舞茸が認知機能を改善|初の18週RCTで記憶力向上とNK細胞の関連を解明

この記事のポイント
- 2026年発表・世界初のマイタケ認知機能ヒト対照試験(18週間RCT、日本人47名、60歳以上)
- Y10M株のパン摂取群でMoCA-Jスコアと記憶下位尺度が有意に改善(C5304株はプラセボと差なし)
- Y10M群でNK細胞活性が有意に増加し、MoCA-Jスコアと正の相関を示した
- 18週間を通じて血液検査の全パラメータが正常範囲内。有害事象による中止なし
- マイタケ多糖がミクログリアを活性化しアミロイドβを除去するメカニズムは先行動物実験で確認済み
日本では2022年時点で65歳以上の約443万人が認知症を患い、さらに約559万人が認知症の前段階である軽度認知障害(MCI)を抱えている。厚生労働省の将来推計では、2040年には認知症患者が約584万人に達する見込みだ。こうした現実を前に、食事という日常的なアプローチから認知機能の低下を防げないかという研究が世界中で進んでいる。
その中で注目を集める食材の一つが、日本の食卓に古くからなじみのあるマイタケ(舞茸、Grifola frondosa)だ。免疫機能の増強や血糖値の安定化に関するエビデンスは着実に蓄積されてきたが、認知機能に対するヒト対象の対照試験は長らく存在しなかった。2026年4月、Journal of Nutritional Science and Vitaminology に掲載された論文がその空白を埋める。雪国工場・神戸薬科大学・新潟薬科大学・島根リハビリテーション学園・加藤病院の研究者らによる18週間のランダム化二重盲検プラセボ対照試験が、初めてヒトにおける認知機能改善効果を示したのだ。
研究の設計:世界初、マイタケ認知機能ヒト対照試験
研究は60歳以上の健康な日本人成人47名を対象に、3群(Y10M群・C5304群・プラセボ群)に無作為に割り付けた。各群の参加者は18週間にわたって、毎日それぞれのパンを摂取した。Y10M群とC5304群のパンにはマイタケ菌株の50gペーストが練り込まれており、プラセボ群のパンにはマイタケが含まれていない。試験はエルゴステロール(きのこに含まれる化合物)の測定によって摂取遵守が確認されており、二重盲検の厳密性が保たれていた。
認知機能の主要評価指標として選ばれたのは、MCI(軽度認知障害)の早期検出に最適とされる日本語版モントリオール認知評価(MoCA-J)だ。MoCA-Jは記憶・注意・言語・視空間機能など複数の認知ドメインを包括的にスクリーニングできる30点満点のツールで、MCIの前段階の微細な変化も捉えやすいことが評価されている。
研究の基本情報
- 試験デザイン:ランダム化・二重盲検・プラセボ対照試験(3アーム)
- 対象:60歳以上の健康な日本人47名
- 期間:18週間
- 介入:マイタケペースト50g含有パン(Y10M株 or C5304株)を毎日摂取
- 主要評価:日本語版MoCA(MoCA-J)スコア・記憶下位尺度
- 副次評価:NK細胞活性、血液・肝機能・腎機能パラメータ
- 掲載誌:J Nutr Sci Vitaminol, 72(2), 163–175(2026年4月30日、DOI: 10.3177/jnsv.72.163)
- 実施機関:雪国工場、神戸薬科大学、新潟薬科大学、島根リハビリテーション学園、加藤病院(日本)
主要な結果:Y10M株のみがMoCAスコアを有意に改善
18週間の介入後、Y10M群はプラセボ群と比較してMoCA-Jの総スコアおよび記憶下位尺度において統計的に有意な改善を示した。一方、C5304群とプラセボ群の間には有意差が見られなかった。同じ「マイタケのパンを食べる」という介入でありながら、Y10M株とC5304株でまったく異なる結果が出た点は非常に興味深い。
この菌株差は、β-グルカンの分子構造や免疫受容体への結合力の違いによる可能性が研究チームにより示唆されている。マイタケのβ-グルカンには「Dフラクション」「MDフラクション」「MXフラクション」など複数の構造的バリアントが存在することが知られており、菌株によって含有比率や分子量が異なる。マイタケのDフラクションと免疫・抗がん効果については別記事で詳しく解説しているので参照してほしい。
この結果は、マイタケサプリメントを選ぶ際に「菌株の種類」が重要な指標になる可能性を示唆している。現在市場に流通するマイタケ製品の多くは菌株情報を表示していないが、今後の製品選択の基準として菌株の開示が求められる時代が来るかもしれない。
NK細胞と認知機能の相関:なぜ免疫が記憶を守るのか
