40〜75歳の認知機能と睡眠が改善|ライオンズメイン最新RCT 2026

この記事のポイント
- 2026年4月発表のRCT(medRxiv、NCT06870136)で、ライオンズメイン2g/日を8週間摂取した40〜75歳109名が視覚的注意力・ワーキングメモリを有意改善
- 睡眠の質・朝の目覚め・気分スコアもプラセボ群より速いペースで有意に改善
- 子実体+菌糸体バイオマスの混合製品を使用。ヘリセノンとエリナシンの両系統の成分を同時摂取
- 現時点でmedRxivのプレプリント段階。査読前だが試験はClinicalTrials.govに事前登録済み
- これまでの小規模試験より大きなサンプルで中高年層の認知低下に有意な効果を確認した点が意義深い
2040年には国内の認知症患者数が約584万人に達するという厚生労働省の将来推計は、日本社会にとって切迫した課題だ。認知症の進行を食い止める医薬品の選択肢が依然として限られているなか、日常的に取り入れられる食品・サプリメントによる予防的アプローチへの期待は世界的に高まっている。
そうした状況のなかで新たな注目を集めているのが、日本でも古来から食材として親しまれてきたヤマブシタケ——英語圏では「Lion's Mane(ライオンズメイン)」と呼ばれる機能性キノコだ。2026年4月、このキノコを対象とした最新の無作為化比較試験(RCT)の結果がmedRxivに公開された。認知機能の低下を自覚する40〜75歳の成人109名を対象にした8週間の試験で、視覚的注意力・ワーキングメモリ・睡眠の質・朝の目覚め・気分のすべてにわたってプラセボを上回る有意な改善が確認されたのだ。
なぜいまライオンズメインが注目されるのか
認知機能の低下は一般的に40代後半から自覚されはじめ、65歳以降に加速する。厚生労働省の推計では、軽度認知障害(MCI)の段階は認知症への移行を予防する最後の重要な窓口とされている。MCIは放置すると年間で約10〜15%が認知症に移行するとされる一方、適切な介入によってその進行を遅らせたり、正常な認知機能に回復したりする可能性も報告されている。
薬物治療が困難なMCIの前段階において、食事・運動・サプリメントによる介入に対する科学的な検証が世界中で進んでいる。ライオンズメインはその中でも神経栄養因子(NGF・BDNF)産生促進という独自のメカニズムを持つため、認知機能研究の文脈で特に注目度が高い存在だ。これまでの臨床研究は主に小規模試験が中心だったが、今回の2026年RCTはより大きなサンプルと幅広い年齢層でその効果を検証した点で大きな前進を意味する。
ライオンズメインのNGF促進作用や神経保護メカニズムの基礎知識はヤマブシダケ(Lion's Mane)で認知機能改善|最新研究が証明する神経保護作用とアルツハイマー予防効果で詳しく解説している。
2026年RCTの概要
試験デザインと参加者
この研究(ClinicalTrials.gov登録番号:NCT06870136)は2026年4月17日付でmedRxivに公開された無作為化・二重盲検・プラセボ対照試験だ。研究者らは認知機能の低下を自覚する40〜75歳の成人を募集し、109名が主要解析の対象となった(ヤマブシタケ群:n=57、プラセボ群:n=52)。
参加者は1週間のベースライン評価期間を経て、8週間にわたって毎日2gのヤマブシタケ(子実体+菌糸体バイオマスの混合)またはプラセボを摂取した。「認知機能の低下を自覚する」という選定基準は、無症状の健常者より臨床的な意義が高く、かつ認知症と診断された患者より早期段階にある集団という、予防医学的に重要な対象設定だ。
試験の基本情報
- 試験デザイン:無作為化・二重盲検・プラセボ対照試験
- 対象:認知低下を自覚する40〜75歳の成人109名
- 期間:ベースライン1週間+介入8週間
- 介入:ヤマブシタケ(子実体+菌糸体バイオマス混合)2g/日
- 評価:コンピューター化認知バッテリー+毎日のリモート主観評価
