神経障害性疼痛とは?カンナビノイド治療の可能性とエビデンスを解説

神経障害性疼痛とは?カンナビノイド治療の可能性とエビデンスを解説
神経障害性疼痛は、神経系の損傷や疾患によって引き起こされる慢性的な痛みです。通常の鎮痛薬が効きにくく、日本では約600万人が罹患していると推定されています。近年、従来の治療法で効果が不十分な患者に対するカンナビノイド医薬品の可能性が研究されています。
神経障害性疼痛は「体性感覚神経系の病変や疾患によって引き起こされる疼痛」と定義されます。日本では約600万人(人口の約6%)が罹患し、焼けるような痛み、しびれ、アロディニア(非痛み刺激を痛みとして感じる)などの症状が特徴です。通常の鎮痛薬(NSAIDs)は効果がなく、プレガバリンなどの専門的な治療薬が使用されます。カンナビノイド医薬品は第3-4選択薬として研究されています。
神経障害性疼痛の定義
神経障害性疼痛は、国際疼痛学会(IASP)により「体性感覚神経系の病変や疾患によって引き起こされる疼痛」と定義されています(2008年改訂)。
末梢神経から脊髄、脳に至る痛みの伝達経路のどこかに損傷や疾患があることで、痛みのシグナルが異常に増幅されたり、本来痛みを感じないはずの刺激が痛みとして認識されたりします。
通常の痛み(侵害受容性疼痛)は、組織の損傷によって生じ、損傷が治癒すれば痛みも消失します。一方、神経障害性疼痛は神経系自体の異常によって生じるため、原因となった組織損傷が治癒しても痛みが持続することがあります。
日本における患者数
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 日本の推定患者数 | 約600万人 |
| 人口に対する有病率 | 約6.4% |
| 慢性疼痛の有病率 | 約26.4% |
| 世界の慢性疼痛患者数 | 15億人以上 |
| 経済的損失(米国) | 約9兆円/年 |
日本の成人人口に換算すると、約600万人が神経障害性疼痛を保有していると推定されています。世界的な高齢化と糖尿病の増加に伴い、この数は今後さらに増加することが予想されています。
主な症状
神経障害性疼痛の症状は多様で、以下のような特徴的な症状が見られます。
痛みの性質
自発痛(持続痛)
- 焼けるような痛み(灼熱痛)
- 刺すような痛み(刺痛)
- 電気が走るような痛み
- ジンジン、ビリビリするしびれ
発作性の痛み
- 突然起こる激痛
- 数秒から数分持続
- 誘因なく発生することも
感覚異常
痛覚過敏
- 軽い痛み刺激が激痛に感じる
- 痛みに対する閾値の低下
アロディニア
- 触れる、衣服が当たるなどの非痛み刺激が痛みとして感じられる
- 冷たさを痛みとして感じる
知覚鈍麻
- 感覚が鈍くなる
- 痛みと鈍麻が共存することも
神経障害性疼痛は24時間持続することが多く、睡眠障害、うつ、不安障害を合併しやすいです。日常生活や仕事に大きな支障をきたし、患者のQOL(生活の質)を著しく低下させます。
主な原因疾患
神経障害性疼痛を引き起こす疾患は多岐にわたります。
| 分類 | 疾患名 | 特徴 |
|---|---|---|
| 末梢性 | 帯状疱疹後神経痛 | 帯状疱疹後に残存する痛み。高齢者に多い |
| 末梢性 | 糖尿病性神経障害 | 糖尿病の合併症。両側の手足に対称的に生じる |
| 末梢性 | 三叉神経痛 | 顔面に電撃様の激痛 |
| 末梢性 | 外傷性神経損傷 | 手術後、外傷後に神経が損傷 |
| 脊髄性 | 脊柱管狭窄症 | 神経の圧迫による痛みとしびれ |
| 脊髄性 | 椎間板ヘルニア | 飛び出した椎間板が神経を圧迫 |
| 中枢性 | 脳卒中後疼痛 | 脳卒中後に生じる難治性の痛み |
| 中枢性 | 多発性硬化症 | MSに伴う中枢性疼痛 |
整形外科領域では、脊椎疾患に関連する痛みの約80%が神経障害性疼痛の要因を含んでいると報告されています。
従来の治療法
薬物療法
神経障害性疼痛に対しては、通常の鎮痛薬(NSAIDs:ロキソニンなど)は効果がありません。神経に直接作用する特別な薬剤が使用されます。
プレガバリン、デュロキセチン
Ca²⁺チャネルα2δリガンド、SNRI。最も推奨される薬剤
三環系抗うつ薬(TCA)