本研究で特に注目に値するのは、免疫系との関連だ。Y10M群では18週間後にNK細胞(ナチュラルキラー細胞)の活性が有意に増加し、かつそのNK細胞活性の増加がMoCA-Jスコアの改善と正の相関を示した。C5304群やプラセボ群ではこの相関が観察されなかった。
NK細胞は自然免疫系の主役的な細胞であり、ウイルス感染細胞やがん細胞を標的にして排除する機能で知られている。しかし近年の神経免疫学研究では、NK細胞が脳内のミクログリア(脳の免疫細胞)の機能を支援することで、アルツハイマー病の病理に関与するアミロイドβタンパク質の蓄積を防ぐ可能性が示唆されている。NK細胞の活性化がミクログリアの貪食能を高め、アミロイドβの除去を促進するというこのカスケードが、Y10M株の認知機能保護効果の背景にあると考えられる。
マイタケのβ-グルカンが脳を守るメカニズム:先行研究より
今回のRCTでメカニズムの直接的な検証は行われていないが、先行する動物実験研究がその作用経路を支持している。2019年にRSC Advances誌に掲載されたBaiら(中国)の研究では、マイタケ由来のプロテオ-β-グルカン(PGM)をアルツハイマー病モデルマウス(APP/PS1マウス)に投与したところ、ミクログリアと星状細胞が活性化してアミロイドβプラークへの集積が増加し、学習・記憶の障害が改善したことが報告されている。
また2020年のPubMed掲載研究(International Journal of Medicinal Mushrooms)では、塩化アルミニウム誘発性記憶障害マウスにマイタケ多糖を投与すると、空間学習と記憶の指標が有意に改善したことが示された。β-グルカンは消化管のデクチン-1受容体に結合することで腸管免疫を活性化し、そのシグナルが腸脳軸(gut-brain axis)を介して中枢神経系に影響を及ぼすという経路も注目されている。腸脳軸の詳しいメカニズムについてはCBDと腸内細菌の記事も参照してほしい。
こうした動物実験の知見と今回のヒト試験でのNK細胞相関を合わせると、「マイタケβ-グルカン → NK細胞活性化 → ミクログリア機能増強 → アミロイドβ除去促進 → 認知機能保護」という一連の免疫媒介メカニズムが浮かび上がってくる。もちろん、ヒトにおけるこのカスケードの確認には今後の研究が必要であり、現時点では作業仮説の域を出ない点に注意が必要だ。
2種の菌株の差:なぜY10MだけがC5304より効果を示したのか
同じ50gのマイタケペーストを摂取していながら、Y10M株では明確な認知機能改善が示され、C5304株では示されなかった。この差の理由として、研究チームはβ-グルカンの分子量・分枝構造・水溶性の違いが受容体との結合効率に影響している可能性を挙げている。免疫受容体(デクチン-1)へのβ-グルカンの結合力は、多糖の立体構造に鋭敏に依存することが知られており、まったく同じ「β-グルカン」でも菌株や培養条件によってその生物活性は大きく異なる。
この菌株差の発見は、機能性キノコ研究全体に対する重要な示唆を含んでいる。機能性キノコ全般のβ-グルカン作用については機能性キノコ(Functional Mushroom)完全ガイドで解説しているが、今後の研究では「きのこ種」だけでなく「菌株」レベルでのエビデンスが求められる時代になるかもしれない。他の機能性キノコでも同様の菌株差が存在する可能性があり、キノコブレンドRCT(2026年)と組み合わせた研究設計の複雑化が予想される。
安全性プロファイル:18週間の血液検査で問題なし
安全性の面では、18週間の試験期間を通じて3群すべてで有害事象による中止例はゼロだった。血液一般検査・肝機能(ALT・AST)・腎機能(クレアチニン)・電解質・血糖値のすべてにおいて、変動は認められたとしても「軽微で臨床的に問題ない範囲」だったと報告されている。50gというマイタケペーストの量はやや多く感じるかもしれないが、日常的にきのこ料理を食べる文化がある日本においては、それほど非現実的な摂取量ではない。
ただし、本研究は47名という比較的小規模な試験であり、特定の菌株(Y10M)を用いた専用製品を評価したものだ。市販のマイタケ製品が同様の効果を持つかどうかは現時点では不明であり、サプリメントとして使用する際には適切な品質管理が施された製品を選ぶことが重要になる。ターキーテールのβ-グルカン免疫研究など他の機能性キノコと同様、製品の品質基準(β-グルカン含有量の明示・第三者試験)を確認することをすすめる。
日本の高齢化とマイタケ:食から始める認知症予防の可能性
日本において認知症予防に対する社会的関心は急速に高まっている。厚生労働省の将来推計では2040年に認知症患者が584万人を超える見込みであり、薬による治療だけでなく食事・ライフスタイルによる予防アプローチの確立が喫緊の課題とされている。