- 登録番号:NCT06870136(ClinicalTrials.gov事前登録済み)
評価方法のユニークな点
認知機能の評価にはコンピューター化された認知バッテリーが使用され、主要指標として「Juggle Factor(ジャグルファクター)タスク」という視覚的注意力とワーキングメモリを同時に測定する課題が採用された。睡眠の質・朝の目覚め・気分については毎日のリモート主観評価によって追跡された。
データ収集をリモートで行う手法は、参加者が普段の生活環境のなかで自然な状態で評価を受けられるという利点がある。実験室での単発測定とは異なり、日常生活における実際の機能変化をより忠実に反映できると考えられている。
主な研究結果
認知機能:視覚的注意力とワーキングメモリ
8週間後、ヤマブシタケ群はプラセボ群と比較してJuggle Factorタスクのスコアが有意に高い改善率を示した。視覚的注意力は視覚情報の中から重要な要素を素早く選別する能力であり、ワーキングメモリは情報を一時的に保持しながら処理する能力だ。日常生活では「複数の作業を同時にこなす」「会話の内容を記憶しながら応答する」「スマートフォンの操作中に重要な情報を見落とさない」といった場面でこれらの機能が動員される。
これらは加齢とともに低下が顕著になる認知機能の中核をなしており、40代から自覚的な衰えを感じる人が多い領域でもある。109名という規模の二重盲検プラセボ対照試験で有意な改善が確認されたことは、先行研究よりも信頼性の高いエビデンスとして評価できる。
睡眠の質と朝の目覚め
ヤマブシタケ群は研究期間全体を通じて、睡眠の質と朝の目覚め(モーニングレストネス)の両方でプラセボ群より速いペースで改善が観察された。睡眠と認知機能は双方向の関係にあり、睡眠の質が高まることで記憶の固定化や神経修復が促され、翌日の注意力・判断力・反応速度にも好影響を及ぼすことが知られている。
睡眠への効果は2019年のVigna et al.の研究でも示唆されていたが、今回の試験ではより大きなサンプルサイズと8週間という期間にわたって効果の累積的な進展が確認された格好だ。
気分スコアの有意な改善
プラセボ群との比較において、ヤマブシタケ群では気分スコアの改善も有意差をもって確認された。気分の落ち込みや不安感は認知機能の低下と密接に絡み合っており、気分が改善することで集中力や動機づけが向上し、認知機能検査のパフォーマンスにも好影響を与えることが一般的に知られている。
複数の機能性キノコを組み合わせた睡眠・不安・疲労への効果についてはキノコ5種ブレンドで不安33%減・睡眠改善|2026年RCT初証拠も参照されたい。
ライオンズメインが脳に作用するメカニズム
ヘリセノンとエリナシン:血液脳関門を越える有効成分
ライオンズメインが他の多くの機能性キノコと異なるユニークな特徴は、神経栄養因子(NGF:nerve growth factor)および脳由来神経栄養因子(BDNF:brain-derived neurotrophic factor)の産生を促進する2系統の化学成分を含んでいることだ。
**子実体に豊富に含まれるヘリセノン類(hericenones)**は分子量が小さく、血液脳関門(BBB)を比較的容易に通過し、アストロサイトにおけるNGF合成を刺激することが細胞実験・動物実験で示されている。**菌糸体に多く含まれるエリナシン類(erinacines)**はサイタン系ジテルペノイドに分類され、中枢神経系でのNGF産生促進と神経保護作用がより直接的に発揮されると考えられている(Frontiers in Pharmacology, 2025年のシステマティックレビューより)。
今回の試験で「子実体+菌糸体バイオマスの混合」製品が使用された背景には、この2系統の成分を同時に摂取することで相補的な作用が期待できるという発想がある。子実体と菌糸体でどのような成分プロファイルの違いがあるかについてはライオンズメインの菌糸体 vs 子実体:免疫バランス研究が示す賢い選び方で詳述されている。