アミトリプチリンなど。副作用に注意が必要
ワクシニアウイルス接種家兎炎症皮膚抽出液
日本で開発された鎮痛薬
トラマドール
オピオイド系鎮痛薬。依存性に注意
強オピオイド
モルヒネ、オキシコドンなど。難治例に使用
日本ペインクリニック学会の神経障害性疼痛薬物療法ガイドライン(2021年改訂)では、薬物療法が治療の基本とされています。第一選択薬から開始し、効果不十分な場合は段階的に薬剤を追加・変更していきます。
非薬物療法
薬物療法で効果不十分な場合は、以下の治療法が検討されます。
| 治療法 | 内容 |
|---|---|
| 神経ブロック | 局所麻酔薬を注射して痛みを遮断 |
| 脊髄刺激療法(SCS) | 脊髄に微弱な電気刺激を与えて痛みを調整 |
| 理学療法 | 運動療法、温熱療法などのリハビリテーション |
| 認知行動療法 | 痛みに対する認知や行動パターンを修正 |
カンナビノイド医薬品による治療
現在のエビデンス
神経障害性疼痛に対するカンナビノイド医薬品の効果については、複数の臨床試験が行われています。
2017年までに行われた16の臨床試験(1,750人)を分析したコクランレビューでは、カンナビノイド医薬品による50%以上の疼痛軽減達成率は21%(プラセボ17%)、30%以上の軽減達成率は39%(プラセボ33%)でした。統計的に有意ではあるものの、効果の大きさは限定的であり、「高品質なエビデンスはない」と結論づけられています。
臨床試験の結果
| 研究 | 対象 | 結果 |
|---|---|---|
| コクランレビュー(2018) | 慢性神経障害性疼痛 | NNT 20(50%改善)、NNT 11(30%改善) |
| 外用CBD研究 | 末梢神経障害 | 痛みと感覚異常の有意な改善 |
| THC:CBD(MS関連) | MS関連神経障害性疼痛 | プラセボに対して有効 |
| THC:CBD(糖尿病性) | 糖尿病性神経障害 | 12週間でプラセボとの差なし |
外用CBD製剤の可能性
末梢神経障害に対する外用CBD製剤の4週間RCTでは、痛みやその他の感覚異常に有意な改善が認められました。外用製剤は全身性の副作用が少なく、中枢神経系への影響も限定的であるため、今後の研究が期待されています。
一方、より最近の研究では、経口CBD、THC、またはその併用が、従来治療に抵抗性の末梢神経障害性疼痛患者において、痛みを減少させなかったとの報告もあります。効果には個人差が大きく、最適な投与方法やTHC/CBD比率についてはさらなる研究が必要です。
現在の位置づけ
国際的なガイドラインでは、カンナビノイド医薬品は神経障害性疼痛の第3〜4選択薬として位置づけられています。
推奨される使用場面
- 第一・第二選択薬が無効または副作用で使用できない場合
- 既存治療への追加療法として
- MS関連の神経障害性疼痛(サティベックスに最も強いエビデンス)
注意すべき点
- エビデンスの質は高くない
- 効果には個人差が大きい
- 眠気、めまい、精神症状などの副作用
- 長期安全性のデータが限られている
日本での状況
日本では、神経障害性疼痛に対してカンナビノイド医薬品は承認されていません。2024年12月の改正大麻取締法により大麻由来医薬品の使用が法的に可能となりましたが、神経障害性疼痛への適応を持つカンナビノイド医薬品(サティベックスなど)の承認時期は未定です。
現時点では、日本神経障害性疼痛ガイドラインに沿った従来の薬物療法が標準治療となっています。
FAQ
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まとめ
神経障害性疼痛は、神経系の損傷によって生じる慢性的な痛みで、日本では約600万人が罹患しています。通常の鎮痛薬は効果がなく、プレガバリンなどの専門的な治療薬が必要です。
カンナビノイド医薬品は、従来治療で効果不十分な場合の第3〜4選択肢として国際的に位置づけられていますが、エビデンスの質は高くなく、効果には個人差があります。日本では現時点で承認されておらず、今後の研究と規制の動向が注目されます。
参考文献
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