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子宮内膜症とCBD:初のRCT「DREAMLAND試験」で鎮痛効果なし、英NHSは高用量で再挑戦

ASA Media編集部
11分
子宮内膜症とCBD:初のRCT「DREAMLAND試験」で鎮痛効果なし、英NHSは高用量で再挑戦

子宮内膜症とCBD:初のRCT「DREAMLAND試験」で鎮痛効果なし、英NHSは高用量で再挑戦

概要

2026年、CBDと子宮内膜症に関する研究の世界で重要なマイルストーンが刻まれました。

  • DREAMLAND試験: ブラジル・サンパウロ大学が実施した世界初クラスの大規模RCT(102名)で、CBD油の子宮内膜症鎮痛効果がプラセボと有意差なしと判定され中間解析で試験終了
  • ENDOCAN試験: 英国NHS(スコットランド)がエジンバラ大学主導で2026年3月に開始。最大875mg/日という高用量CBDで再挑戦
  • QoL・心理症状: DREAMLAND試験では鎮痛効果は示せなかったものの、心理的症状と生活の質(QoL)への改善傾向は確認
  • 日本への示唆: 月経のある女性の10人に1人ともいわれる子宮内膜症に対し、CBD研究は「鎮痛単独」から「多面的アプローチ」へとシフトしつつある

子宮内膜症という慢性的な苦しみ

子宮内膜症は、本来子宮の内側にある組織(子宮内膜)が子宮外——卵巣・腸・腹膜など——に異所性に増殖する婦人科疾患です。月経のある女性の約7〜10%(日本では推定200〜400万人)が罹患しているとされ、激しい月経痛・慢性骨盤痛・不妊をはじめとする深刻な症状をもたらします。診断までに平均7〜10年かかることも多く、長期にわたって痛みを抱え続ける女性が少なくありません。

現在の標準的な治療は、ホルモン療法(低用量ピル・プロゲスチン製剤)や腹腔鏡手術が中心ですが、再発率が高く、薬の副作用に悩む患者も多数存在します。こうした背景から、CBD(カンナビジオール)をはじめとするカンナビノイドへの関心が世界的に高まってきました。

なぜCBDが注目されるのか。その鍵を握るのがエンドカンナビノイドシステム(ECS)です。ECSは人体に本来備わる受容体ネットワークであり、痛みの知覚・炎症応答・免疫調節において中心的な役割を担っています。子宮内膜症の病変組織ではCB1受容体・CB2受容体の発現パターンが正常子宮内膜と異なっており、ECS機能不全が痛みの慢性化や病変の増殖に関与しているという仮説が提唱されています。

DREAMLAND試験:世界が注目したRCTの詳細

試験の概要

DREAMLAND試験(正式名:Cannabidiol-Enriched Extract Oil for Postoperative Management of Chronic Pelvic Pain Secondary to Endometriosis)は、ブラジルのサンパウロ大学リベイロン・プレト医学校病院を中心に実施されました。子宮内膜症とCBDを組み合わせた大規模無作為化比較試験(RCT)として世界的に注目を集め、その結果は2026年にCannabis and Cannabinoid Research誌(SAGE)に掲載されました。

試験デザインは単施設・無作為化・並行群・三重盲検・プラセボ対照試験という厳格なものです。対象は腹腔鏡手術で子宮内膜症が確認され、ホルモン療法中にもかかわらず症状が再発した女性たち102名で、CBD群51名・プラセボ群51名に1:1で割り付けられました。

投与方法と用量

CBD群には大麻由来のCBD濃縮エキスオイル(THC含有量0.3%以下)が投与されました。投与量は第1週の10mg/日から段階的に増量し、第9週には150mg/日に到達。その後テーパリング(漸減)するという10週間の設計です。なお主要評価項目は、視覚的アナログスケール(VAS)による疼痛強度の変化と、30%および50%以上の疼痛軽減を達成した参加者の割合でした。

試験結果:鎮痛効果はプラセボと差なし

計画していた中間解析を実施したところ、CBD群の疼痛スコアはプラセボ群と統計的に有意な差を示さなかったことが判明しました。さらにCBD群では副作用の発生頻度がプラセボ群より高かったため、試験委員会の判断で試験は中途終了となりました。

これは「CBDが子宮内膜症の鎮痛に効果がない」と断言するものではありません。ただし、少なくとも今回の用量設定(最高150mg/日)・試験期間(10週間)・対象集団(術後再発例)の組み合わせでは、プラセボを上回る鎮痛効果は得られなかったという事実は重要な知見です。

鎮痛以外の副次的な発見

主要評価項目では効果が示せなかったものの、副次評価項目に目を向けると異なる景色が見えてきます。CBD群では心理的症状(不安・抑うつ)と生活の質(QoL)において改善傾向が確認されたのです。研究者たちはこの点を踏まえ、「カンナビノイドは骨盤痛の直接的な鎮痛剤としてではなく、慢性骨盤痛症候群における心理社会的な負担に対する補助的アプローチとして評価すべき可能性がある」と結論づけています。