NGFとBDNFが認知機能に与える影響
NGFは海馬・大脳皮質・前脳基底核のニューロンの生存・分化・維持に不可欠な神経栄養因子であり、記憶形成・シナプス可塑性・認知機能全般を支える基盤的な役割を果たす。アルツハイマー病患者の脳ではNGFシグナリングの障害が報告されており、NGF産生を促進するアプローチは予防医学的な観点から注目されている。
BDNFは神経新生(新たなニューロンの生成)を促進し、海馬の体積維持や学習・記憶能力と正の相関を持つ。うつや不安の軽減効果とも関連することが知られており、気分・睡眠・認知機能という今回の試験が示した3つの改善領域は、いずれもBDNF経路の活性化という共通の作用機序によって説明できる可能性がある。
先行研究との比較
これまでのRCTエビデンスの蓄積
2025年に発表されたシステマティックレビュー(PMC12434001)は26件の研究(うちRCT 5件)を統合し、ヤマブシタケ介入群のMMSE(簡易精神状態評価)スコアが対照群と比較して平均+1.17ポイント改善したと報告している。2009年のMori et al.のRCT(n=30、16週間)では軽度認知障害を持つ50〜80歳の高齢者を対象に3g/日のヤマブシタケ粉末を投与し、MMSEの有意な改善が確認されている。
しかしこれらの先行研究の多くはサンプルサイズが30〜50名程度と小さく、試験期間も4〜16週間と幅があった。今回の2026年RCTは109名という比較的大きなサンプルサイズと、主観的な認知低下を自覚する40〜75歳という実臨床に即した対象設定が強みだ。
健常な若年者を対象にした研究との違い
La Monica et al.(2023、PMC10675414)が実施した80名の若年健常者を対象とした試験では、1.8g/日を28日間摂取することで認知処理速度が改善した。また2025年のPMC12018234の研究では急性摂取(単回投与)後の認知・気分への効果が示された。
これらは即効性や若年者への効果を示すデータとして有益だが、今回の中高年対象RCTのように「認知低下を自覚する」集団で8週間の継続摂取効果が確認されたことは、予防医学・セルフケアの観点からより高い臨床的意義を持つ。
機能性キノコを用いた別の認知機能RCTについては舞茸が認知機能を改善|初の18週RCTで記憶力向上とNK細胞の関連を解明も参照。
サプリメント選びの注意点
子実体のみ vs 菌糸体のみ vs 混合製品
市場に流通するライオンズメインサプリメントには「子実体のみ」「菌糸体のみ」「子実体+菌糸体混合」の3タイプがある。今回の試験は混合製品(2g/日)で実施されており、認知機能と睡眠の両面において有意な改善が得られたことから、両方の成分を含む製品が複合的な効果を発揮する可能性を示唆している。
一方、菌糸体製品には培養基として使用された穀物(オーツ麦・玄米など)のデンプンが大量に混入している場合があり、実質的なキノコ由来成分が少なくなりがちだ。キノコサプリの50%超が穀物フィラー入り|本物のβグルカンを選ぶ方法で詳述されているように、β-グルカン含有量(理想は20%以上)や分析証明書(CoA)の確認が製品選択の重要な基準となる。
用量と継続期間
現在のエビデンスでは1〜3g/日が有効用量の範囲とされている。今回の試験で使用された2g/日はこの中間に位置し、現実的な日常摂取量として適切な設定だ。効果が現れるまでに少なくとも4〜8週間の継続摂取が必要とされており、単発または短期間の使用では認知機能への影響は限定的であることに留意したい。食事と一緒に摂取することで、一部に報告されている胃部不快感を軽減できる場合が多い。
研究の限界と今後の展望
プレプリントとしての位置づけ
