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シロシビンが老化を遅らせる?細胞寿命57%延長のnpj Aging最新研究を徹底解説

ASA Media編集部
10分
シロシビンが老化を遅らせる?細胞寿命57%延長のnpj Aging最新研究を徹底解説

この記事のポイント

✓ シロシビンの代謝物シロシンがヒト細胞の寿命を最大57%延長した

✓ 高齢マウスの月1回投与で生存率が50%から80%に改善(p=0.014)

✓ メカニズムは長寿遺伝子SIRT1の活性化と酸化ストレスの軽減

✓ 投与量の換算や食事量未追跡など、批判的視点も含めて解説

「マジックマッシュルーム」の有効成分として知られるシロシビンに、精神疾患の治療を超えた新たな可能性が浮上しています。2025年7月、米国Emory大学とBaylor医科大学の研究チームがNature系列の学術誌npj Agingに発表した論文で、シロシビンの活性代謝物であるシロシンがヒト細胞の寿命を最大57%延長し、高齢マウスの生存率を大幅に改善したことが報告されました。

この研究は、サイケデリクス(幻覚剤)の応用範囲を精神医学からアンチエイジング(抗老化)領域へと拡大する可能性を示す画期的な成果です。一方で、動物実験の段階であることや投与量の妥当性に対する批判的意見も存在します。本記事では、論文の具体的なデータからメカニズム、専門家による批判的視点まで、バランスよく解説します。

研究の概要

この研究は、Emory大学のLouise Hecker教授率いるチームが、シロシビンの抗老化効果を細胞レベルと生体レベルの両方で検証した初めての包括的研究です。論文タイトルは「Psilocybin treatment extends cellular lifespan and improves survival of aged mice」で、2025年7月8日にnpj Aging(インパクトファクター4.1)にオンライン掲載されました。

研究チームには、Emory大学のKosuke Kato氏、Jennifer M. Kleinhenz氏、Yoon-Joo Shin氏に加え、Baylor医科大学のCristian Coarfa氏、そしてEmory大学のAli J. Zarrabi氏が名を連ねています。Hecker教授は肺の線維化と老化を専門とする研究者であり、シロシビンのセロトニン受容体を介した作用が肺組織の老化抑制にも関与する可能性に着目したことが、この研究のきっかけとなりました。

研究デザインは大きく2つのパートに分かれています。第一に、ヒトの肺線維芽細胞(IMR-90)と皮膚線維芽細胞を用いたin vitro(試験管内)実験で、シロシンが細胞の複製老化に与える影響を調べました。第二に、19ヶ月齢(ヒトの60〜65歳に相当)のC57BL/6Jメスマウスを用いたin vivo(生体内)実験で、シロシビンの月1回経口投与が生存率に与える影響を10ヶ月間にわたって追跡しました。

細胞レベルの発見

ヒト肺線維芽細胞での結果

研究チームはまず、ヒト肺線維芽細胞(IMR-90株)にシロシン(シロシビンが体内で変換される活性代謝物)を異なる濃度で投与し、細胞の複製寿命への影響を評価しました。複製寿命とは、細胞が分裂を繰り返して最終的に増殖を停止するまでの回数のことです。

10μM(マイクロモル)のシロシン処理では、細胞寿命が対照群と比較して29%延長されました。さらに高濃度の100μMでは、57%という顕著な寿命延長が観察されました。シロシン処理を受けた細胞は、累積集団倍加数(cumulative population doublings)が増加し、集団倍加時間(population doubling time)が短縮していました。つまり、細胞がより長く、より効率的に分裂を続けたということです。

重要なのは、こうした寿命延長が腫瘍形成(がん化)を伴わなかったという点です。シロシン処理細胞も最終的には増殖を停止しており、がん細胞のような無制限の増殖は認められませんでした。これは安全性の面で極めて重要な知見です。