CBD慢性痛への総合的なエビデンスを見ると、慢性疼痛には痛みの知覚だけでなく、感情・認知・社会的側面が複雑に絡み合っていることがわかります。子宮内膜症もその典型例であり、痛み単体ではなく患者の全体的な苦しみをターゲットにするアプローチが今後の研究の方向性となりそうです。

ENDOCAN試験:英国NHSが「高用量」で再挑戦

試験の背景と承認経緯

DREAMLAND試験の結果を踏まえると、次の問いが自然と浮かびます——「用量が足りなかったのではないか?」。この問いに正面から挑んでいるのが、英国スコットランドのNHS(国民保健サービス)が支援するENDOCAN Phase 2試験です。

2026年3月4日、医薬品医療製品規制庁(MHRA)とNHS倫理審査機関の両方の承認を取得し、投薬が開始されました。試験はスコットランドの2つのNHSトラスト(NHS LothianとNHS Grampian)を舞台に、エジンバラ大学のLucy Whitaker博士を主任研究者として、著名な子宮内膜症専門家Andrew Horne教授・Philippa Saunders教授が統括しています。資金はスコットランド最高科学顧問局(Chief Scientist Office)が提供しています。

高用量CBD「MRX1」の挑戦

使用する薬剤はAnanda Pharmaが開発した独自のCBD経口溶液「MRX1」です。最大投与量は12.5mg/kg体重/日、70kgの女性であれば875mg/日という大量投与です。英国食品基準局(FSA)が推奨する一般的なCBD上限(10mg/日)の87倍、DREAMLAND試験の最高用量(150mg/日)の約6倍にあたります。

試験は二重盲検プラセボ対照デザインで、スコットランド全体で最大100名の女性を対象に12週間実施されます。Ananda Pharmaは2025年7〜10月にオーストラリアで19名を対象とした第1相薬物動態試験を先行実施しており、同年11月に公表されたデータではMRX1の安全性プロファイルが良好で、報告された副作用はすべて軽度かつ試験脱落者ゼロでした。

エンドカンナビノイドシステムと子宮内膜症:なぜ効くはずなのか

DREAMLAND試験の結果が「効果なし」を示しながら、なぜ研究者たちは高用量試験を続けるのでしょうか。その根拠はECSの生物学的な関与にあります。

健常な子宮内膜ではCB1受容体とCB2受容体が分布しており、アナンダミドや2-AGといった内因性カンナビノイドが月経周期に応じた子宮の機能調節に関わっています。一方、子宮内膜症の病変組織ではCB1受容体の発現が変化し、内因性カンナビノイドの分解酵素(FAAH)の活性が高まっている——いわば「カンナビノイド欠乏」の状態にあるという研究が複数報告されています。この欠乏が痛みの感作(sensitization)と病変の拡大を促進している可能性が指摘されています。

さらに、CB1受容体を活性化することで神経細胞の痛み感受性が低下し、子宮内膜症特有のアロディニア(本来痛みではない刺激が痛みに感じる状態)が緩和されるとする動物実験レベルの知見もあります。理論的な根拠は十分にあるのに、実際のRCTで効果が出ない——これは用量・製剤・患者選択・測定期間などの問題である可能性が高く、だからこそ高用量試験が意義を持つのです。

PMS(月経前症候群)とカンナビノイドの管理に関する研究や、CBD坐薬による月経関連骨盤痛への効果(81%改善)を報告した2024年の研究は、投与経路や対象集団が異なる場合には効果が確認される可能性を示しており、子宮内膜症に限定した経口CBD試験とは別の角度から蓄積されつつあります。

2026年系統的レビュー:これまでのエビデンスの整理

2026年には、オーストラリア・ニュージーランド産科婦人科学会誌にスコーピング系統的レビュー「Cannabis Use in Endometriosis」が掲載されました。これは子宮内膜症とカンナビス使用に関するこれまでの研究を包括的に整理したもので、以下の点を明らかにしています。

実際に子宮内膜症患者の多くがすでに自己判断でカンナビスやCBD製品を使用しており、その目的のほとんどは骨盤痛・性交痛・消化器症状の緩和です。しかし、RCTレベルの厳格なエビデンスはDREAMLAND試験以前には事実上存在せず、患者の自己申告による改善と、科学的な検証の間には大きなギャップがありました。このレビューは「患者ニーズは明確に存在するが、エビデンス基盤の整備が急務だ」と結論づけています。

CBD不安障害RCT(2024年)の大規模エビデンスとの比較でも、同じCBDでも適応症・用量・測定方法によって結果は大きく異なることが示されており、子宮内膜症という疾患固有の複雑さを考慮した研究設計の重要性が浮かび上がります。

