ディスティレーション(蒸留)とは?CBD純度90%以上を実現する精製技術

ディスティレーション(蒸留)とは?CBD純度90%以上を実現する精製技術
ディスティレーション(Distillation、蒸留)とは、各化合物の沸点の違いを利用して混合物から特定の成分を分離・精製する技術です。CBD産業においては、粗抽出オイル(クルードオイル)から不純物を除去し、カンナビノイド純度90%以上の「ディスティレート」を製造するために不可欠な工程となっています。真空条件下で蒸留を行うことで、熱に敏感なカンナビノイドの分解を防ぎながら、医薬品グレードの高純度製品を生産することが可能です。
ディスティレーションは、物質ごとに異なる沸点(蒸発温度)を利用した分離技術です。CBDの沸点は大気圧下で約438℃(165〜180℃で蒸発開始)と非常に高いため、0.001〜1mbarという高真空下で蒸留を行い、実際の操作温度を130〜180℃に抑えます。これにより熱分解を防ぎつつ、カンナビノイド純度90〜99%の高品質ディスティレートが得られます。
蒸留の基本原理
蒸留とは、混合物を加熱して各成分を順番に気化させ、その蒸気を冷却して再び液体として回収するプロセスです。異なる物質は異なる温度で沸騰するため、温度を段階的に上げていくことで、各成分を分離することができます。
カンナビノイドの沸点
カンナビノイド蒸留では、各成分の沸点差を利用して分離を行います。大気圧下でのTHCの沸点は約408℃、CBDは約438℃と推定されています。しかし、これほどの高温では熱分解が起こるため、真空技術が不可欠となります。
| 成分 | 沸点(大気圧) | 蒸留温度(真空下) | 特徴 |
|---|---|---|---|
| テルペン類 | 150〜200℃ | 60〜100℃ | 最初に蒸発、香りの成分 |
| THC | 約408℃ | 155〜160℃ | CBDより先に蒸発 |
| CBD | 約438℃ | 165〜180℃ | 主要ターゲット成分 |
| ワックス・脂質 | 300℃以上 | 蒸発せず | 残渣として除去 |
真空の役割
大気圧下でカンナビノイドを蒸留すると、高温による熱分解や酸化が起こります。真空環境を利用することで、沸点を大幅に下げることができます。例えば、0.005mmHg(約0.0007mbar)の高真空下では、大気圧換算温度(AET)475℃の物質を実際には160℃程度で蒸留することが可能です。
真空蒸留の主な利点として、低温での操作によりカンナビノイドの熱分解を防止できること、酸素が除去されることで酸化反応が抑制されること、そして有効成分の純度と収率が向上することが挙げられます。
蒸留方式の種類
CBD産業では主に2種類の蒸留方式が使用されています。それぞれに特徴があり、生産規模や求める品質によって使い分けられています。
ショートパス蒸留(Short Path Distillation: SPD)
ショートパス蒸留は、蒸気の移動距離が非常に短い蒸留方式です。加熱部から凝縮部までの距離が短いため、「ショートパス(短経路)」と呼ばれています。
ショートパス蒸留のメリット
- 比較的シンプルな構造で低コスト
- 小〜中規模生産に適している
- バッチ処理で品質管理が容易
- 初期投資が抑えられる
- 研究開発や少量生産向き
ショートパス蒸留のデメリット
- 熱暴露時間が10〜60分と長い
- 大量生産には効率が悪い
- バッチごとの処理が必要
- オペレーターの技術に依存
- 熱劣化リスクがやや高い
ショートパス蒸留システムでは、一般的にジャケット温度160℃、絶対圧力0.005mmHgという条件で操作を行います。丸底フラスコに原料オイルを入れ、回転させながら加熱し、蒸気を冷却器で凝縮させて回収します。
ワイプドフィルム蒸留(Wiped Film Distillation: WFD)
ワイプドフィルム蒸留(薄膜蒸留)は、原料を加熱された円筒壁面に薄い膜として広げ、ワイパーブレードで連続的に撹拌しながら蒸留を行う方式です。業界では「分子蒸留」とも呼ばれています。
ワイプドフィルム蒸留のメリット
- 熱暴露時間がわずか1〜3分
- 連続運転による高スループット
- 自動化・無人運転が可能
- 均一な熱処理で高品質
- 大規模商業生産に最適
ワイプドフィルム蒸留のデメリット
- 設備コストが高い
- 複雑な機構でメンテナンス必要
- 小規模生産には過剰設備
- 専門的な技術者が必要
- 初期投資が大きい
ワイプドフィルム蒸留の最大の強みは、熱暴露時間の圧倒的な短さです。原料が加熱面に接触している時間がわずか1〜3分であるため、熱に敏感なカンナビノイドやテルペンの劣化を最小限に抑えることができます。2023年の研究では、供給流量35Hz(41.6mL/分)、内部凝縮温度75℃という最適条件が報告されています。
蒸留の工程フロー
CBD製品を製造する場合、蒸留は抽出プロセスの最終段階に位置します。高品質なディスティレートを得るためには、前処理工程も重要な役割を果たします。
エタノールまたはCO2抽出法で大麻・ヘンプから粗抽出オイル(クルードオイル)を取得。カンナビノイド純度は50〜70%程度。
