サティベックス(Sativex)とは?THCとCBDを含む医療用大麻スプレーを解説

サティベックス(Sativex)とは
サティベックス(Sativex) は、一般名をナビキシモルス(nabiximols) といい、イギリスのGW Pharmaceuticals社(現在はJazz Pharmaceuticals傘下)が開発したカンナビノイド口腔スプレーです。大麻草から抽出されたTHC(テトラヒドロカンナビノール)とCBD(カンナビジオール)を主成分とし、主に多発性硬化症(MS)による痙縮の治療に使用されています。
2005年にカナダで世界初の承認を受け、2010年にはイギリスで完全な規制承認を取得しました。現在、世界29カ国以上で医療用として承認されており、THCを含む医薬品として初めて正式な薬事承認を受けた画期的な製品です。

成分と作用機序
有効成分
サティベックスは、1回のスプレー(100μL)あたり以下の成分を含有しています。
- THC(デルタ9-テトラヒドロカンナビノール): 2.7mg
- CBD(カンナビジオール): 2.5mg
THCとCBDの比率がほぼ1:1に設定されている点が特徴です。この配合比により、THCの治療効果を維持しながら、CBDがTHCの精神活性作用(いわゆる「ハイ」になる作用)を抑制する効果が期待されています。
抽出方法
サティベックスの有効成分は、大麻草(Cannabis sativa L.)から抽出された植物由来のカンナビノイドです。合成カンナビノイドではなく、植物全体から抽出されるため、THCとCBD以外にも微量のカンナビノイドやテルペンが含まれており、アントラージュ効果(相乗効果)が期待されています。
作用機序
サティベックスは、人体に存在するエンドカンナビノイドシステム(ECS) に作用します。THCは主にCB1受容体とCB2受容体に結合し、神経伝達を調節することで痙縮や疼痛を緩和します。一方、CBDはCB受容体への直接的な結合は弱いものの、エンドカンナビノイドの分解を抑制するなどの間接的な作用を通じて、THCの効果を補完しています。
適応症と臨床効果
承認されている適応症
サティベックスが承認されている主な適応症は以下の通りです。
多発性硬化症(MS)による痙縮 他の抗痙縮薬で十分な効果が得られない成人患者の、中等度から重度の痙縮に対する追加治療として使用されます。これが最も広く承認されている適応症であり、世界29カ国以上で承認されています。
がん性疼痛(一部の国) オピオイド鎮痛薬で十分にコントロールできない進行がん患者の疼痛に対して、カナダなど一部の国で承認されています。
臨床試験の結果
2022年にイタリアで実施された大規模研究では、多発性硬化症による難治性痙縮の患者1,138名を対象にサティベックスの効果を分析しました。その結果、約3分の1の患者が18ヶ月間の治療を継続し、痙縮の重症度は以下のように改善しました。
- 4週間使用後: 24.6%の痙縮軽減
- 18ヶ月使用後: 33.9%の痙縮軽減
また、スイスで実施された多施設研究でも、サティベックスの有効性と安全性が確認されており、多くの患者が症状の改善を実感しています。
使用方法
投与経路
サティベックスは口腔粘膜スプレーとして使用します。舌下や頬の内側にスプレーし、口腔粘膜から吸収させます。経口摂取(飲み込む)や吸入(吸い込む)ではないため、肝臓での初回通過効果を避けながら、比較的速やかに血中濃度が上昇します。
用法・用量
投与量は患者ごとに調整されます。一般的な使用パターンは以下の通りです。
導入期(1-2週間) 1日1-2回のスプレーから開始し、効果と副作用を観察しながら徐々に増量します。
維持期 多くの患者では1日8-12回のスプレーが一般的ですが、最大で1日12スプレーまで使用可能です。スプレーの間隔は最低15分以上空ける必要があります。
注意事項
連続して同じ部位にスプレーすると口腔粘膜が刺激されるため、スプレーする部位を変えることが推奨されています。また、食事の影響を受けにくい投与経路ですが、アルコールとの併用は避けるべきとされています。
副作用とリスク
一般的な副作用
サティベックスの臨床試験で報告された主な副作用は以下の通りです。
頻度が高い副作用(10%以上)
- めまい
- 疲労感
- 傾眠(眠気)
比較的頻度の高い副作用(1-10%)
- 口腔内の不快感・疼痛
- 口渇
- 味覚異常
- 食欲の変化
- 嘔気
- 下痢
まれな副作用(1%未満)
- 精神症状(不安、気分変動、解離)
- 幻覚
- 妄想
使用上の注意
サティベックスは以下の患者には使用が推奨されません。
