多発性硬化症(MS)とは?カンナビノイド治療サティベックスの可能性を解説

多発性硬化症(MS)とは?カンナビノイド治療サティベックスの可能性を解説
多発性硬化症(Multiple Sclerosis:MS)は、免疫システムが自分の中枢神経系を攻撃してしまう自己免疫疾患です。日本では約2万人の患者がおり、指定難病に認定されています。近年、従来の治療法に加え、カンナビノイド医薬品サティベックス(Sativex)がMS関連の痙縮に対する治療選択肢として注目を集めています。
多発性硬化症は、脳や脊髄の神経線維を覆う髄鞘(ミエリン)が免疫細胞に攻撃される疾患です。日本の患者数は約2万人で、30歳前後の女性に多く発症します。視力障害、手足のしびれ、歩行困難などの症状が特徴で、再発と寛解を繰り返すことが多いです。カンナビノイド医薬品サティベックスは、29ヶ国でMS関連の痙縮治療薬として承認されています。
多発性硬化症(MS)とは
多発性硬化症は、中枢神経系(脳・脊髄・視神経)に炎症が起こり、神経線維を覆う髄鞘(ミエリン)が破壊される脱髄疾患です。髄鞘は神経信号を効率よく伝える役割を担っているため、これが損傷すると様々な神経症状が現れます。
「多発性」という名前は、中枢神経系の複数の場所に病変が生じることに由来し、「硬化症」は病変部位が瘢痕化して硬くなることを指します。病変の場所によって症状が異なるため、患者さんごとに症状や経過が大きく異なるのが特徴です。
日本における患者数
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 日本の推定患者数 | 約20,000人 |
| 有病率(全国平均) | 10万人あたり14〜18人 |
| 有病率(北海道) | 10万人あたり約20人 |
| 平均発症年齢 | 30歳前後 |
| 男女比 | 1:3(女性に多い) |
| 指定難病番号 | 指定難病13 |
かつて日本ではMSは稀な疾患と考えられていましたが、近年急速に患者数が増加しています。以前は10万人に1〜5人程度とされていた有病率は、現在では10万人あたり14〜18人程度まで上昇しており、欧米との差が縮まってきています。
主な症状
MSの症状は、病変が生じる部位によって異なります。一人の患者さんでも、時間とともに症状が変化することがあります。
代表的な症状
感覚・運動障害
手足のしびれ・感覚異常
- ピリピリ、チクチクした感覚
- 温度感覚の低下
- 触覚の鈍化
筋力低下・運動障害
- 片側または両側の手足の脱力
- 歩行困難
- 痙縮(筋肉のこわばり)
視覚・その他の障害
視神経炎
- 視力低下
- 視野欠損
- 眼球運動時の痛み
その他の症状
- 排尿障害
- 疲労感
- 認知機能低下
- うつ症状
MSに特徴的な症状として「レルミット徴候」があります。首を前に曲げると、背中から足先にかけて電気が走るようなしびれが生じる現象で、脊髄の脱髄病変を示唆します。
痙縮(スパスティシティ)
痙縮はMS患者の約80%に見られる症状で、筋肉が過度に緊張して硬くなり、動きが制限される状態です。痙縮は日常生活に大きな支障をきたし、痛み、睡眠障害、転倒リスクの増加などの原因となります。
従来の抗痙縮薬(バクロフェン、チザニジンなど)では十分な効果が得られない患者も多く、カンナビノイド医薬品サティベックスが新たな治療選択肢として注目されています。
病型と経過
MSにはいくつかの病型があり、経過が異なります。
最も多い病型(約85%)
症状の悪化(再発)と回復(寛解)を繰り返す。多くは徐々に二次進行型に移行
RRMSからの移行
再発寛解型から移行し、再発とは関係なく徐々に障害が進行
約10-15%
発症時から明確な再発なく、徐々に進行。治療への反応が乏しいことが多い
まれな病型
発症時から進行性で、途中で急性の再発も起こる
従来の治療法
急性期治療(再発時)
再発時には、炎症を抑えるためにステロイドパルス療法が行われます。メチルプレドニゾロン(ソル・メドロール)を3〜5日間点滴投与するのが一般的です。効果不十分な場合は、血液浄化療法が検討されることもあります。
疾患修飾薬(DMT)
再発予防と進行抑制のために、疾患修飾薬(Disease Modifying Therapy)が使用されます。
| 薬剤名 | 投与方法 | 特徴 |
|---|---|---|
| インターフェロンβ | 皮下注射 | 日本で最初に承認されたDMT |
| グラチラマー酢酸塩 | 皮下注射 | 免疫調節作用 |
| フィンゴリモド | 経口 | 日本初の経口薬 |
| ナタリズマブ | 点滴 | 高い有効性、PML リスクに注意 |
| フマル酸ジメチル | 経口 | 抗炎症・神経保護作用 |