クルードオイルをエタノールに溶解し、-20℃以下で24〜48時間冷却。ワックス、脂質、クロロフィルを析出・濾過して除去。
100〜130℃で加熱し、酸性型カンナビノイド(CBDA、THCA)を活性型(CBD、THC)に変換。
AET 300℃でテルペン類と軽質成分を分離。残渣にはカンナビノイドと重質成分が含まれる。
AET 500℃でカンナビノイドを気化・回収。ワックスや重質トリグリセリドは残渣として残る。
HPLCやGC-MSでカンナビノイド含有量と純度を分析。最終製品として出荷。
ツーカット(2段階)プロセス
商業的な蒸留では通常、2回のパス(ツーカット)を行います。第1カットでは低沸点のテルペンや残留溶媒を除去し、第2カットでカンナビノイドを精製します。
第1パスでは、蒸発温度を比較的低く設定し(AET約300℃)、テルペン類や揮発性化合物を「ディスティレート(留出液)」として回収します。このテルペン画分は別途利用されることもあります。
第2パスでは、第1パスの残渣(カンナビノイド濃縮物)を再度蒸留にかけます。より高い温度設定(AET約500℃、実操作温度160〜180℃)でカンナビノイドを気化させ、高純度ディスティレートとして回収します。
ディスティレートの品質グレード
蒸留の条件や回数によって、様々な純度のディスティレートを製造することができます。用途に応じて適切なグレードが選択されます。
| グレード | CBD純度 | 外観 | 主な用途 |
|---|---|---|---|
| 粗ディスティレート | 70〜80% | 琥珀色〜暗黄色 | さらなる精製の原料、低コスト製品 |
| 標準ディスティレート | 80〜90% | 黄金色〜薄黄色 | ティンクチャー、カプセル、エディブル |
| 高純度ディスティレート | 90〜95% | 薄黄色〜淡黄色 | ベイプカートリッジ、医療用途 |
| 超高純度ディスティレート | 95〜99% | ほぼ無色透明 | 医薬品原料、アイソレート製造 |
最終的な結晶化工程を経ることで、98%以上の純度を持つCBDアイソレート(結晶粉末)を製造することも可能です。ただし、結晶化はディスティレーションとは異なる精製工程であり、溶媒の冷却再結晶や超臨界流体を用いた分離などの技術が使用されます。
製品用途別の特徴
ディスティレートは、その高純度と安定性から様々な製品形態に加工されます。用途に応じた特徴を理解することで、適切な製品選びが可能になります。
ベイプ製品向け
ベイプカートリッジには90%以上の高純度ディスティレートが使用されます。ワックスや脂質が除去されていることが重要で、これらが残っていると加熱時に有害物質が生成される可能性があります。また、ベイプでは加熱によりデカルボキシレーションが起こるため、酸性型カンナビノイド(CBDA)が含まれていても活性化されます。
経口製品向け
ティンクチャーやカプセルには、デカルボキシレーション済みの80〜90%純度ディスティレートが一般的に使用されます。経口摂取では消化管での代謝を受けるため、必ずしも最高純度である必要はありません。フルスペクトラム製品の場合、テルペンやマイナーカンナビノイドを意図的に残すこともあります。
トピカル(外用)製品向け
クリームやローションなどのトピカル製品には、70〜80%純度のディスティレートやウィンタライズドクルードオイルが使用されることがあります。植物由来のワックスや脂質が天然の保湿成分として機能する場合もあり、必ずしも高純度化が求められないケースもあります。
安全性と品質管理
蒸留プロセスでは、最終製品の安全性を確保するためにいくつかの重要なポイントがあります。
熱分解生成物
高温での蒸留は、カンナビノイドの熱分解を引き起こす可能性があります。特にCBDは高温条件下でΔ9-THCへの異性化やCBDキノン(CBDQ)などの分解生成物を生成することが知られています。真空技術による低温蒸留は、これらの問題を最小化するための重要な対策です。
残留溶媒
エタノール抽出を行った場合、蒸留前に残留溶媒をできる限り除去しておく必要があります。蒸留工程自体でも軽質成分として除去されますが、前処理での脱溶媒が不十分だと、ディスティレートの品質に影響を与える可能性があります。
COA(成分分析証明書)の確認
高品質なディスティレート製品を選ぶ際には、第三者機関によるCOA(Certificate of Analysis)を確認することが重要です。カンナビノイドプロファイル、残留溶媒、重金属、残留農薬、微生物検査の結果が記載されているCOAを提供しているメーカーを選びましょう。
日本市場への影響
日本では2024年12月12日施行の改正大麻取締法により、THC残留限度値が設定されました。これにより、CBD製品に許容されるTHC含有量が明確化され、蒸留技術による精製がますます重要になっています。
高精度の蒸留技術は、THCとCBDを効果的に分離し、法定基準を満たす製品を製造するために不可欠です。特に、THCフリーの「ブロードスペクトラム」や「アイソレート」製品の製造には、多段階の蒸留と精製プロセスが必要となります。
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