- 精神疾患の既往がある患者(統合失調症、その他の精神病性障害)
- 重度の心血管疾患のある患者
- 妊娠中・授乳中の女性
- 18歳未満の患者
また、運転や機械操作への影響があるため、服用中は車の運転を避けることが推奨されています。
世界各国での承認状況
承認国一覧
サティベックスは以下の国々で医療用として承認されています。
2005年
- カナダ(世界初の承認)
2010年
- イギリス(世界初の完全規制承認)
- スペイン
2011年
- チェコ共和国
- ドイツ
- デンマーク
2012年以降
- スウェーデン、イタリア、オーストリア、ポーランド、フランスなど
現在、29カ国以上で承認されており、欧州を中心に広く使用されています。
アメリカでの状況
サティベックスはアメリカではまだFDA(食品医薬品局)の承認を受けていません。大塚製薬がGW Pharmaceuticalsと2007年にライセンス契約を締結し、米国でのがん性疼痛治療薬としての開発を進めていましたが、Phase III臨床試験で期待された効果を示せず、2017年に両社の提携は終了しました。
その後、Jazz Pharmaceuticalsが2021年にGW Pharmaceuticalsを買収し、多発性硬化症の痙縮に対するPhase III試験を実施しましたが、2022年に主要評価項目を達成できなかったと発表しています。
2025年10月には、CNX TherapeuticsがJazz Pharmaceuticalsからサティベックスのグローバル事業を買収し、今後の展開が注目されています。
日本での展望
法的状況
日本では、2023年12月に改正大麻取締法が成立し、2024年12月12日から施行されました。この法改正により、THCを含む大麻由来医薬品の使用が法的に可能となりました。
しかし、2026年1月現在、サティベックスは日本では未承認であり、処方を受けることはできません。日本でサティベックスが使用可能になるためには、製薬会社による承認申請と、厚生労働省による審査・承認のプロセスが必要です。
日本臨床カンナビノイド学会の取り組み
一般社団法人日本臨床カンナビノイド学会は、サティベックスの医療従事者向けおよび患者向けの添付文書を日本語に翻訳し、会員限定で提供しています。これは、将来的な日本での承認に備え、医療関係者への情報提供を目的としたものです。
エピディオレックスとの違い
サティベックスは、同じくGW Pharmaceuticals(現Jazz Pharmaceuticals)が開発したエピディオレックス(Epidiolex) としばしば比較されます。
| 項目 | サティベックス | エピディオレックス |
|---|---|---|
| 主成分 | THC + CBD | CBDのみ |
| THC含有 | あり(2.7mg/スプレー) | なし |
| 投与形態 | 口腔スプレー | 経口液剤 |
| 主な適応 | 多発性硬化症の痙縮 | 難治性てんかん |
| FDA承認 | 未承認 | 2018年承認 |
| 精神活性 | あり(軽度) | なし |
エピディオレックスはTHCを含まないため、精神活性作用がなく、規制上のハードルが低いという特徴があります。一方、サティベックスはTHCとCBDの相乗効果を活用することで、特に痙縮や神経障害性疼痛に対して独自の効果を発揮します。
まとめ
サティベックス(ナビキシモルス)は、THCとCBDを含む世界初の処方承認されたカンナビノイド医薬品です。多発性硬化症による痙縮に対して有効性が確認されており、世界29カ国以上で使用されています。
日本では2024年12月の法改正により、THCを含む医薬品の使用が法的に可能となりましたが、サティベックスはまだ承認されていません。今後、日本での承認に向けた動きがあるかどうか、継続的な注視が必要です。
参考文献
- Nabiximols - Wikipedia
- ナビキシモルス - Wikipedia(日本語)
- 大塚製薬 - サティベックス ライセンス契約(2007年)
- Jazz Pharmaceuticals - Phase 3 Trial Results
- Sativex in the Management of MS Spasticity - PMC
- 日本臨床カンナビノイド学会 - サティベックス添付文書和訳
免責事項: この記事は情報提供を目的としており、医学的アドバイスを構成するものではありません。サティベックスは日本では未承認の医薬品です。治療に関する判断は、必ず医療専門家にご相談ください。
関連記事
この記事を読んだ人はこちらも読んでいます








