国連麻薬単一条約(1961年)とは?大麻の国際規制と2020年の歴史的変更

国連麻薬単一条約(1961年)は、大麻を含む麻薬の国際的な規制を定めた画期的な条約です。この条約により、大麻は初めて国際法のもとで規制対象となり、その後60年以上にわたって世界各国の大麻政策に影響を与え続けてきました。
2020年には、WHOの勧告に基づき大麻が「最も危険な薬物」を指定する附表IVから削除されるという歴史的な変更がありました。ここでは、条約の成立背景から現在の国際規制体制、そして日本への影響までを解説します。
1961年の条約で大麻が初めて国際的な規制対象となった経緯がわかる
附表I〜IVの分類システムと大麻の位置づけを理解できる
2020年の歴史的な附表IV削除決定の意義が把握できる
目次
国連麻薬単一条約とは?
条約の概要
国連麻薬単一条約(Single Convention on Narcotic Drugs, 1961)は、麻薬の乱用を防止し、医療・研究目的以外での生産・供給を禁止するための国際条約です。1961年にニューヨークで開催された国連会議で採択され、現在180カ国以上が締約国となっています。
この条約は、それまで存在していた複数の国際麻薬条約を一つに統合し、より包括的な国際薬物統制体制を確立しました。大麻、アヘン、コカインとその派生物(モルヒネ、ヘロイン、コカインなど)が主な規制対象となっています。
1961年採択、現在180カ国以上が締約
複数の既存条約を統合した包括的な薬物統制条約
大麻、アヘン、コカインとその派生物を規制
条約の目的と仕組み
条約の主な目的は、麻薬の医療・科学目的での使用を確保しつつ、乱用と不正取引を防止することです。締約国は以下の義務を負います。
- 規制対象物質の生産、製造、輸出入、流通、取引、使用、所持を医療・科学目的に限定する
- 薬物の推定需要量を毎年国連に報告する
- 条約違反に対する刑事罰を国内法で定める
- 薬物犯罪者の処遇と社会復帰のための措置を講じる
条約の実施を監督するのは、国連麻薬委員会(CND: Commission on Narcotic Drugs)と国際麻薬統制委員会(INCB: International Narcotics Control Board)です。
条約成立の歴史的背景
国際麻薬条約の発展
国際的な薬物規制の歴史は、1909年の上海阿片委員会に遡ります。その後、1912年のハーグ阿片条約、1925年・1931年・1936年の各ジュネーブ条約など、複数の国際条約が締結されました。
しかし、これらの条約は個別に成立したため、規制内容が重複したり、矛盾したりする問題がありました。第二次世界大戦後、国際連合は既存の条約を統合し、より効率的な薬物統制体制を構築する必要性を認識しました。
1948年から条約統合作業が開始され、13年の議論を経て、1961年に73カ国が参加した国連会議で「麻薬に関する単一条約」が採択されました。
大麻規制の導入
単一条約以前の国際条約は、主にアヘンとコカを規制対象としていました。1961年の単一条約で、大麻(Cannabis)が初めて国際的な規制対象に加えられました。
大麻が規制対象となった背景には、1930年代のアメリカでの「大麻狂気(Reefer Madness)」キャンペーンや、エジプトなど一部の国からの強い働きかけがありました。当時、大麻の薬理作用や健康影響に関する科学的研究は限られており、THC(テトラヒドロカンナビノール)が大麻の主要な精神活性成分として同定されたのは、条約採択後の1964年のことでした。
附表(スケジュール)システム
4つの附表
単一条約は、規制対象物質を4つの附表(スケジュール)に分類しています。
| 附表 | 特徴 | 主な物質 |
|---|---|---|
| 附表I | 乱用の可能性があり依存性を生じる物質 | モルヒネ、コデイン、メサドン、大麻 |
| 附表II | 医療用途が広く、依存性が比較的低い物質 | コデイン含有製剤 |
| 附表III | 医療用製剤として規制が緩和される物質 | 希釈されたコカイン製剤など |
| 附表IV | 特に有害で医療価値が限定的な物質 | ヘロイン、(旧)大麻 |
附表IVは附表Iの厳格なサブセットであり、「特に有害でかつ医療的・治療的価値が非常に限定される」物質が指定されます。
附表の変更手続き
物質の附表間の移動(スケジュール変更)は、世界保健機関(WHO)の勧告に基づき、国連麻薬委員会(CND)の投票によって決定されます。WHOの専門家委員会(ECDD: Expert Committee on Drug Dependence)が科学的評価を行い、勧告を作成します。
この手続きにより、新たな物質を規制対象に追加したり、既存物質の規制レベルを変更したりすることが可能です。
大麻の規制:なぜ最も厳しい分類に?