ヒト皮膚線維芽細胞での再現

研究チームは肺細胞だけでなく、ヒト成人皮膚線維芽細胞でも同様の実験を行いました。100μMシロシン処理により、皮膚細胞の寿命は約51%延長されました。異なる組織由来の細胞でも抗老化効果が再現されたことは、シロシンの作用が特定の細胞タイプに限定されない可能性を示唆しています。

細胞タイプシロシン濃度寿命延長率
肺線維芽細胞(IMR-90)10μM29%
肺線維芽細胞(IMR-90)100μM57%
皮膚線維芽細胞(成人由来)100μM51%

さらに、老化のマーカーであるp21およびp16の発現が用量依存的に減少していたことも確認されました。p21とp16は細胞周期停止を誘導するタンパク質であり、その減少は細胞老化の遅延を分子レベルで裏づけています。

メカニズム

SIRT1(長寿遺伝子)の活性化

この研究で最も注目すべきメカニズムの一つが、SIRT1(サーチュイン1)の発現上昇です。SIRT1は「長寿遺伝子」とも呼ばれるNAD依存性脱アセチル化酵素で、細胞の老化、代謝、ストレス応答を制御する重要な分子です。

これまでの研究で、SIRT1の過剰発現が線虫(C. elegans)やマウスの寿命を延長することが報告されています。シロシン処理を受けた細胞ではSIRT1の発現が有意に上昇しており、これがシロシビンの抗老化効果の中核メカニズムの一つと考えられています。

シロシンはセロトニン受容体(主に5-HT2A受容体)に結合して作用を発揮しますが、このセロトニン受容体は脳だけでなく全身の組織に広く分布しています。研究チームは、全身のセロトニン受容体を介したシグナル伝達がSIRT1の発現を調節し、結果として細胞老化を遅延させるという仮説を提唱しています。

酸化ストレスの軽減:Nox4とNrf2

もう一つの重要なメカニズムが酸化ストレスの軽減です。酸化ストレスは、活性酸素種(ROS)の産生と抗酸化防御のバランスが崩れることで生じ、細胞の老化を促進する主要因の一つです。

シロシン処理した細胞では、酸化ストレスレベルが用量依存的に低下していました。この低下は2つの分子経路の変化によって説明されます。一つはNox4(NADPH酸化酵素4)の減少です。Nox4は活性酸素の主要な産生源であり、その発現低下は酸化ストレスの根本的な軽減を意味します。もう一つはNrf2(核因子赤血球2関連因子2)の増加です。Nrf2は抗酸化応答の「マスタースイッチ」として知られ、数百もの抗酸化遺伝子の発現を統括的に制御しています。

🔬 シロシビンの抗老化メカニズム

1. セロトニン受容体への結合が全身のシグナル伝達を活性化

2. SIRT1(長寿遺伝子)の発現が上昇し、細胞老化が抑制される

3. Nox4(活性酸素産生酵素)が減少し、酸化ストレスが軽減される

4. Nrf2(抗酸化マスタースイッチ)が増加し、防御機構が強化される

5. テロメア長が維持され、DNA安定性が向上する

つまり、シロシンは「酸化ストレスの産生を抑えながら、同時に防御機構を強化する」という二方向からのアプローチで細胞を老化から守っているのです。

テロメア長の維持

テロメアは染色体の末端を保護するキャップ構造であり、細胞分裂のたびに短くなります。テロメアの短縮は老化の代表的な指標の一つです。

対照群の細胞ではテロメアの顕著な短縮が観察された一方、シロシン処理を受けた同年齢の細胞ではテロメア長が維持されていました。この発見は、シロシビンが老化の複数のホールマーク(特徴的指標)に同時に作用する可能性を示しており、単一のメカニズムにとどまらない包括的な抗老化効果が期待されます。

高齢マウスでの検証結果

実験デザイン

細胞レベルでの有望な結果を受けて、研究チームは生体内での効果検証に進みました。The Jackson Laboratoryから取得した19ヶ月齢のC57BL/6Jメスマウスを使用し、1ヶ月間の馴化期間の後、処理群と対照群にランダムに割り当てました。

