麻薬及び向精神薬取締法とは?規制内容・2024年改正・大麻との関係を解説

麻薬及び向精神薬取締法(通称:麻向法)は、日本における麻薬・向精神薬の取り締まりを定めた中核的な法律です。1953年に「麻薬取締法」として制定され、1990年に現在の名称に改められました。2024年12月の法改正により、これまで別法で規制されていた大麻が「麻薬」として統合され、使用罪も新設されるなど、大きな転換点を迎えています。
ここでは、麻薬及び向精神薬取締法の基本的な内容から、規制対象物質、罰則、2024年改正の詳細、そしてCBD製品への影響までを詳しく解説します。
麻薬及び向精神薬取締法は日本の薬物規制の中核となる法律
2024年12月改正で大麻が「麻薬」として統合され、使用罪が新設された
THC残留限度値が設定され、超過する製品は「麻薬」に該当する
麻薬及び向精神薬取締法とは
法律の目的と概要
麻薬及び向精神薬取締法は、麻薬および向精神薬の乱用による保健衛生上の危害を防止し、公共の福祉を増進することを目的とした法律です。具体的には、麻薬・向精神薬の輸入、輸出、製造、製剤、譲渡などの取り扱いに必要な規制を設けるとともに、麻薬中毒者に対する医療措置などを定めています。
この法律は一般に「麻向法」(まこうほう)と略称されます。英語では「Narcotics and Psychotropics Control Act」と訳されています。
法律の沿革
麻薬及び向精神薬取締法の歴史は、1953年に制定された「麻薬取締法」に遡ります。当初は麻薬のみを規制対象としていましたが、1990年に日本が「向精神薬に関する条約」を批准したことに伴い、向精神薬も規制対象に加えられ、現在の名称に改められました。
その後も社会情勢の変化に応じて改正が重ねられ、2012年には合成カンナビノイド(JWH-018など)やカチノン類(MDPV、メフェドロンなど)が規制対象に追加されました。そして2024年12月の大改正では、大麻が「麻薬」として統合されるという歴史的な転換を迎えました。
1953年:麻薬取締法として制定
1990年:向精神薬条約批准に伴い現在の名称に改正
2024年12月12日:大麻が「麻薬」として統合される大改正が施行
規制対象となる物質
麻薬
麻薬及び向精神薬取締法における「麻薬」は、同法別表第1に掲げられた物質および大麻を指します。主な規制対象には以下のものが含まれます。
| 分類 | 主な物質 |
|---|---|
| アヘン系 | モルヒネ、コデイン、ヘロイン |
| コカ系 | コカイン、クラック |
| 合成麻薬 | MDMA、LSD、メスカリン |
| その他 | マジックマッシュルーム(シロシビン)、ケタミン |
| 大麻(2024年追加) | THC(テトラヒドロカンナビノール) |
これらは国連の「麻薬に関する単一条約」(1961年)で規制されている物質を中心に、日本独自に追加された物質も含まれています。
向精神薬
「向精神薬」は、同法別表第3に掲げられた物質を指し、主に国連の「向精神薬に関する条約」(1971年)で規制されている物質が対象です。
| 分類 | 主な物質 | 医療用途 |
|---|---|---|
| ベンゾジアゼピン系 | ジアゼパム、トリアゾラム | 抗不安薬、睡眠薬 |
| バルビツール酸系 | フェノバルビタール | 抗てんかん薬 |
| その他 | メチルフェニデート(リタリン) | ADHD治療薬 |
向精神薬は医療で広く使用されるものも多く、麻薬に比べて規制は緩やかですが、不正な取り扱いは禁止されています。
2024年改正による大麻の統合
2024年12月12日の改正法施行により、大麻が麻薬及び向精神薬取締法の「麻薬」に統合されました。具体的には、同法第2条第1号の麻薬の定義に「大麻」が追加され、これにより大麻の所持・譲渡・使用などが麻薬と同様に規制されることになりました。
これまで大麻は「大麻取締法」で規制されていましたが、改正後は「麻薬及び向精神薬取締法」が適用されます。大麻取締法は「大麻草の栽培の規制に関する法律」に改題され、栽培に関する規制のみを担うことになりました(2025年3月1日施行)。
罰則の概要
麻薬に関する罰則