実は食用きのこと認知機能の関連を示す疫学データは以前から存在していた。大崎コホート2006研究(日本・大崎市)では13,230名の65歳以上を対象に5.7年間追跡したところ、きのこを週3回以上食べる群は週1回未満の群と比べて認知症発症リスクが19%低かった(HR 0.81)。シンガポールの横断研究(2019年)でも663名の60歳以上を調査し、きのこ摂取頻度が高い群でMCI(軽度認知障害)の有病率が有意に低いことが示されている。
これらの疫学研究は「きのこ全般」の摂取と認知機能の関係を示すにとどまっていた。今回のマイタケRCTはその一歩先に進み、特定の菌株・特定の期間・特定の用量によってMoCAスコアが改善するという「因果関係の方向性」を示す初めての対照実験となった点に意義がある。ライオンズメイン(ヤマブシタケ)の認知機能・神経保護エビデンスと並んで、食用きのこと認知機能のエビデンスが着実に積み上がっている。
大麻由来のカンナビノイドによる認知症アプローチについてはアルツハイマー病とカンナビノイドの研究でも詳しく述べているが、認知症予防には複数のアプローチを組み合わせることが現実的だ。食事由来の機能性キノコは薬物療法と異なり、日常の食生活に取り入れやすいという点で予防的介入の候補として有望だ。
まとめ:身近な食材から認知機能の鍵を見つけた研究
2026年に発表されたこのRCTは、マイタケ(舞茸)がヒトの認知機能を改善する可能性を初めて対照試験で示した。Y10M株のマイタケペーストを含むパンを18週間摂取した日本人高齢者で、MoCA-Jスコアと記憶力が有意に向上し、NK細胞の活性化と認知機能の正相関が確認された。β-グルカンを介したNK細胞活性化 → ミクログリア機能増強 → アミロイドβ除去という免疫媒介メカニズムが、記憶保護の背景として有力視されている。
マイタケ製品を選ぶ際のチェックポイント
- β-グルカン含有量が明示されているか(本研究の菌株はY10M株)
- 菌株名または品種名が開示されているか
- 子実体・菌糸体・エキスなど使用部位の記載があるか
- 第三者機関による品質・成分試験(COA)が提供されているか
- サプリメントは医薬品の代替ではなく、あくまで食事の補助として位置づける
47名・18週間という規模はあくまで初期臨床試験であり、今後はより大規模・多機関の追試によるエビデンスの強化が求められる。また、MCIや軽度認知症の方を対象とした試験や、長期追跡データも必要だ。一方で「特定の菌株が特定の免疫経路を通じて認知機能を保護する」というメカニズムの仮説が臨床データで支持された点は、機能性食品研究として大きな一歩だ。日本が誇る食材であるマイタケが、高齢化社会の課題解決に貢献する可能性に、今後も注目していきたい。
よくある質問(FAQ)
本研究では特定の菌株(Y10M株)を1日50gのペーストという形で18週間継続摂取した結果を評価しています。スーパーで販売されている舞茸が同じ菌株かどうかは不明であり、調理による成分変化も未検証です。ただし、大崎コホート研究ではきのこを週3回以上食べた群で認知症リスクが有意に低かったことが示されており、日常的にきのこ料理を食べることには一定の意義があると考えられます。
研究チームはβ-グルカンの分子量・分枝構造・水溶性の違いにより、免疫受容体(デクチン-1)への結合効率が異なることが原因として考えられると述べています。マイタケのβ-グルカンには「Dフラクション」など複数の構造バリアントが存在し、菌株によって含有比率が異なります。C5304株が免疫・血糖への効果が全くないということではなく、認知機能の改善という特定のアウトカムでY10M株に及ばなかったということです。
本研究ではNK細胞の活性増加とMoCA-Jスコアの改善に正の相関が観察されました。ただしこれは「NK細胞が認知機能を直接改善する」という因果関係を証明するものではなく、両者が共通のメカニズム(β-グルカン摂取による免疫活性化)の結果として同時に向上したと解釈するのが適切です。先行動物実験ではNK細胞がミクログリアを介してアミロイドβを除去する経路が示されていますが、ヒトでの直接的なメカニズム検証は今後の課題です。
本研究の対象は「健康な高齢者」に限定されており、MCIや認知症の方は含まれていません。MCI・認知症の方への適用については別途臨床試験が必要です。また、舞茸は一般的に安全な食品ですが、抗凝固薬・免疫抑制剤を使用している方や重篤な基礎疾患をお持ちの方はサプリメントとして使用する前に必ずかかりつけ医にご相談ください。
参考文献
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