日本における子宮内膜症とCBDの現状

日本では月経のある女性の10人に1人が子宮内膜症に罹患しているとも言われ、推定患者数は200〜400万人です。厚生労働省の患者調査(2023年)でも約25万人が医療機関に通院している実態が確認されています。しかし、子宮内膜症の痛みを適切に管理できている患者はいまだ少なく、鎮痛剤の長期使用・ホルモン剤の副作用・手術後の再発という繰り返しのサイクルに苦しむ女性が多数存在します。

日本においてCBDは、ヘンプ(産業用大麻)の茎・種子由来であれば一定の条件下で合法的に使用可能です。しかし、子宮内膜症への治療応用はまだ医療行為として承認されておらず、あくまで個人が自己判断で使用しているのが現状です。DREAMLAND試験やENDOCAN試験の結果が蓄積されれば、将来的には日本でもエビデンスに基づいた適切な使用指針の策定が期待されます。

まとめ

  • DREAMLAND試験(ブラジル・2026年)はCBD経口油(最高150mg/日・10週間)の子宮内膜症鎮痛効果を検証したRCTで、中間解析で試験終了——プラセボ比較での鎮痛優越性は示せなかった
  • 一方、心理的症状・QoLへの副次的改善傾向は確認されており、カンナビノイドを「多面的アプローチの一部」として評価し直す見方が研究者の間で広まっている
  • 英国NHS ENDOCAN試験(2026年3月開始)は最大875mg/日という高用量で再挑戦。エジンバラ大学が主導し、100名を12週間追跡する
  • 用量・投与経路・患者集団の違いが結果を大きく左右する可能性があり、ENDOCAN試験の結果が今後の研究方向を決定づける
  • 日本でも推定200〜400万人が罹患する子宮内膜症への新たな治療選択肢として、CBD研究の動向は引き続き注目に値する

よくある質問(FAQ)

断定はできませんが、いくつかの可能性が考えられます。最高用量150mg/日が不十分だった可能性(英国試験では875mg/日)、術後再発という特定の患者群への適合性の問題、試験期間(10週間)の短さ、そして慢性骨盤痛特有のプラセボ反応の高さが挙げられます。「CBDが子宮内膜症に全く効かない」と断言する根拠にはなりません。

最大の違いは用量です。DREAMLANDの最高用量は150mg/日でしたが、ENDOCANは体重70kgの女性で875mg/日——約6倍の高用量です。また製剤(Ananda Pharma独自のMRX1)、実施国(英国スコットランド)、資金源(NHS・英国科学顧問局)も異なります。試験期間は同じく12週間(DREAMLAND10週間)です。

法的には、ヘンプ由来でTHCを含まないCBD製品は日本でも使用可能です。ただし、子宮内膜症に対する医療用途としての承認はなく、現時点では治療法として推奨できるエビデンスが確立されていません。使用を検討する場合は必ず婦人科専門医に相談のうえ、既存の治療と組み合わせて判断してください。

投与経路による違いは大きい可能性があります。経口投与(飲む)は全身循環を経るため効果発現が遅く、肝臓での初回通過代謝で多くが分解されます。一方、坐薬や局所クリームは骨盤内の局所濃度を高めやすいという利点があります。2024年の研究では、CBD坐薬が月経関連骨盤痛を81%の参加者で改善したと報告されており、投与経路の選択が子宮内膜症への効果を左右する可能性があります。

ENDOCAN Phase 2試験は2026年3月に投薬が開始されました。12週間の投薬期間終了後のデータ解析・論文作成を考慮すると、結果の発表は早くとも2027年以降になる見込みです。現時点では試験が進行中であり、有効性・安全性についての結論はまだ出ていません。

参考情報源

  1. Cannabidiol-Enriched Extract Oil for Postoperative Management of Chronic Pelvic Pain Secondary to Endometriosis: A Randomized Clinical Trial—DREAMLAND Study — Cannabis and Cannabinoid Research / SAGE Journals(2026年)
  2. Ananda Pharma to Begin Dosing in NHS-Backed CBD Endometriosis Trial — Cannabis Health News(2026年3月)
  3. MHRA and NHS Ethics Approval Received for ENDOCAN Phase 2 Clinical Trial — PR Newswire / Ananda Pharma(2026年)
  4. A Scoping Systematic Review of Cannabis Use in Endometriosis — Australian and New Zealand Journal of Obstetrics and Gynaecology / Wiley(2026年)
  5. Endometriosis: cannabidiol therapy for symptom relief — Trends in Pharmacological Sciences / ScienceDirect
  6. ENDOCAN-1: A Pilot Randomised Controlled Trial — Ananda Pharma
  7. ClinicalTrials.gov: Cannabidiol and Management of Endometriosis Pain (NCT04527003) — ClinicalTrials.gov
  8. 子宮内膜症の疫学データ・統計 — Search My Trial

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