投与プロトコルは慎重に設計されています。初月は5 mg/kgの低用量で開始し、2ヶ月目以降は15 mg/kgの維持用量で月1回の経口投与(経口ゲバージュ)を実施しました。この段階的な増量は、高齢マウスへの急激な負荷を避けるための配慮です。投与は合計10ヶ月間、10回にわたって行われました。

生存率の劇的な改善

結果は統計的に有意な差を示しました。シロシビン投与群では30匹中24匹が生存し、生存率は**80%でした。一方、対照群では28匹中14匹が生存し、生存率は50%**にとどまりました。この差はLog-rank Mantel–Cox検定でp=0.014と統計的に有意であり、偶然の結果ではないことが確認されています。

項目シロシビン投与群対照群
マウス数30匹28匹
生存数24匹14匹
生存率80%50%
統計的有意差p=0.014(Log-rank検定)

特筆すべきは、生存率の差が23ヶ月齢を超えたあたりから顕著に現れ始めたことです。これは投与開始から約4ヶ月後に相当し、シロシビンの効果が蓄積的に現れる可能性を示唆しています。

外見的な若返り

研究チームはまた、シロシビン投与群のマウスが対照群と比較して毛並みの改善や白髪の減少など、外見上も若々しい特徴を示したと報告しています。これらの観察は数値化されたデータとしてではなく視覚的な所見として報告されていますが、全身レベルでの抗老化効果を示唆する興味深い知見です。

この研究の限界と批判的視点

画期的な研究成果ではあるものの、いくつかの重要な限界と批判が存在します。科学的な公正さを保つために、これらの視点を理解することが重要です。

投与量のヒトへの外挿問題

長寿医学の専門家であるPeter Attia医師は、マウスに投与された15 mg/kgという用量をヒトに単純換算すると、体重60kgの成人で約73 mg(乾燥キノコ約7g以上に相当)になると指摘しています。これは臨床試験で使用される一般的な用量(25〜30 mg)を大幅に上回っており、ヒトでの実用性に疑問を投げかけています。

ただし、研究者側は種間のスケーリングファクター(体表面積換算など)を考慮すると単純な体重換算は適切でないとも述べており、この点については今後のヒトを対象とした研究で検証する必要があります。

食事量の未追跡

批判的意見の中で特に重要なのが、マウスの食事摂取量が追跡されていなかった点です。シロシビンには食欲抑制効果があることが知られており、投与群のマウスがカロリー制限状態になっていた可能性が排除できません。カロリー制限は老化研究において最も確立された寿命延長介入の一つであるため、生存率の改善がシロシビンの直接的効果なのか、間接的なカロリー制限効果なのかを区別できないという批判は妥当です。

メスマウスのみの研究

この研究ではメスマウスのみを使用しています。研究者はこの判断について、シロシビンの性差に関する既存の文献が限定的で一貫性に欠けることを理由に挙げています。しかし、ホルモンの違いが老化プロセスに大きく影響することを考えると、オスマウスでも同様の効果が得られるかは不明です。

長期的な安全性

10ヶ月間の実験期間中にがんの発生率に関する詳細な評価は行われていません。細胞の増殖能力を高める介入は、理論的にはがん化のリスクを伴う可能性があり、長期的な安全性評価が不可欠です。ただし、先述のように、in vitroでは腫瘍形成(oncogenic transformation)の証拠は認められなかったことは安心材料の一つです。

⚠️ 現時点での注意点

この研究はあくまでも前臨床(動物・細胞)段階の結果です

ヒトでの効果や安全性はまだ確認されていません

シロシビンは日本を含む多くの国で規制物質に指定されています

アンチエイジング目的での自己使用は極めて危険であり、絶対に行わないでください

今後の展望

この研究は「サイケデリクスが老化のホールマークに影響を与える可能性を示した初の実験的証拠」と位置づけられており、今後の研究の方向性を大きく広げる可能性を秘めています。

まず、投与プロトコルの最適化が求められます。より低用量でも同様の効果が得られるか、最適な投与頻度はどれくらいか、といった基本的な問いに答える必要があります。また、性差の影響を調べるためのオスマウスを含む追試や、食事摂取量を厳密に管理した実験も必要でしょう。

