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マリノール(Marinol)とは?合成THC医薬品の効果・副作用・日本での状況

THE ASA MEDIA編集部
12分
マリノール(Marinol)とは?合成THC医薬品の効果・副作用・日本での状況

マリノール(Marinol)とは?合成THC医薬品の効果・副作用・日本での状況

マリノール(Marinol)は、合成テトラヒドロカンナビノール(THC)であるドロナビノールを有効成分とする経口カプセル製剤です。


目次


1985年にアメリカ食品医薬品局(FDA)から承認を受けた最初の合成カンナビノイド医薬品であり、がん化学療法による悪心・嘔吐およびAIDS患者の食欲不振・体重減少の治療に使用されています。

マリノールは、天然大麻ではなく化学合成されたTHC(ドロナビノール)を有効成分とするFDA承認医薬品です。2.5mg、5mg、10mgの3種類のカプセル剤があり、アメリカではSchedule III薬物として処方されています。日本では現時点で未承認ですが、2024年の法改正により、将来的な承認の可能性が開かれました。

マリノールとは

マリノール(Marinol)は、アメリカの製薬会社ソルベー・ファーマシューティカルズ(現アッヴィ)が開発した合成THC製剤です。有効成分のドロナビノール(dronabinol)は、天然大麻に含まれるΔ9-テトラヒドロカンナビノール(THC)と化学的に同一の分子構造を持ちますが、化学合成によって製造されています。

カプセル内では、ドロナビノールがゴマ油に溶解された状態で含有されています。この製剤設計により、脂溶性の高いTHCの吸収が促進され、一定の生物学的利用能が確保されています。

天然大麻との最大の違いは、マリノールがTHCの単一成分のみを含有している点です。天然大麻には100種類以上のカンナビノイドやテルペン類が含まれていますが、マリノールは純粋なTHCのみで構成されており、これにより効果の予測可能性と再現性が高められています。

FDA承認の経緯

1985年

初回承認

化学療法による悪心・嘔吐の治療薬としてFDA承認(Schedule II)

1992年

適応拡大

AIDS患者の食欲不振・体重減少への適応が追加

1999年

規制緩和

Schedule IIからSchedule IIIへ再分類

2016年

後発品承認

ドロナビノールのジェネリック製剤が承認

2017年

新剤形承認

シンドロス(Syndros)として液剤が承認

マリノールは、1985年にFDAから承認された最初の合成カンナビノイド医薬品です。当初は、化学療法による悪心・嘔吐に対して、従来の制吐剤が無効な患者のための治療薬として承認されました。

1992年には、AIDS患者に見られる食欲不振と体重減少(AIDS消耗症候群)の治療への適応が追加されました。この時期、AIDS流行に伴い、効果的な食欲増進剤への医療ニーズが高まっていたことが背景にあります。

注目すべきは、1999年のSchedule変更です。マリノールは当初、コカインやモルヒネと同じSchedule II(乱用の可能性が高い)に分類されていましたが、臨床使用のデータに基づき、依存性や乱用リスクが比較的低いことが認められ、Schedule III(中程度の乱用可能性)へと再分類されました。

適応症

マリノールは以下の2つの適応症に対してFDA承認を受けています。

化学療法誘発性悪心・嘔吐(CINV)

対象患者: 従来の制吐剤に十分な効果が得られないがん患者

治療目的:

  • 化学療法による悪心・嘔吐の予防
  • 二次的な制吐剤として使用

投与タイミング:

  • 化学療法の1-3時間前に投与開始
  • 化学療法後24時間まで継続

有効性:

  • 約70-80%の患者で悪心・嘔吐が改善
  • プラセボに対して有意に優れた効果

AIDS関連食欲不振・体重減少

対象患者: 食欲不振と体重減少を呈するAIDS患者

治療目的:

  • 食欲の刺激と増進
  • 体重減少の抑制

投与方法:

  • 昼食・夕食前に2.5mgずつ投与
  • 効果に応じて増量可能

有効性:

  • 食欲の有意な改善
  • 体重維持または増加傾向
  • 気分の改善報告あり

臨床現場では、マリノールは以下の状態に対して適応外(オフラベル)で使用されることがあります。

  • 閉塞性睡眠時無呼吸症候群(OSA): セロトニン作動性メカニズムを介した上気道筋緊張の改善が示唆されています
  • 慢性疼痛: 特に神経障害性疼痛に対する補助療法として
  • 神経疾患関連の痙縮: 多発性硬化症などに伴う筋痙縮の緩和