| オファツムマブ | 皮下注射 | 抗CD20抗体 |
| シポニモド | 経口 | 二次進行型にも適応 |
近年、将来の再発リスクや障害の進行を減らすために、早い段階から効果の高い治療薬を用いる治療法が広がっています。早期に適切な治療を開始することで、長期的な予後が改善することが示されています。
カンナビノイド医薬品による治療
サティベックス(Sativex)とは
サティベックス(一般名:ナビキシモルス)は、THC(テトラヒドロカンナビノール)とCBD(カンナビジオール)をほぼ1:1の割合で含む口腔スプレー剤です。大麻草から抽出された成分を有効成分としており、カンナビノイド受容体に作用することで痙縮を改善します。
サティベックスは、従来の抗痙縮薬で十分な効果が得られないMS関連の中等度〜重度の痙縮に対する追加治療薬として、29ヶ国で承認されています。THCとCBDの組み合わせにより、興奮性と抑制性の神経伝達物質のバランスを調整し、筋弛緩作用をもたらします。
臨床試験の結果
サティベックスの有効性は、複数のランダム化比較試験で証明されています。
| 試験 | 結果 |
|---|---|
| 6週間RCT | 痙縮に対して臨床的に有意な効果を確認 |
| NRSスコア | ベースライン8.1→4週後5.2→12週後4.1に改善 |
| QOL評価 | EuroQoLスコアがベースライン39→12週後59に改善 |
| 反応率 | 60%以上の患者で痙縮と関連症状の改善を報告 |
| 長期安全性 | 平均334日の使用で耐性発現なし、重篤な副作用まれ |
ベルギーでの実臨床研究では、サティベックス追加投与により、痙縮の数値評価スケール(NRS)が平均8.1から12週後には4.1まで改善しました。また、生活の質(QOL)を評価するEuroQoLスコアも39から59へと大幅に向上しています。
副作用と安全性
| 副作用 | 発現頻度 |
|---|---|
| めまい | 24.7% |
| 疲労感 | 12.3% |
| 口腔内不快感 | 10%未満 |
| 嘔気 | 10%未満 |
長期使用における安全性試験では、146名の患者が平均334日間サティベックスを使用しましたが、新たな安全性上の懸念は認められませんでした。耐性の発現もなく、治療を継続した患者は持続的な効果を報告しています。精神病性障害や離脱症状の発現は認められていません。
承認状況
サティベックスは現在、29ヶ国でMS関連の痙縮治療薬として承認されています。
承認国
- EU諸国
- イギリス
- カナダ
- イスラエル
- オーストラリア
- その他多数
米国: 第3相臨床試験実施中
日本の状況
現状: 未承認
今後の可能性:
- 2024年12月の法改正により大麻由来医薬品の使用が法的に可能に
- サティベックスの国内導入の道が開かれた
- ただし、現時点で具体的な承認予定はなし
日本での展望
2024年法改正の影響
2024年12月12日に施行された改正大麻取締法により、大麻草由来医薬品の製造・使用が日本でも法的に可能となりました。これにより、エピディオレックス(CBD医薬品)だけでなく、THCを含むサティベックスも、将来的に日本で承認される可能性が開かれました。
サティベックスはTHCを含むため、日本での承認にはCBD製剤とは異なる規制上の課題があります。THCは麻薬及び向精神薬取締法の「麻薬」に該当するため、医薬品として使用するためには、麻薬としての厳格な管理体制のもとでの使用が求められます。2024年の法改正は大麻取締法の改正であり、麻薬及び向精神薬取締法との整合性を含めた検討が今後必要となります。
患者の期待
MS関連の痙縮に苦しむ患者さんにとって、従来の治療法で十分な効果が得られない場合の選択肢は限られています。サティベックスは、国際的な臨床試験で有効性と安全性が確認されており、日本の患者さんからも導入を望む声が上がっています。
FAQ
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まとめ
多発性硬化症は、中枢神経系を攻撃する自己免疫疾患であり、日本では約2万人の患者がいます。痙縮は患者の約80%に見られる辛い症状ですが、カンナビノイド医薬品サティベックスが29ヶ国で治療薬として承認されており、臨床試験で有効性と安全性が確認されています。
2024年12月の改正大麻取締法施行により、日本でもカンナビノイド医薬品導入への法的な道が開かれました。今後、サティベックスを含む新たな治療選択肢が日本のMS患者さんに提供されることが期待されます。
参考文献
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