科学的根拠の欠如
1961年の条約採択時、大麻は附表Iと附表IVの両方に分類されました。これは、大麻がヘロインと同等の「最も危険な薬物」として位置づけられたことを意味します。
しかし、この分類は科学的な評価に基づいたものではありませんでした。大麻の健康リスクを客観的に評価する国際的な科学審査は、2018年まで行われていませんでした。50年以上にわたり、大麻は「誤ってスケジュールが指定された」状態にあったと批判されています。
大麻の主要な精神活性成分であるTHC(Δ9-テトラヒドロカンナビノール)が初めて分離・同定されたのは1964年、イスラエルのラファエル・メコーラム博士らによる研究でした。つまり、1961年の条約採択時には、大麻の薬理作用の科学的理解は非常に限られていたのです。
政治的背景
大麻の厳格な規制には、科学的根拠だけでなく政治的要因も影響していました。1930年代のアメリカでは、連邦麻薬局長官ハリー・アンスリンガーが大麻の危険性を誇張するキャンペーンを展開しました。
また、国際会議においては、エジプトなどのアラブ諸国が大麻の厳格な規制を強く主張しました。一方、インドなどは伝統的な大麻使用を考慮して緩やかな規制を求め、議論は複雑化しました。
国際薬物政策への批判
2011年、元国連事務総長コフィ・アナンらが参加する「薬物政策国際委員会(Global Commission on Drug Policy)」は、1961年の条約に始まる「薬物戦争」が失敗に終わったと宣言しました。
委員会は、大麻やコカの葉が現在の科学的知見に照らして「誤ってスケジュール指定されている」と指摘し、薬物政策の抜本的見直しを求めました。
2020年の歴史的変更:附表IV削除
WHOの勧告
2018年、WHOの専門家委員会(ECDD)は初めて大麻の包括的な科学的評価を実施しました。この評価に基づき、2019年にWHOは以下の勧告を行いました。
- 大麻と大麻樹脂を附表IVから削除する
- 純粋なCBD(カンナビジオール)を国際薬物統制条約の規制対象外とする
- THC含有量0.2%以下の大麻製剤を附表Iから削除する
これらの勧告は、大麻の医療的価値を認め、過度に厳格な規制を緩和することを目的としていました。
2020年12月2日の歴史的投票
2020年12月2日、国連麻薬委員会(CND)の第63回会合で、WHOの勧告に関する投票が行われました。
最も注目されたのは、大麻と大麻樹脂を附表IVから削除する勧告でした。結果は以下の通りでした。
- 賛成: 27カ国
- 反対: 25カ国
- 棄権: 1カ国
わずか2票差という僅差でしたが、大麻は約60年ぶりに「最も危険な薬物」リストから削除されました。
賛成した主な国
アメリカ、イギリス、ドイツ、フランス、イタリア、オーストラリア、カナダ、南アフリカなど
反対した主な国
日本、中国、ロシア、パキスタン、エジプト、ナイジェリア、ブラジルなど
削除の意義と限界
附表IVからの削除は、国連として大麻の医療的価値を認めたことを意味する象徴的な決定でした。しかし、大麻は依然として附表Iに残っており、実質的な法的義務に大きな変化はありません。
条約上、附表IVの物質に対して附表I以上の追加規制を課す義務はないため、この変更は各国の国内法に直接影響を与えるものではありません。しかし、医療用大麻の研究や使用を進めようとする国にとって、国際的な正当性を得る上で重要な意味を持ちます。
日本と国連麻薬単一条約
日本の加盟経緯
日本は1961年7月に条約に署名し、1964年7月に批准書を寄託しました。条約は同年12月に日本について発効しています。
日本の大麻取締法(1948年制定)は、条約採択以前から存在していましたが、条約加盟により国際的な義務を負うことになりました。
2020年投票における日本の立場
2020年のCND投票において、日本は大麻の附表IV削除に反対票を投じました。
日本政府は以下の理由を述べています。
- 大麻の医療目的使用についてさらなる調査が必要
- 嗜好品目的での使用は若者を中心に健康や社会に悪影響をもたらす
- 国内の薬物乱用防止政策との整合性
日本は、条約改正が国内の大麻政策に影響を与えることを懸念していました。
2024年改正大麻取締法との関係
2024年12月12日に施行された改正大麻取締法では、大麻由来医薬品の使用が解禁されました。これは、国連条約が医療・科学目的での使用を認めていることと整合的です。
一方で、THCを含む大麻製品の規制は維持されており、嗜好目的での使用は引き続き禁止されています。また、新たに「大麻使用罪」が設けられ、使用行為自体が処罰対象となりました。
よくある質問(FAQ)
単一条約と向精神薬条約の違いは何ですか?
1961年の麻薬単一条約は、主に植物由来の麻薬(アヘン、コカイン、大麻)を規制対象としています。一方、1971年の向精神薬に関する条約は、アンフェタミン、バルビツール酸系薬物、ベンゾジアゼピン系薬物など、主に合成された向精神薬を規制しています。THC(大麻の主成分)は、植物としての大麻とは別に、1971年の条約で規制されています。
条約から脱退することはできますか?
条約には脱退規定があり、締約国は所定の手続きにより条約から脱退することが可能です。ただし、主要国が条約から脱退すれば国際的な薬物統制体制が弱体化する恐れがあるため、脱退は現実的な選択肢とは見なされていません。カナダのような大麻合法化国も、条約を脱退せずに国内法を改正しています。
大麻合法化国は条約違反ではないのですか?
厳密に言えば、嗜好用大麻を合法化している国(カナダ、ウルグアイなど)は条約の義務に違反しています。しかし、国連は条約違反に対する強制的な制裁措置を持っておらず、実際には各国の政策判断が尊重されています。国際麻薬統制委員会(INCB)は合法化国に対して懸念を表明していますが、それ以上の措置は取られていません。
2020年の変更後、大麻はどの附表に分類されていますか?
2020年12月の投票により、大麻と大麻樹脂は附表IVから削除されましたが、附表Iには引き続き掲載されています。つまり、大麻は依然として「乱用の可能性があり依存性を生じる物質」として国際的に規制されていますが、「特に有害で医療価値がない」物質という位置づけからは外れました。
CBDは条約の規制対象ですか?
2020年のWHO勧告では、純粋なCBD(カンナビジオール)を国際薬物統制条約の規制対象外とすることが提案されました。この勧告は国連麻薬委員会で採択され、CBD自体は条約上の規制対象ではないことが確認されました。ただし、各国の国内法による規制は別途適用される場合があります。
参考文献
本記事は、以下の学術文献および公的機関の情報を参考に作成しています。
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