麻薬及び向精神薬取締法では、物質の危険性に応じて異なる罰則が設定されています。
| 行為 | ヘロイン等(第1種) | その他の麻薬 |
|---|---|---|
| 単純所持 | 10年以下の懲役 | 7年以下の懲役 |
| 営利目的所持 | 1年以上の有期懲役 | 1年以上10年以下の懲役 |
| 使用 | 10年以下の懲役 | 7年以下の懲役 |
| 輸入・輸出 | 1年以上の有期懲役(無期懲役の可能性あり) | 1年以上10年以下の懲役 |
大麻に関する罰則(2024年改正後)
大麻が「麻薬」に統合されたことにより、罰則も変更されました。
| 行為 | 改正前(大麻取締法) | 改正後(麻向法) |
|---|---|---|
| 単純所持 | 5年以下の懲役 | 7年以下の懲役 |
| 営利目的所持 | 7年以下の懲役 | 1年以上10年以下の懲役 |
| 使用 | 規定なし(罰則対象外) | 7年以下の懲役 |
| 栽培 | 7年以下の懲役 | 別法(大麻草栽培規制法)で規制 |
特に注目すべきは、これまで罰則の対象外だった大麻の「使用」が、新たに処罰対象となったことです(いわゆる「使用罪」の新設)。
向精神薬に関する罰則
向精神薬は麻薬に比べて規制が緩やかですが、不正な取り扱いには罰則があります。
- 不正譲渡・譲受: 3年以下の懲役
- 営利目的不正譲渡: 5年以下の懲役
なお、向精神薬には「使用罪」がなく、処方に基づく正当な使用は認められています。
2024年12月の法改正
改正の背景
2024年12月12日に施行された「大麻取締法及び麻薬及び向精神薬取締法の一部を改正する法律」は、以下の背景から制定されました。
- 国際的な動向への対応: 諸外国での大麻由来医薬品の承認・使用拡大
- 医療ニーズへの対応: 難治性てんかん等に対する大麻由来医薬品(エピディオレックス等)へのアクセス確保
- 乱用防止の強化: 若年層を中心とした大麻乱用の増加への対策
主な改正内容
1. 大麻の麻薬への統合
大麻(THCを含む)が麻薬及び向精神薬取締法の「麻薬」として位置づけられました。これにより、大麻の所持・譲渡・使用などが麻薬と同様の罰則で規制されます。
2. 使用罪の新設
これまで大麻取締法には「使用罪」がありませんでしたが、改正により大麻の不正な施用(使用)も処罰対象となりました。
3. 罰則の厳罰化
単純所持の罰則が5年以下から7年以下に引き上げられるなど、全体的に厳罰化されました。
4. 大麻由来医薬品の解禁
THCを含む大麻由来医薬品(エピディオレックス、サティベックス等)が、麻薬として厳格に管理された上で医療使用可能となりました。
5. THC残留限度値の設定
CBD製品等に残留するΔ9-THCについて、初めて数値基準が設けられました。
施行日:2024年12月12日
大麻の麻薬統合、使用罪新設、THC残留限度値の設定、罰則強化
施行日:2025年3月1日
大麻草栽培に関する免許制度の変更、大麻取締法の改題
THC残留限度値について
残留限度値の具体的な数値
2024年12月の改正により、製品等に残留するΔ9-THC(テトラヒドロカンナビノール)について、以下の残留限度値が設定されました。
| 製品の形態 | THC残留限度値 |
|---|---|
| 油脂(液体) | 10 ppm(0.001%) |
| 粉末 | 10 ppm(0.001%) |
| 水溶液 | 0.10 ppm(0.00001%) |
| その他のもの | 1 ppm(0.0001%) |
この残留限度値を超えるΔ9-THCを含有する製品は「麻薬」に該当し、所持・譲渡などが禁止されます。
残留限度値の意義
THC残留限度値の設定は、以下の点で重要な意味を持ちます。
-
「部位規制」から「成分規制」への転換: 従来の大麻取締法は大麻草の「部位」(花穂、葉、根など)で規制していましたが、改正後は「THC含有量」という成分ベースの規制に変わりました。
-
CBD製品の明確化: THC残留限度値以下のCBD製品は合法的に流通可能であることが明確になりました。
-
国際基準との整合: 欧米では0.2%〜0.3%のTHC含有量が一般的な基準ですが、日本ではより厳格な基準が採用されました。
CBD製品への影響