今回の研究はmedRxivに公開されたプレプリントであり、現時点では査読付き学術誌への掲載前の段階にある。データの収集・解析が独立した専門家によってまだ精査されていない点には注意が必要だ。ただし、ClinicalTrials.govへの事前登録(NCT06870136)と二重盲検プラセボ対照というデザインの採用は、研究の透明性と科学的な厳密性を担保するうえで重要な要件を満たしている。
バイオマーカー測定と長期効果が課題
今回の試験では血液中のNGF・BDNF濃度などのバイオマーカー測定が行われなかったため、作用メカニズムの直接的な検証は今後の課題として残る。また、8週間で有意な改善が示されたものの、数ヶ月・数年単位での長期的な効果の持続性と安全性についても追加研究が必要だ。さらに、試験終了後の追跡データも公開されていないため、摂取を止めた後も効果が維持されるかどうかは不明だ。
まとめ
2026年4月発表の最新RCT(medRxiv、NCT06870136)は、ライオンズメイン(ヤマブシタケ)が認知低下を自覚する40〜75歳の成人において、視覚的注意力・ワーキングメモリ・睡眠の質・朝の目覚め・気分の5つの指標をプラセボより有意に改善することを示した。サンプルサイズ(n=109)と対象設定(中高年・主観的認知低下)の両面で先行研究を上回るこの結果は、日常的なサプリメント摂取による認知機能の予防的アプローチとして一定のエビデンスを提供するものだ。
ただし、現時点ではプレプリント段階であること、長期的な効果の検証が未実施であること、バイオマーカーデータが欠如していることは留意が必要な限界点だ。サプリメントはあくまで食事・運動・睡眠を基盤とした生活習慣の補助的手段であり、医薬品ではない。認知機能の低下が気になる場合は専門医への相談を優先することを推奨する。
よくある質問(FAQ)
今回の2026年RCTでは1週間のベースライン後、8週間にわたって効果が累積的に進展する様子が確認されています。先行研究でも4〜8週間以上の継続摂取が推奨されており、単回摂取よりも長期的な使用のほうが認知機能・睡眠への効果は大きいとされています。
今回の試験は子実体+菌糸体バイオマスの混合製品(2g/日)で実施されました。子実体にはBBBを越えやすいヘリセノン類、菌糸体にはNGF産生を直接促進するエリナシン類が含まれており、両方を含む製品が認知機能・睡眠の両面により幅広い効果を発揮する可能性があります。ただし、菌糸体製品には穀物フィラーが多く含まれることがあるため、β-グルカン含有量の確認が重要です。
主な副作用として胃部不快感・下痢・頭痛・吐き気が一部の研究で報告されています。食事と一緒に摂取することで消化器系の副作用を軽減できる場合が多いです。稀なケースとして急性呼吸窮迫症候群(ARDS)の症例報告もあるため、呼吸器疾患のある方や免疫抑制剤を服用中の方は医師に相談のうえで使用してください。
ライオンズメインはNGF・BDNF産生促進を通じた神経栄養作用が主な作用機序であり、睡眠の質・朝の目覚めへの効果が今回のRCTで確認されています。CBDはエンドカンナビノイドシステムへの作用を介してリラクゼーションや入眠促進に働くと考えられており、作用経路が異なります。詳しくは[CBDと睡眠|科学的根拠に基づく効果と正しい使い方ガイド](/medical/cbd-sleep-quality-improvement-guide)を参照してください。
ヤマブシタケ(Hericium erinaceus)は日本で古来から食材として用いられており、サプリメントとしての販売も合法です。ただし、特定の疾患の治療・予防を標榜した販売は薬機法上の問題が生じる場合があります。信頼できるメーカーの製品を選び、品質基準については[機能性キノコの完全ガイド](/functional-botanicals/functional-mushroom-complete-guide)も参考にしてください。
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