長期的には、ヒトを対象としたアンチエイジング臨床試験への道筋が描かれています。すでにシロシビンはうつ病治療の臨床試験で多くのデータが蓄積されており、その安全性プロファイルは比較的よく理解されています。精神疾患の治療目的で投与された患者から老化関連バイオマーカーのデータを収集することで、ヒトでの抗老化効果を間接的に評価できる可能性もあります。

現在、FDA(米国食品医薬品局)は治療抵抗性うつ病に対するシロシビン療法を「画期的治療薬」に指定しており、2026年末から2027年初頭にかけての承認が期待されています。こうした精神医療分野での進展が、アンチエイジング研究のさらなる推進力となることは間違いありません。

FAQ

Q1: シロシビンを摂取すれば若返ることができますか?

いいえ、現時点でそのような結論は出せません。この研究は細胞実験と動物実験の段階であり、ヒトでのアンチエイジング効果は確認されていません。また、シロシビンは日本では麻薬及び向精神薬取締法により規制されている物質であり、医療目的であっても一般には使用できません。

Q2: この研究の信頼性はどの程度ですか?

npj AgingはNature系列の査読付き学術誌であり、掲載された研究は一定の学術的基準を満たしています。統計的有意差(p=0.014)も報告されています。ただし、食事量の未追跡やメスのみの実験など、いくつかの方法論的限界が指摘されており、独立した研究チームによる追試が必要です。

Q3: SIRT1は他の方法でも活性化できますか?

はい、SIRT1はカロリー制限、運動、レスベラトロール(赤ワインに含まれるポリフェノール)、NAD+前駆体(NMNやNR)などによっても活性化されることが報告されています。シロシビンはこれらとは異なるメカニズム(セロトニン受容体経由)でSIRT1を活性化する点が新規性とされています。

Q4: 日本でのシロシビンの法的な位置づけは?

日本ではシロシビンは「麻薬及び向精神薬取締法」により麻薬に指定されています。シロシビンを含むマジックマッシュルームの所持、使用、販売は違法であり、厳しい罰則が科されます。研究目的であっても厚生労働大臣の特別な許可が必要です。

Q5: この研究と既存のシロシビンうつ病研究の関係は?

既存の臨床試験はシロシビンの精神疾患に対する治療効果に焦点を当てていますが、今回の研究はアンチエイジング(抗老化)という全く新しい応用可能性を示しています。両者は異なる領域ですが、精神医療分野で蓄積された安全性データがアンチエイジング研究にも活用される可能性があります。

まとめ

📝 この記事のまとめ

Emory大学の研究で、シロシビンの代謝物シロシンがヒト細胞の寿命を最大57%延長することが示された

高齢マウスの月1回投与で生存率が50%→80%に改善し、統計的有意差(p=0.014)を確認

SIRT1活性化、Nox4減少、Nrf2増加による酸化ストレス軽減がメカニズムと考えられている

投与量のヒトへの外挿問題、食事量未追跡など重要な限界が存在する

ヒトでの効果は未確認であり、日本ではシロシビンは規制物質のため使用は違法

参考文献

[1]
Psilocybin treatment extends cellular lifespan and improves survival of aged mice
Kato K, Kleinhenz JM, Shin YJ, Coarfa C, Zarrabi AJ, Hecker L. npj Aging, 11(1):55, 2025年7月8日
[2]
Psilocybin delays aging, extends lifespan, new Emory study suggests
Emory University, 2025年7月
[3]
Can psychedelic mushrooms turn back the clock?
Baylor College of Medicine, 2025年7月
[4]
Psilocybin and Aging: Early Evidence from Human Cells and Mice
OPEN Foundation, 2025年
[5]
A critical look at the lifespan-extending promise of psilocybin
Peter Attia MD, 2025年
[6]
Psilocybin treatment extends cellular lifespan and improves survival of aged mice (PubMed)
PubMed (NCBI), PMID: 40628762, 2025年7月8日

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