合法的なCBD製品の条件
2024年改正後、日本で合法的にCBD製品を取り扱うためには、以下の条件を満たす必要があります。
- THC残留限度値以下: 製品中のΔ9-THC含有量が残留限度値(油脂・粉末は10ppm、水溶液は0.10ppm、その他は1ppm)以下であること
- 成分分析証明書(COA): 第三者機関による分析でTHC含有量が確認されていること
- 正規の輸入手続き: 適法な手続きを経て輸入された製品であること
フルスペクトラム製品の注意点
フルスペクトラムCBD製品には微量のTHCが含まれることがありますが、日本の厳格なTHC残留限度値を満たしていれば合法です。ただし、製品によってはTHC含有量が基準を超える場合があるため、購入前にCOAを確認することが重要です。
1. THC含有量が残留限度値以下であることをCOAで確認
2. 信頼できる販売元から購入
3. 製品の形態に応じた適切な基準(油脂10ppm等)を確認
日本の薬物規制体系
4つの薬物関連法
日本では、薬物の種類に応じて4つの法律で規制を行っています。
| 法律名 | 主な規制対象 |
|---|---|
| 麻薬及び向精神薬取締法 | 麻薬(ヘロイン、コカイン、大麻等)、向精神薬 |
| 覚醒剤取締法 | アンフェタミン、メタンフェタミン |
| 大麻草の栽培の規制に関する法律 | 大麻草の栽培(2025年3月1日〜) |
| あへん法 | あへん、けし |
改正後の法体系
2024年改正により、大麻に関する規制は以下のように再編されました。
- 所持・使用・譲渡など: 麻薬及び向精神薬取締法で規制
- 栽培: 大麻草の栽培の規制に関する法律(旧大麻取締法)で規制
これにより、大麻の取り扱い全般が麻薬と同等の厳格な管理下に置かれることになりました。
よくある質問(FAQ)
麻薬及び向精神薬取締法と大麻取締法の違いは何ですか?
2024年12月12日の改正前は、大麻取締法が大麻の所持・栽培などを規制し、麻薬及び向精神薬取締法はそれ以外の麻薬・向精神薬を規制していました。改正後は、大麻の所持・使用・譲渡などは麻薬及び向精神薬取締法で規制されるようになり、大麻取締法は「大麻草の栽培の規制に関する法律」に改題されて栽培のみを規制するようになりました。
大麻の使用罪はいつから適用されますか?
大麻の使用罪(不正な施用に対する罰則)は、2024年12月12日の改正法施行日から適用されています。これまで大麻取締法には使用罪がなく、大麻を使用しても処罰されませんでしたが、改正後は7年以下の懲役が科される可能性があります。
CBD製品を所持していると違法になりますか?
THC残留限度値(油脂・粉末は10ppm、水溶液は0.10ppm、その他は1ppm)以下のCBD製品であれば、所持は違法ではありません。ただし、THC含有量が残留限度値を超える製品は「麻薬」に該当し、所持は違法となります。購入前に製品の成分分析証明書(COA)を確認することをお勧めします。
向精神薬を医師の処方で使用することは違法ですか?
医師の正当な処方に基づいて向精神薬を使用することは合法です。麻薬及び向精神薬取締法は、医療目的での適切な使用を認めており、処方に従った使用は規制の対象外です。ただし、処方量を超えた使用や、他人への譲渡は違法となります。
海外で合法な大麻製品を日本に持ち込むことはできますか?
いいえ、できません。海外で合法であっても、THC残留限度値を超える大麻製品を日本に持ち込むことは、麻薬の輸入に該当し、厳しく処罰されます(1年以上10年以下の懲役)。海外で購入した製品を日本に持ち込む際は、THC含有量を必ず確認してください。
大麻由来医薬品は日本で使用できるようになりましたか?
2024年12月の改正により、大麻由来医薬品(エピディオレックス等)が日本で医療使用可能となりました。ただし、「麻薬」として厳格に管理された上で、医師の処方に基づいて使用される必要があります。現時点では、これらの医薬品が日本で承認・販売されるまでには、さらなる手続きが必要です。
参考文献
本記事は、以下の法令および公的機関の情報を参考に作成しています。
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