CBDのてんかん治療効果 - エピディオレックスの臨床データで見る発作抑制のエビデンス

**CBD(カンナビジオール)**が医療分野で最も確立された効果を示しているのが、難治性てんかんの発作抑制です。2018年にFDA(米国食品医薬品局)が承認したCBD医薬品「エピディオレックス(Epidiolex)」は、従来の薬が効かない重症てんかん患者に新たな希望をもたらしました。
CBDは難治性てんかんの発作を39-43%減少させることが複数の臨床試験で証明されています
FDA承認のエピディオレックスは、ドラベ症候群とレノックス・ガストー症候群に高い効果を示しました
副作用は管理可能で、従来の治療が効かない患者に新たな選択肢を提供しています
研究概要:画期的な臨床試験結果
主要な発見: CBDはドラベ症候群患者の発作頻度を平均39-43%減少させました
レノックス・ガストー症候群: 発作頻度を平均37-42%減少
FDA承認: 2018年に大麻由来成分として初の医薬品承認を取得
エビデンスレベル: 複数のランダム化二重盲検プラセボ対照試験(RCT)により検証された最高レベル
てんかんとは?基本知識

てんかんの定義と症状
**てんかん(Epilepsy)**は、脳の神経細胞が過剰に興奮することで繰り返し発作が起きる神経疾患です。
主な症状
意識消失
けいれん(全身または部分的)
異常な感覚や行動
発作後の混乱・疲労
難治性てんかんとは
**難治性てんかん(Treatment-Resistant Epilepsy)**とは、2種類以上の抗てんかん薬を適切に使用しても発作が抑制できないてんかんを指します。
てんかん患者の約30%が難治性に分類されます
従来の治療法では効果が不十分で、患者と家族のQOL(生活の質)が大きく低下します
エピディオレックス:FDA承認の画期的CBD医薬品
エピディオレックスの基本情報
| 項目 | 詳細 |
|---|---|
| 一般名 | カンナビジオール(CBD) |
| 商品名 | エピディオレックス(Epidiolex) |
| 製造元 | Greenwich Biosciences(GWファーマシューティカルズ) |
| FDA承認 | 2018年6月(アメリカ初のCBD医薬品) |
| 適応症 | ドラベ症候群、レノックス・ガストー症候群(2歳以上) |
| 形態 | 経口液剤(100mg CBD/mL) |
承認の意義
初のCBD医薬品: 大麻由来成分の医薬品として初の承認
厳格な臨床試験: 複数のRCTによるエビデンス確立
医療大麻議論への影響: CBDの医療効果を公的に認証
患者への希望: 従来の治療法が効かない患者に新たな選択肢
臨床試験データ①:ドラベ症候群への効果

ドラベ症候群とは
**ドラベ症候群(Dravet Syndrome)**は、乳児期に発症する重症てんかんの一種です。
生後1歳までに発症
頻繁で長時間のけいれん発作
知的発達の遅れ
従来の抗てんかん薬が効きにくい
発作による突然死のリスク
主要臨床試験:GWPCARE1試験
研究デザイン
参加者: 2-18歳のドラベ症候群患者 120名
方法: ランダム化二重盲検プラセボ対照試験
期間: 14週間
用量: CBD 20mg/kg/日 vs プラセボ
主要評価項目: けいれん発作の頻度変化
結果
| 指標 | CBDグループ | プラセボグループ | 差 |
|---|---|---|---|
| 発作頻度減少率 | 39%減少 | 13%減少 | 26ポイント差 |
| 発作50%以上減少した患者割合 | 43% | 27% | 16ポイント差 |
| 発作ゼロを達成した患者割合 | 5% | 0% | - |
統計的有意性: p < 0.01(非常に強いエビデンス)
追加試験:GWPCARE1B試験
より高用量(CBD 40mg/kg/日)でも追加試験が行われました。
発作頻度は38%減少(20mg/kgとほぼ同等)
高用量群で副作用がやや増加
結論: 20mg/kg/日が最適用量
臨床試験データ②:レノックス・ガストー症候群への効果
レノックス・ガストー症候群とは
**レノックス・ガストー症候群(Lennox-Gastaut Syndrome / LGS)**は、小児期に発症する重症てんかんです。
2-6歳で発症
複数の発作タイプ(転倒発作、強直発作など)
認知機能の低下
治療が非常に困難
主要臨床試験:GWPCARE3試験
研究デザイン
参加者: 2-55歳のLGS患者 171名
方法: ランダム化二重盲検プラセボ対照試験
期間: 14週間
用量: CBD 20mg/kg/日 vs プラセボ
主要評価項目: 転倒発作(drop seizure)の頻度
結果
| 指標 | CBDグループ | プラセボグループ | 差 |
|---|---|---|---|
| 転倒発作減少率 | 43.9%減少 | 21.8%減少 | 22.1ポイント差 |
| 発作50%以上減少した患者割合 | 43.9% | 21.8% | 22.1ポイント差 |
| 全発作タイプの総減少率 | 41.2%減少 | 13.7%減少 | 27.5ポイント差 |
統計的有意性: p < 0.01
GWPCARE4試験(高用量比較)
10mg/kg/日と20mg/kg/日の用量比較試験。
10mg/kg/日: 転倒発作37%減少
20mg/kg/日: 転倒発作42%減少
どちらもプラセボより有意に効果的で、用量依存的な効果が確認されました
CBDの発作抑制メカニズム
CBDの抗てんかん作用のメカニズムは完全には解明されていませんが、以下の作用が関与していると考えられています。
GPR55受容体の拮抗作用
GPR55受容体は脳の興奮性を高める働きがあり、てんかん発作に関与しています。CBDはこの受容体をブロックし、過剰な神経興奮を抑制します。
TRPV1チャネルの活性化
**TRPV1(バニロイド受容体)**は、神経細胞の興奮性を調節します。CBDがこのチャネルを活性化することで、発作の閾値を上げる効果があります。
神経保護作用
CBDは脳内の酸化ストレスや炎症を抑制し、神経細胞を保護します。これにより、発作による脳損傷を軽減できます。
アデノシン再取り込みの阻害
CBDはアデノシンという神経伝達物質の再取り込みを阻害し、脳内のアデノシン濃度を上げます。アデノシンは神経活動を抑制する作用があり、抗てんかん効果につながります。
副作用と安全性
主な副作用
臨床試験で報告された主な副作用は以下の通りです。
よくある副作用(10%以上)
眠気(23-36%)
食欲低下(16-31%)
下痢(9-31%)
疲労感(11-13%)
肝酵素の上昇(10-25%)
重篤な副作用(まれ)
重度の肝障害(1-2%)
自殺念慮(< 1%)
安全性プロファイル
ほとんどの患者が治療を継続できる良好な忍容性を示しました
高用量ほど副作用が増加する用量依存的な傾向があります
肝機能モニタリングのため、定期的な血液検査が推奨されます
他の抗てんかん薬との相互作用に注意が必要です
実際の患者への影響:生活の質の改善