ただし、これらの使用は十分なエビデンスに基づいたものではなく、慎重な判断が必要です。

作用機序

マリノールの有効成分であるドロナビノール(THC)は、内因性カンナビノイドシステム(エンドカンナビノイドシステム)に作用することで治療効果を発揮します。

ドロナビノールは、主にカンナビノイド受容体1型(CB1)の部分アゴニストとして作用します。CB1受容体は中枢神経系に広く分布しており、その活性化により食欲増進、制吐作用、鎮痛作用、多幸感などが引き起こされます。CB2受容体への作用は比較的弱いものの、免疫調節作用にも関与している可能性があります。

CB1受容体を介した制吐作用

CB1受容体は、嘔吐中枢である延髄の孤束核や、嘔吐反射に関与する化学受容器引金帯(CTZ)に発現しています。ドロナビノールがこれらの部位のCB1受容体を活性化すると、嘔吐反射を抑制する抑制性Gタンパク質シグナルが発動します。

具体的には、CB1受容体の活性化により神経伝達物質の放出が抑制され、嘔吐中枢への興奮性入力が減少します。これにより、化学療法剤が誘発する悪心・嘔吐が軽減されます。

CB1受容体を介した食欲増進作用

CB1受容体は視床下部の食欲制御中枢にも高密度で発現しています。ドロナビノールがこれらの受容体を活性化すると、食欲促進ホルモンであるグレリンの分泌が促進され、食欲抑制ホルモンであるレプチンのシグナルが抑制されます。

また、中脳辺縁系のドパミン経路を介して、食物摂取に伴う報酬感覚が増強されることも食欲増進に寄与していると考えられています。

薬物動態

パラメータ備考
生物学的利用能10-20%著しい初回通過代謝のため
作用発現時間0.5-1時間空腹時
最高血中濃度到達時間2-4時間個人差あり
半減期4時間(初期相)終末相は25-36時間
タンパク結合率97%以上高度にタンパク質結合
代謝肝臓(CYP2C9, CYP3A4)11-OH-THCが主要代謝物
排泄胆汁(65%)、腎(20%)5日間で大部分排泄

ドロナビノールは経口投与後、消化管から吸収されますが、顕著な初回通過効果により生物学的利用能は10-20%にとどまります。これは、肝臓で広範に代謝されるためです。

主要な代謝経路はチトクロームP450酵素系、特にCYP2C9とCYP3A4を介した酸化です。主要な活性代謝物である11-ヒドロキシ-THC(11-OH-THC)は、親化合物と同等またはそれ以上の精神活性を示します。

脂溶性が高いため、脂肪組織に蓄積される傾向があり、これが終末相の半減期を延長させる要因となっています。高脂肪食と共に服用すると吸収が増加するため、食事条件を一定に保つことが推奨されています。

用法・用量

化学療法誘発性悪心・嘔吐

  • 開始用量: 5mg/m²(体表面積あたり)を化学療法の1-3時間前に投与
  • 維持用量: 化学療法後、2-4時間ごとに同量を1日4-6回投与
  • 最大用量: 1回15mg、1日最大投与回数は4-6回
  • 投与期間: 化学療法終了後24時間まで継続

忍容性に応じて、2.5mg/m²ずつ増量可能です。高齢者や衰弱した患者では、より低用量から開始することが推奨されます。

AIDS関連食欲不振・体重減少

  • 開始用量: 2.5mgを1日2回(昼食・夕食前)
  • 維持用量: 効果と忍容性に応じて調整
  • 最大用量: 10mgを1日2回(20mg/日)
  • 投与タイミング: 食事の30分-1時間前

中枢神経系の副作用が強い場合は、就寝前に1回2.5mgから開始し、徐々に増量する方法もあります。

副作用

マリノールは精神活性物質であるため、中枢神経系への副作用が高頻度で認められます。

副作用発現頻度カテゴリー
めまい≥3%中枢神経系
多幸感(ハイ感)≥3%精神症状
妄想反応≥3%精神症状
傾眠≥3%中枢神経系
異常思考≥3%精神症状
腹痛≥3%消化器系
悪心≥3%消化器系
嘔吐≥3%消化器系

精神神経系副作用

マリノールの最も顕著な副作用は精神神経系への影響です。THCの精神活性作用により、多幸感、不安、妄想反応、幻覚、離人感、思考障害などが生じる可能性があります。これらの症状は用量依存的であり、高用量使用時や感受性の高い患者で発現しやすい傾向があります。

