を担っています。MASLDでは、このリソソーム内に存在する「カテプシン」と呼ばれる分解酵素の働きが低下し、有害な脂肪や老廃物が肝臓内に蓄積し続けることが疾患の悪化要因のひとつとされてきました。
CBDとCBGはカテプシン酵素の活性を回復させることで、リソソームの「再起動」をうながすことが明らかになりました。これにより、蓄積した中性脂肪(トリグリセリド)やセラミド(インスリン抵抗性を促進する有害な脂質)の分解・除去が促進され、肝臓の代謝機能が正常化されていく様子が確認されました。研究チームはこれを「デュアル・メタボリック・リモデリング(二重代謝リモデリング)」と呼んでおり、エネルギー貯備とゴミ処理という2方向からの同時修復こそが、この研究の最大の発見です。
CBDとCBGの効果の違い―CBGが上回る領域
CBDとCBGはいずれも脂肪肝修復に有効であることが示されましたが、その効果プロファイルには明確な違いが認められました。特に注目すべきは、CBGがCBDを上回る効果を示した代謝指標の多さです。
| 評価項目 | CBD | CBG |
|---|---|---|
| 血糖値の正常化 | 有効 | 有効 |
| グルコース処理の改善 | 有効 | 有効 |
| ホスホクレアチン蓄積 | 有効 | 有効 |
| カテプシン活性の回復 | 有効 | 有効 |
| 体脂肪量の削減 | 限定的 | 顕著に有効 |
| インスリン感受性の向上 | 限定的 | 顕著に有効 |
| 総コレステロールの低下 | 限定的 | 顕著に有効 |
| LDLコレステロールの低下 | 限定的 | 顕著に有効 |
この結果は、CBD先行のカンナビノイド医療研究においてCBGの優位性が明確に示された数少ない事例として、研究者の間で特に注目を集めています。これまでCBGはCBDと比較して研究が少なく「マイナーカンナビノイド」と見なされることもありましたが、代謝疾患という特定の領域においてはCBGのほうが治療ポテンシャルが高い可能性が示唆されます。研究チームはCBDとCBGを組み合わせた配合について特許を取得済みであり、将来的な製剤化に向けた動きもすでに始まっています。
日本における意義―1,000万人超の患者と未解決の課題
この研究は、日本においても特に切迫した意義を持ちます。日本生活習慣病予防協会のデータによると、日本におけるNAFLD(MASLD)の有病率は9〜30%と報告されており、患者数は少なくとも1,000万人以上と推計されています。さらに、肥満人口の増加や高齢化の進行に伴い、患者数は今後も増加傾向が続くと予測されています。
日本では2024年12月の大麻取締法改正により、大麻由来医薬品の製造・使用が一定の条件のもとで解禁されました。これにより、カンナビノイドを有効成分とした医薬品が国内で承認されるための法的基盤が整いつつあります。すでにてんかん治療薬「エピジオレックス(Epidiolex)」はCBDを有効成分とした大麻由来医薬品として欧米で承認されており、日本での承認も議論されています。今回のMASLD研究がヒト臨床試験へと発展し、有効性と安全性が確認された場合、日本でもCBGまたはCBDを主成分とした脂肪肝治療薬の開発が検討される可能性があります。
📊 日本の脂肪肝(MASLD)の現状
有病率:9〜30%(日本人成人)
推計患者数:1,000万人以上
病名変更:NAFLD → MASLD(2024年8月、日本消化器病学会正式採用)
承認治療薬:現時点でゼロ(生活習慣改善のみ)
法的環境:2024年12月改正大麻取締法で大麻由来医薬品が解禁済み
カンナビノイドを用いた医薬品開発は、日本国内でも学術的・産業的な関心が高まっています。今回の発見が持つ意義は、単なる基礎研究の成果にとどまらず、日本の医療現場に新たな選択肢をもたらす可能性を持った発見として受け止めるべきでしょう。
特許取得と臨床試験への道
研究チームはすでにCBDとCBGの組み合わせを代謝疾患治療に応用するための特許を取得しており、タム教授は「脂肪肝疾患に苦しむ人々を助けるカンナビノイド系医薬品を実用化することが私たちのゴールだ」と明言しています。現時点では動物モデル(マウス)を用いた前臨床研究の段階であり、ヒトへの臨床応用には第1相・第2相・第3相の臨床試験を経る必要があります。
この道のりは数年単位の時間を要しますが、カンナビノイド研究の歴史においてはすでに医薬品開発の前例があります。CBDを主成分とするてんかん治療薬「エピジオレックス」がFDAに承認されたのは2018年であり、前臨床研究から承認まで約20年かかりました。しかし近年は規制環境の整備とともに臨床試験のスピードが加速しており、MASLD向けカンナビノイド薬の実現が想定より早まる可能性も否定できません。
独立系カンナビノイド研究者のエタン・ルッソ博士は、この研究の意義について「世界的な肥満率の高さと既存のMASLD薬の不在を考えると、この発見は計り知れない公衆衛生上の意義を持つ」と評価しています。今後の進展が世界中の研究者から注視されることは間違いありません。
FAQ
今回の研究はマウスを用いた前臨床試験であり、ヒトへの有効性はまだ確認されていません。現時点でCBDやCBGのサプリメントが脂肪肝の治療薬として機能するとは言えず、既存の脂肪肝管理(食事・運動療法)に代わるものではありません。あくまで「将来の医薬品開発につながる可能性のあるメカニズムが解明された」という段階です。
今回の研究では、CBGがCBDと比較して体脂肪量の削減、インスリン感受性の向上、コレステロール低下の各指標でより顕著な効果を示しました。ただし両者ともに脂肪肝修復効果が認められており、研究チームはCBDとCBGの組み合わせ配合で特許を取得していることから、両者を組み合わせることに将来的な意義が見込まれています。
2024年12月に施行された改正大麻取締法により、日本でも大麻由来医薬品の製造・使用が法的に可能になりました。今後ヒト臨床試験で有効性と安全性が確認されれば、厚生労働省への承認申請という流れが考えられます。ただし承認まで最低でも数年から十数年かかることが一般的であり、今すぐに日本で処方薬として使えるわけではありません。
本質的には同じ疾患を指しますが、2023年の国際コンセンサスにより名称が刷新されました。NAFLD(非アルコール性脂肪肝疾患)は「アルコールを飲まない人の脂肪肝」という消去法的な定義でしたが、MASLD(代謝機能障害関連脂肪肝疾患)は「代謝異常が背景にある脂肪肝」という実態を反映した名称です。日本消化器病学会は2024年8月にこの新名称を正式採用しています。
まとめ
📝 この記事のまとめ
イスラエル・ヘブライ大学がCBDとCBGによる脂肪肝(MASLD)修復の世界初メカニズムを「British Journal of Pharmacology」に発表(2026年3月)
2つの新メカニズム:ホスホクレアチン蓄積(肝細胞のエネルギー貯備強化)+リソソーム再起動(細胞内ゴミ処理システムの復活)
CBGはCBDより体脂肪削減・インスリン感受性・コレステロール低下で優れた効果を示した
世界成人の3分の1が罹患・承認薬ゼロという状況において画期的な前進であり、臨床試験への発展が期待される
日本では1,000万人以上のMASLD患者が存在し、2024年の改正大麻取締法で大麻由来医薬品の法的基盤も整備済み
参考文献
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