発作減少以外の効果
臨床試験では、発作頻度の減少に加えて、以下の改善も報告されています。
患者のQOL向上
発作による救急搬送の減少
発作後の回復時間の短縮
睡眠の質の改善
日常生活活動の向上
家族の負担軽減
介護負担の軽減
不安・ストレスの減少
家族全体の生活の質向上
日本での状況:エピディオレックスの承認状況
日本での未承認
現状: エピディオレックスは日本では未承認(2025年11月時点)
理由: 日本独自の治験が必要で、大麻由来成分への規制的ハードルが存在します
医療大麻としての可能性
**医療大麻**に関しては、2024年12月の大麻取締法改正により条件付き使用が可能になりましたが、実際の処方例はまだ限定的です。
海外の臨床データが日本の承認審査に活用される可能性があります
患者団体からの要望が強まっており、将来的な承認の可能性があります
よくある質問(FAQ)
エピディオレックスは市販のCBDオイルと同じですか?
いいえ、異なります。エピディオレックスは医薬品グレードの純度99%以上のCBDで、厳格な品質管理下で製造されています。市販のCBDオイルは健康食品・サプリメントであり、純度や品質にばらつきがあります。
医療目的には必ず医師の処方が必要です。
市販のCBDオイルでてんかんを治療できますか?
自己判断での使用は避けてください。てんかんは重篤な疾患であり、適切な医療管理が不可欠です。
市販のCBD製品は医薬品ではなく、効果や安全性が保証されていません。必ず医師に相談してください。
CBDでてんかんが完治しますか?
CBDは発作を抑制しますが、てんかんを「完治」させるわけではありません。多くの患者で発作頻度が減少しますが、完全にゼロになるのはまれです。
継続的な治療と医師の管理が必要です。
CBDの抗てんかん作用はどのように働きますか?
CBDは複数のメカニズムを通じて作用します。GPR55受容体の拮抗、TRPV1チャネルの活性化、神経保護作用、アデノシン再取り込みの阻害などが関与していると考えられています。
完全なメカニズムはまだ解明中ですが、複数の経路で脳の過剰な興奮を抑制していると考えられています。
まとめ
CBDのてんかん治療効果は、複数の臨床試験によって科学的に証明されています。ドラベ症候群とレノックス・ガストー症候群という難治性てんかんに対して、発作頻度を約40%減少させる効果が確認されました。
FDA承認のエピディオレックスは、最高レベルのエビデンスに基づいた医薬品です
副作用は管理可能で、ベネフィットがリスクを上回ることが示されています
従来の治療が効かない患者に新たな希望をもたらしています
日本での承認はまだですが、海外の臨床データの蓄積により、今後の医療応用に期待が高まっています。てんかん治療においてCBDは、大麻由来成分の医療応用における最大の成功例となっています。
参考文献
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Trial of Cannabidiol for Drug-Resistant Seizures in the Dravet Syndrome Devinsky O, et al. (2017). New England Journal of Medicine, 376: 2011-2020. https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa1611618
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Cannabidiol in patients with seizures associated with Lennox-Gastaut syndrome (GWPCARE4): a randomised, double-blind, placebo-controlled phase 3 trial Thiele EA, et al. (2018). The Lancet, 391(10125): 1085-1096. https://www.thelancet.com/journals/lancet/article/PIIS0140-6736(18)30136-3/fulltext
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FDA approves first drug comprised of an active ingredient derived from marijuana to treat rare, severe forms of epilepsy U.S. Food and Drug Administration (2018). https://www.fda.gov/news-events/press-announcements/fda-approves-first-drug-comprised-active-ingredient-derived-marijuana-treat-rare-severe-forms
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Epidiolex (cannabidiol) oral solution: Prescribing Information Greenwich Biosciences, Inc. (2018). https://www.accessdata.fda.gov/drugsatfda_docs/label/2018/210365lbl.pdf
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Cannabidiol: Pharmacology and potential therapeutic role in epilepsy and other neuropsychiatric disorders Devinsky O, et al. (2014). Epilepsia, 55(6): 791-802. https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/epi.12631