特に注意が必要なのは、精神疾患の既往がある患者です。統合失調症や双極性障害の患者では、マリノール使用により症状が悪化する可能性があるため、慎重な投与判断が求められます。

心血管系副作用

THCは心血管系にも影響を及ぼし、起立性低血圧、頻脈、顔面紅潮などを引き起こす可能性があります。心疾患の既往がある患者、特に心筋梗塞や不整脈の既往がある場合は、使用に際して十分な注意が必要です。

禁忌:

  • ドロナビノールまたはゴマ油に対する過敏症

慎重投与:

  • 心疾患の既往(不整脈、心筋梗塞など)
  • 精神疾患の既往(統合失調症、双極性障害など)
  • 薬物乱用の既往
  • 肝機能障害
  • 高齢者

妊娠・授乳:

  • 妊婦への使用は推奨されない
  • 授乳中の使用は避けるべき(母乳移行あり)

薬物相互作用

ドロナビノールはCYP2C9およびCYP3A4で代謝されるため、これらの酵素に影響を与える薬剤との相互作用が問題となります。

CYP阻害剤との相互作用

CYP2C9阻害剤(フルコナゾール、アミオダロンなど)やCYP3A4阻害剤(ケトコナゾール、クラリスロマイシン、グレープフルーツジュースなど)は、ドロナビノールの血中濃度を上昇させ、副作用のリスクを高める可能性があります。

CYP誘導剤との相互作用

逆に、CYP3A4誘導剤(リファンピシン、フェニトイン、カルバマゼピンなど)は、ドロナビノールの代謝を促進し、効果を減弱させる可能性があります。

高タンパク結合性薬剤との相互作用

ドロナビノールは97%以上がタンパク質に結合しているため、同様に高タンパク結合性を示す薬剤(ワルファリンなど)と競合し、遊離薬物濃度に影響を与える可能性があります。ワルファリン使用患者では、INRのモニタリングを強化する必要があります。

天然大麻との比較

マリノール(合成THC)

成分: 純粋なTHC(ドロナビノール)のみ

投与経路: 経口(カプセル)

効果発現: 0.5-1時間

利点:

  • 用量の正確な管理が可能
  • 品質が一定(GMP製造)
  • 法的に処方可能(米国)
  • Schedule III(比較的入手しやすい)

欠点:

  • 効果発現が遅い
  • アントラージュ効果なし
  • 精神活性副作用が目立つ場合あり

天然大麻

成分: THC、CBD、CBN、テルペン類など多成分

投与経路: 吸入、経口、外用など多様

効果発現: 吸入で数分、経口で30分-2時間

利点:

  • アントラージュ効果による相乗作用
  • 投与経路の選択肢が多い
  • CBDが副作用を緩和する可能性

欠点:

  • 成分含有量にばらつき
  • 品質管理が困難
  • 法的地位が国・地域により異なる

研究によると、一部の患者では天然大麻の方がマリノールよりも症状緩和に優れていると報告しています。これは、天然大麻に含まれる複数のカンナビノイドやテルペン類が相乗的に作用する「アントラージュ効果」によるものと考えられています。

一方、マリノールの利点は、用量の正確な管理と品質の一貫性にあります。医療現場では、効果の予測可能性と再現性が重要であり、この点でマリノールは優れています。

日本での状況

現在の承認状況

日本では、マリノール(ドロナビノール)は2025年1月時点で未承認です。THCは麻薬及び向精神薬取締法により麻薬として規制されており、合成THCであるドロナビノールも同様の規制対象となります。

2024年法改正の影響

2023年12月

法改正成立

大麻取締法・麻向法の改正案が国会で可決

2024年12月12日

改正法施行

大麻由来医薬品の使用が法的に可能に

今後

承認可能性

THC含有医薬品の承認申請が法的に可能に

2024年12月12日に施行された改正大麻取締法により、大麻草由来医薬品の製造・使用が法的に可能となりました。この法改正により、THCを含有する医薬品についても、適切な手続きを経れば日本での承認申請が可能な環境が整いました。

ただし、THC含有医薬品の承認には、日本人を対象とした臨床試験データや、厳格な品質管理体制の確立など、多くのハードルが存在します。マリノールのような合成THC製剤が日本で承認されるかどうかは、今後の製薬会社の判断と厚生労働省の対応次第です。

日本では、化学合成されたTHCに限り、麻薬研究者による医療用麻薬としての研究が許可制で認められています。これは大麻草由来のTHCとは異なる規制枠組みであり、合成THCを用いた研究は法的に可能です。ただし、臨床使用のためには医薬品としての承認が必要です。

FAQ

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